佐藤まどか作品のページ


1987年イタリアに渡り奨学金を得てドムスアカデミーデザイン科に入学。卒業後、プロダクトデザイナーとして活躍。2006年「水色の足ひれ」にて第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話部門大賞を受賞し作家デビュー。20年「アドリブ」にて第60回日本児童文学者協会賞・第6回児童ペン賞少年小説賞を受賞。


1.アドリブ 

2.雨の日が好きな人 

3.
少年と悪魔 

 


                    

1.
「アドリブ ad lib ★★★       日本児童文学者協会賞他


アドリブ

2019年10月
あすなろ書房

(1400円+税)



2024/03/09



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「君色パレット」で佐藤まどかさんを知り、その代表作である本作を読んだのですが、予想を超えたもっけもの、でした。

主人公は、離婚してシングルマザー、イタリア・トスカーナ州の小さな町にある日本食レストランで接客係として働く母親と二人暮らしの
ユージ(森祐司)
10歳の時にユージは、フルートと運命的な出会いをします。そのきれいな音に魅了されたユージは、フルートを吹きたいと強く願う。
フルートに触れたこともないというユージでしたが、シエナ市の
フランキジャーナ国立音楽院への入学が許され、名高いサンティーニ教授の指導を受けられることになります。

入学したものの、クラシック音楽の道はとても厳しい。
音楽院には、才能に溢れる一方で自信過剰、性格が悪い、という生徒も入れば、ユージを弟のように可愛がってくれる上級生もいます。
その一方、
前期中等教育校、その後の後期中等教育校の授業・課題は大変で、ユージは音楽院の勉強との両立に苦闘させられ続けます。
しかし、数々の困難を乗り越えて15歳になった時、ユージは究極の選択を迫られます・・・。

音楽院でのクラシック音楽の学びを通じてのユージの成長ストーリー。
何の係累もなく、母子家庭という境遇のユージがひたむきに努力を重ね、前へ前へと進んでいく姿には心打たれるものがありますが、それ以上にワクワクするものがあります。
そんなユージを助けようとしてくれる人も常にいるのですから。

音楽院の生徒たちの成長ストーリーであると同時に、ユージの成長ストーリー。
爽やかで気持ち良く、感動が尽きません。 是非、お薦め。


1.覚悟はできているか?/2.天使の声との出会い/3.入学試験/4.ようこそフルート/5.初めてのレッスン/6.スポットライト/7.敵はソルフェージュ/8.息が昔に、音が音楽に/9.正しく吹けばいいってもんじゃない/10.伴走者を探せ/11.アクシデント/12.競っているのは親なのか/13.ライバルは/14.限界を知る/15.チャンス到来/16.スカラ座第一奏者の迫力/17.たった二日間で/18.分かれ道/19.限界を超える/20.サプライズ/21.五年間ありがとう/22.おまえにバッハはわからない/23.アドリブ/24.オーディション/25.覚悟はできている

                  

2.
「雨の日が好きな人 ★★☆


雨の日が好きな人

2022年10月
講談社

(1400円+税)



2025/12/07



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主人公の七海は、小学六年生。
実父は産まれる前に死去し、ずっと母親と二人きりでしたが、母親が会社の同僚と結婚、新しい父親と2歳上の姉が出来ると喜んでいたのですが・・・。
義姉となった
は生まれつき内臓機能が弱く、ずっと病院暮らしなのだという。義父は会社帰りや土日はいつも病院にいて殆ど家におらず、七海は馴染めないまま。
そして母親までもが幸を心配して病院通いをするようになり、七海のことはまるで放ったらかし。七海は母子家庭だった時よりずっと寂しい思いをしている。
しかも、幸ちゃんに会いたいと何度言っても、未だ会わせてもらえず。

いやはや、これじゃ七海は辛い、可哀想過ぎる。まだ小学生で、それも妹の立場なのですから。
何を言おうと両親に相手にしてもらえないことから、次第に七海のストレスは溜まっていき、ついに親友である
詩乃と喧嘩、さらに問題まで起こしてしまう・・・。

ついに七海は、両親に黙って、病院へ幸を訪ねていく。
そして、我が儘娘だと思っていた幸が、予想とはまるで違った、自分より小さい女の子だったことに驚きます。
それらのことから七海は、幸と、そして親友の詩乃や、同級生の
早坂、北原亮介と関わる中で、人を見かけで判断していはいけない、相手のことを理解しようとすることが大切だということを学びます。

七海の、苦しさを乗り越えての成長ストーリーと言って差し支えないのですが、単純な成長ものに留まらないのは、幸のことを巡って七海がおじさん(義父)と口論する場面があるから。
「おじさんと話し合いしたいからお母さんは黙ってて」と言い、義父に対して堂々と自分の意見を述べる七海の姿が素晴らしい。まさに圧巻の一言です。
この場面だけでも本作を読む甲斐あり、お薦めです。

※なお、題名の
「雨の日が好きな人」とは、幸のこと。雨の日は皆が平等に外で遊べないから好き、という次第。

1.石川くんになる/2.アンラッキー・ラッキー/3.詩乃にはわからない/4.メッセージは来ない/5.おしまいだ!/6.ズル休み/7.幸ちゃん/8.読まなかったメッセージ/9.雨の日はきらい/10.反抗する時がきた/11.わたしたちのヒミツ/12.ドッジボール/13.深い深い眠り/14.ロック解除/15.雨の四重奏/エピローグ

          

3.
「少年と悪魔 ★★☆


少年と悪魔

2025年10月
講談社

(1400円+税)



2025/12/05



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主人公は本郷一輝、12歳
小五の時、母親のまゆみが一輝を置き去りに、金を持って出奔、行方知れず。
それ以来一輝は、借金取りから逃げ回る
要さん(実父らしい)に連れられてあちこちを転々、ホームレスや要さんの一時的なパートナーとなった女性の元に束の間居候する、といった暮らしを続けている。
当然ながら学校にも行けておらず、本来なら中二の筈。

要さんの現在のパートナーは、
綾香さんという女性。子どもが嫌いと言うため、彼女が仕事に出る夜まではいつも外をぶらついて過ごす。食べるものがなく、食を抜くこともいつものこと。

要さんに言われるまま、やりたくないことをすることもあるが、今や要さんは唯一人の家族であり、優しくしてくれることもあるから、従わざるを得ない。
しかし、一輝に盗みまで強要するようになり・・・・。

決してありえないことではない。でも、そうした生活の中で、一輝が正しいこととそうではないこと、優しい気持ちを持ち続けていることが、もう奇跡のように感じられます。
後半に至って、他人から優しい気持ち、一輝を心配する気持ちを示された時から、一輝の頭のなかに別の声が聞こえてくるようになります。
要さんは大切な家族なのか、それとも
“悪魔”なのか。

一輝の境遇は、何と辛いものでしょう。
そんな一輝のことを信じて、気に掛けてくれる人、心配してくれる人がいることが、一輝に道を開いてくれたのだと思います。
一輝の姿に感動は尽きませんが、そんな一輝に声を掛け、心配してくれた人々の存在にも、感動を覚えます。
 お薦め。

0.見えなければ存在しない/1.空腹と彼のうそ/2.甘いささやき/3.つかまりたくない/4.止まっていた時間/5.ラーメン権太/6.スニーカー/7.わるいタイミング/8.最後のお願い/9.花さん/10.捨てられたもの、残ったもの/11.悪魔が追ってくる/11+.それから

        


   

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