沢村 凛
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1963年広島県広島市生、鳥取大学農学部獣医学科卒。91年日本ファンタジーノベル大賞に応募した「リフレイン」が最終候補となり作家デビュー。98年「ヤンのいた島」にて第10回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。


1.
カタブツ

2.脇役スタンド・バイ・ミー

3.ディーセント・ワーク・ガーディアン

 


       

1.

●「カタブツ」● 


カタブツ画像

2004年07月
講談社刊

(1400円+税)

2008年07月
講談社文庫化

 

2009/06/13

 

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地味で生真面目な人々にスポットを当てた、ミステリ風味の短篇集。
生真面目過ぎる主人公たちだからこそ、可笑しくも哀しくもある展開になってしまう。
そんなところが、本短篇集の味わいです。

収録6篇の趣向は様々ですが、「駅で待つ人」「とっさの場合」を除く4篇は恋愛絡み。
私が一番好きなのは、冒頭の「バクのみた夢」
運命的な恋愛で結ばれた道雄沙織里。しかし、運命的な出会いなどあるものではないと折り合いをつけて既に結婚していたことから悩む。他人に迷惑をかけることを嫌う2人は、どちらかが死ぬしかないと最終的に結論づける。それも、事故としか思われないような方法で。さて、その結果は・・・・。
生真面目過ぎる2人に肩入れしたくなり、一方でそんな風に思い詰めてしまっていることが可笑しくもあり・・・好きです。

「無言電話の向こう側」は、ストイックな思考の持ち主に親近感を覚えますが、結局肝心なところで抜けているところに、ほっとする可笑しさあり。

「とっさの場合」は、愛する息子が死ぬ夢を繰り返す見てしまう主婦が主人公。
最後の思わぬ展開には呆気に取られましたが、主人公の選んだ行動には拍手を贈ります。私も気をつけないとなぁ〜。

バクのみた夢/袋のカンガルー/駅で待つ人/とっさの場合/マリッジブルー・マリングレー/無言電話の向こう側

  

2.

●「脇役スタンド・バイ・ミー」● ★★


脇役スタンド・バイ・ミー画像

2009年04月
新潮社刊

(1500円+税)

 

2009/05/30

 

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ごく普通の人々を主人公にした連作ミステリ。
といってもありきたりのミステリとはちょっと一味違う。
ストーリィ構成が面白いのです。

平凡な暮らしを送っている主人公たち。それがふと気づくと事件犯人にされかかっていたり、アリバイ証人になっていたりと、事件に巻き込まれてしまっていることに気付く。
そのために否応なく自ら事件を調べ始める、というのはよくあるパターンなのですが、その後が面白い。
真っ当な市民ならどうするか。判っている材料を抱えて警察へ行く。
こうした展開を踏むミステリは珍しいのではないでしょうか。恒例パターンなら、最後の最後まで単独行動してしまう筈。
本書ではそうならないために、貴重な脇役がいます。
各篇主人公たちの話を受け止めてくれる脇田という刑事の存在。
投げ手がいて受け手がいる。受け手がいるからこそ投げ手になれる。
「脇役スタンド・バイ・ミー」という本書題名は、いつも脇田刑事が控えている、という意味に感じられます。

7篇の中、ストーリィとしては「鳥類憧憬」「聴覚の逆襲」が私は好きです。その一方、本書では各篇主人公のキャラクターの面白さも見逃せません。その点では「迷ったときは」花梨が図抜けていて、「聴覚の逆襲」「裏土間」も愉快。
しかし、この連作ミステリ、それだけでは終わりません。最後の章「脇役の不在」にはただただ呆気にとられるのみ。
市民と警察、相互の信頼はどうすれば得られる?という問題まで考えさせられ、やっと終幕。

単純な連作ミステリに見せかけて、意外に深い味わいを隠している。沢村凛さん、ちと癪な作家です。(笑)

鳥類憧憬/迷ったときは/聴覚の逆襲/裏土間/人事マン/前世の因縁/脇役の不在

        

3.

「ディーセント・ワーク・ガーディアン The Decent Work Guardian」● ★☆


ディーセント・ワーク・ガーディアン画像

2012年01月
双葉社刊

(1700円+税)

2014年12月
双葉文庫化

  

2012/02/17

  

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主人公は労働基準監督署主任監督官
という訳で本作品、お仕事小説であると同時に社会的なストーリィです。
「ディーセント」とは、主人公曰く“真っ当な”という意味。

労働基準監督署と言えば普通、税務署と並んで嫌われる役所でしょう、私のサラリーマン経験からして。
その心は、少なくとも前者は仕方ないと思う他ない役所であるのに対し、後者は余計な役所、というのが一般的な認識でしょう。
その代表者とも言うべき主任監督官をどう描くのか。興味はそこにありますが、仕事が仕事だけに面白く盛り上がるとはとてもいきません。
それでも、嫌われようが何しようがそういう正論もある、とは納得できるところで、それなりに勉強になる内容になっています。

ところが第3話、第5話となると、親友である現職刑事に頼み込まれ、あれれ?という展開。
さらに第6話に至ると、お仕事小説でこんなことがあっていいのか?!と思えるショッキングな出来事が待ち構えていた上に、さらにそれを越える絶体絶命の危機が主人公の身の上に降りかかります。
ミステリ、サスペンスといった彩も加えてそうした面白さもある作品になっていますが、私としては純粋お仕事小説の方が良かったなぁと思う次第。


1.転落の背景/2.妻からの電話/3.友の頼み事/4.部下の迷い/5.フェールセーフの穴/6.明日への光景

    


   

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