佐藤友哉作品のページ


1980年生、北海道千歳市出身、千歳北陽高校卒。フリーターを経て。2001年「フリッカー式−鏡公彦にうってつけの殺人」にてメフィスト賞を受賞し作家デビュー。07年「1000の小説とバックベアード」にて第20回三島由紀夫賞を受賞。


1.
デンデラ

2.
333のテッペン


3.ベッドサイド・マーダーケース

  


    

1.

●「デンデラ Den-Dera」● ★★☆


デンデラ画像

2009年06月
新潮社刊
(1700円+税)

2011年05月
新潮文庫化

   

2009/07/20

 

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全く、何ちゅう小説を書くのか!!の一言。

時代は多分、昔なんでしょう、深沢七郎「楢山節考」の如く70歳を過ぎた老人を山に捨てる(「お山参り」)という風習のある村の話なのですから。
主人公となる斉藤カユ70歳がお山参りを迎え、あとは極楽浄土へ行くばかりと意識を失った筈なのに、目を覚ますと老婆たちに囲まれていた。何とその老婆たち、皆かつてお山参りして死んだ筈の者たち。
聞けば、村から山の反対側となる場所に“デンデラ”という共同体を築き、生き延びてきたのだとか。
捨てられた老婆たちが築いたユートピア物語かと思うと、それはとんだ間違い。
斉藤カユを加えて50人となった老婆たち、かつての「村」を襲撃する計画を立てているというのですから絶句。
しかし、恨みを晴らすの第一という“襲撃派”がいれば、共同体の発展を図るのが第一という“穏健派”もいて、決して一枚岩ではありません。
その中で斉藤カユ、佐藤さんは徹底したアウトサイダーに仕立て上げています。
さあそこで襲撃?というところでとんでもない事態がデンデラに起こります。飢えた羆が、老婆たちを格好の餌として襲いかかっくるという展開。
ろくな武器もなく非力な老婆たちと羆=赤背との、壮絶、いや凄惨な闘いが延々と繰り広げられます。もっとも闘いになっていないというのは当然のこと。
そもそも生きることが難しいからこそ山に捨てられた老婆たち。老婆たちが集まったからといって楽に生きられる訳ではないのは当然のこと、しかし羆まで襲いかかってこようとは。そのうえ、疫病かと思われる症状で、老婆たちがバタバタと倒れていく。
そんな中、生きるために二本足という格好の餌を狙う羆に人格を持たせ、羆撃退の秘策を練る老婆たちとの2者対立の構図は読み応えがあるというか、どんどん引きずり込まれるというか。
でも、老婆たちですよ。最高齢 100歳、一番若くて62歳という。
それなのに活劇エンターテイメントのような羆との闘いという展開に加え、さらにサスペンス要素まで。

時代小説? 社会小説? 活劇エンターテイメント? サスペンス? あらゆる物語要素をまとめてぶち込んで一つの餅に丸めてしまった、というような作品。
ストーリィをネタバラシしたように思われるかもしれませんが、そんなことは決してありません。この程度では本作品への驚きには到底及ばない筈。
追いかけてくる羆の眼前を疾走する老婆の姿、信じ難い光景を目にしたような気分が、本書読了後も中々抜けません。

             

2.
●「333のテッペン Tokyo Mystery Tour」● ★★


333のテッペン画像

2010年11月
新潮社刊
(1500円+税)

  

2010/12/26

  

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東京タワーのテッペンで連続殺人事件?
タワー下のフットタウンにあるみやげ物屋で働くフリーターの主人公=
土江田(とえだ)26歳は、なんだかんだと言いつつ結局は事件に巻き込まれ、苦境に。
そんな時、彼の前に姿を現し彼に救いの手を差し伸ばしたのは、セーラー服姿の女子高生探偵。

ミステリあるいはハードボイルドかと思うのですが、本書、一筋縄ではいきません。ミステリとも、サスペンスとも付きかねるエンターテイメント、という他ありません。。
本書において4つの事件が起き、各々一応の決着はつきますが、犯人の動機や、犯行方法等々、きちんと説明が付けられるわけではなく、ただ主人公が犯人とされるのを免れた、という結果がすべて。
どうもこの主人公、大きな謎を抱えているようなのです。

その辺り、章が進むにつれ次第に明らかになっていくのですが、それに連れてストーリィのスピード感がどんどん上がってくる感じ。
最後に至っても謎が全て解き明かされるという風にはなりませんが、それだからこそか、何となしに惹きつけられるストーリィになっています。
また、一見中学生にも見えるという小柄な女子高生探偵という存在が、非現実的だからこそ面白さを引き立てています。

333のテッペン/444のイッペン/555のコッペン/666のワッペン

      

3.
「ベッドサイド・マーダーケース」 ★☆


ベッドサイド・マーダーケース画像

2013年12月
新潮社刊
(1500円+税)

  

2014/01/23

   

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ふと目が覚めると、横で寝ていた妻の首に何時の間にかナイフが突き立てられ、妻は死んでいた。
この町ではこの17年間に同じような事件が21件も起きていたという−“
連続妊婦首切り殺人事件”。
この町では一体何が起きていたのか。そして、妻を殺された被害者であるその夫たちはどう行動するのか。

余りに衝撃的な事件から始まる本ストーリィですが、恐怖に充ちたサスペンスか、と言うと実はそうではない。
事件は現代ではなく、遠い未来で起きたものであることがやがて読者にも明らかになります。しかしその未来は、何という世界であることか・・・。

想像力をかき立ててのSF小説かというと、確かに架空世界での話ではあるのですが、その架空世界が実は現代日本社会が抱える問題から全く無縁ではないこと、それどころか一つの可能性としてありうるところに、心の底から怖くなる、本書はそんな小説です。
いつもながら佐藤友哉さん、何という小説を書くことか。

第1部 ベッドサイド・マーダーケース/第2部 ベッドタウン・マーダーケース/第3部 ベッドルーム・マーダーケース

   


  

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