関口 尚作品のページ


1972年栃木県下都賀郡生、茨城大学大学院人文科学研究科修了。映画館の映写室でバイトをしながら小説を書き始め、2002年「プリズムの夏」にて第15回小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー。07年「空をつかむまで」にて第22回坪田譲治文学賞を受賞。

 
1.
空をつかむまで

2.潮風に流れる歌

  


 

1.

●「空をつかむまで」● ★☆       坪田譲治文学賞




2006年04月
集英社刊

(1800円+税)

 

2008/02/18

 

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市町村合併を記念して開かれることになった地元のトライアスロン大会。
何の因果か、それに参加する羽目になった地元の中学生3人を主人公とする青春+友情+再生ストーリィ。

長谷川優太姫こと岡本暁人モー次郎こと山田幸次郎は、3人限りの美里中学水泳部員。といっても、地元で有望選手の姫のため、残る2人が水泳部に籍を置いてやっているというのがその実情。
その水泳部存続の交換条件として顧問の教師が3人に突きつけてきた課題が、トライアスロン大会へチームで参加し、好成績を残して美里中学の名を記録に残せ、というもの。
おざなりに練習を始めた3人でしたが、強力なライバルが出現する一方、鶴じいという老人がコーチを買って出てくるという按配で、いつしか真摯に練習に励むようになります。
この3人、特に親友という訳でもない。しかし、3人共が各々が問題を抱えているという点で無縁ではない。
優太は得意だったサッカーに挫折、姫はひきこもりの父親という問題を抱え、モー次郎はクラス中から馬鹿にされている存在。

自分の力だけではどうしようもない問題を抱えたとき、どうすればいいのか。
自分の力に自身を持つこと、諦めずに頑張る勇気をもつこと、そして友情により力を合わせる仲間をもつこと。
トライアスロンの練習を通じて3人の少年は、全力を尽くすことの喜びと、友情の大切さを見いだしていく。その点に本作品の清々しさがあります。
その一方で、こうした青春ストーリィにつきもののヒロイン、本書では優太の幼馴染であり、現在は姫と付き合っている藤谷美月がその存在です。
しかし、その美月という存在が正直言って私には邪魔くさい。自分の不安を他所に撒き散らしているだけで、本書の清々しさを損なっているように思えて仕方ない。

最後、予想外の事件が起こりますが、本書が総じて清々しい作品であることに変わりはありません。ただし、上記美月の存在といい、ちとすっきりしない部分があるのを否定できず、感動で胸が熱くなる、という処までは至らず。

 

2.

●「潮風に流れる歌」● ★★




2010年02月
徳間書店刊

(1600円+税)

 

2010/03/21

 

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鎌倉にある高校の3年A組が舞台。
そのクラスには、学校裏サイトがある。その裏サイトでのやりとりが、実質的にクラスの雰囲気を支配する。
その裏サイトで新たに標的とされたのは、何故か授業が終わるとすぐ帰ってしまう鈴本楓
クラスから空気同然のような扱いを受けても、楓は正しく、毅然とした姿を変えることはない。
主人公である秋野律は、そんな楓の姿を見て、勇気を持って一歩を踏み出す。
そんな冒頭の篇から始まる、高校を舞台にした連作短編集。

各篇で入れ替わり主人公となるのは、正しく生きたいと思う律、人のために生きる道を選んだ楓、自分の道をまっすぐに生きる真悟という3人の一方で、自分自身を全てに優先させるクラスの女王=美玲に、自分の道を見失って裏サイト“トリプレア”を開いた生徒。
主人公たちは各々個性的で瑞々しく、ひとつひとつの篇がドラマチックで読み応え有ります。

誰が作り出しているのかも判らない、それが正しいか間違いかを考えることもなく、裏サイトが醸し出す雰囲気に迎合して事なかれで過ごそうとする。そんな生徒たちがこの3年A組。
それに対し、他人の眼にどう映るかではなく、自分はどうしたいのかを第一に、正しい道を歩もうとする生徒たち。
本書は、その2派を対照的に描いた連作短編集。
前者は楽で、後者は苦しいこともある道であるのは明らか。だからこそ多くは前者を選ぶのでしょうけれど、後者を選んだ彼らの姿がとびきり清々しいのもまた明瞭です。

海、風、主人公たちの姿が清々しい、私の好きな高校青春ストーリィ、連作短編集。

   


  

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