学術調査隊に加わって中国へ行く恋人に誘われ、共に中国へ出かけた主人公。現地で恋人とギクシャクしたため行動を別にし、一人で高昌国址へ。
そこはシルクロードが最盛期だった7世紀、仏教文化が花開いた国だった。しかし今は、カラカラに乾いた大地が広がる場所でしかない。
行ったのはいいが帰る手段を得られなかった主人公は、午後8時になっても黙々と唯一人歩き続けるのみ。そこに現れたのは貧しい身なりのハミウリ売り。
ただ水を乞う主人公に、何と彼はわざわざ火を熾し、一杯の茶をご馳走してくれた・・・・。
それをきっかけに茶に魅せられた主人公が、幽玄な茶の世界に足を踏み入れていく様子を連作風に描いた長篇小説。
本書の中には、経済隆盛に浮かれる現代中国ではなく、長久の歴史・文化を築いてきた古来中国の姿が浮かび上がって来ます。
単なる飲み物に過ぎないお茶に、何故中国人はそんなにもこだわるのか。
しかし、ほんの小さな茶碗一杯のお茶から、何と悠遠な時が目の前に広がっていくことでしょうか。主人公がお茶に酔い、夢心地になった時、それはまるでファンタジー世界の中に身を投じたように感じられます。
どこまでが事実か判然としませんし、同じお茶を喫したからといって誰もがそんな夢心地を得られる訳ではないと思いますが、幸いにも読者は本書を通じてその一端に触れることができます。
中国の稀少なお茶にまつわる物語を介して、悠遠な中国の姿に触れることができる名品、是非お薦めです。
ハミウリの微笑/静かな人びと/筏手前/逆さ雨/影を抱く/地霊はささやく/青にまみえる
|