佐藤厚志
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1982年宮城県仙台市生、東北学院大学文学部英文学科卒。丸善仙台アエル店勤務。2017年「蛇沼」にて第49回新潮新人賞、20年「境界の円居」にて第3回仙台短編文学賞大賞、22年「荒地の家族」にて 第168回芥川賞を受賞。

  


       

「荒地(あれち)の家族 ★★          芥川賞


荒地の家族

2023年01月
新潮社

(1700円+税)



2023/02/20



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東日本大震災で変わってしまった日々を生きる人の姿を描くストーリィ。

主人公の
坂井祐治は植木職人、40歳。
震災の2年後、妻の
晴海を病気で亡くし、今は一人息子で小六の啓太と母=和江との3人暮らし。
晴海を失った痛みを抱えるだけでなく、6年後再婚した
知可子も流産の後に黙って家を出て行き離婚に至ったという経緯から、決着がつけられないでいる気持ちもまた抱えています。

そうした祐治が久しぶりに再会したのが、小中時の同級生で因縁のある相手でもある
篠原明夫
酒癖の悪さに愛想を尽かして実家に戻った妻と娘が、そこで海の膨張に巻き込まれ、2人を失ったという悲劇を味わう。
群馬の工場で働いていたが戻ってきて、中古車販売の仕事についているというが、何か病気を抱えているらしい。

理由が災害であろうと病気であろうと、家族を失うという痛みは同じでしょう。しかし、災害は人間の力ではどうしようもないことですが、病気や気持ちのすれ違いはどうにかなったのではないか、という思いを祐治の姿から感じます。

どれだけ考えても後悔しても、現実は元に戻すことはできませんし、痛みを抱えたまま生きていくしかない。
結局、町の姿や景観を復興することができても、人の心まで復興することはできないのだという現実の荒涼感をそこに見出す気がします。

           


  

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