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「荒地(あれち)の家族」 ★★ 芥川賞 |
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東日本大震災で変わってしまった日々を生きる人の姿を描くストーリィ。 主人公の坂井祐治は植木職人、40歳。 震災の2年後、妻の晴海を病気で亡くし、今は一人息子で小六の啓太と母=和江との3人暮らし。 晴海を失った痛みを抱えるだけでなく、6年後再婚した知可子も流産の後に黙って家を出て行き離婚に至ったという経緯から、決着がつけられないでいる気持ちもまた抱えています。 そうした祐治が久しぶりに再会したのが、小中時の同級生で因縁のある相手でもある篠原明夫。 酒癖の悪さに愛想を尽かして実家に戻った妻と娘が、そこで海の膨張に巻き込まれ、2人を失ったという悲劇を味わう。 群馬の工場で働いていたが戻ってきて、中古車販売の仕事についているというが、何か病気を抱えているらしい。 理由が災害であろうと病気であろうと、家族を失うという痛みは同じでしょう。しかし、災害は人間の力ではどうしようもないことですが、病気や気持ちのすれ違いはどうにかなったのではないか、という思いを祐治の姿から感じます。 どれだけ考えても後悔しても、現実は元に戻すことはできませんし、痛みを抱えたまま生きていくしかない。 結局、町の姿や景観を復興することができても、人の心まで復興することはできないのだという現実の荒涼感をそこに見出す気がします。 |