櫻木みわ作品のページ


1978年福岡県生、早稲田大学卒。大学卒業後、タイの現地出版社に勤務、日本人向けフリーペーパーの編集長を務める。その後、東ティモール、フランス、インドネシア等に滞在し、帰国。2016年「ゲンロン 大森望 SF創作講座」を受講。2017年「うつくしい繭」が第1回ゲンロンSF新人賞の最終候補に選出され、18年同作にて作家デビュー。


1.うつくしい繭

2.コークスが燃えている

3.カサンドラのティータイム

 


                   

1.
「うつくしい繭 The Beautiful Cocoon ★★


うつくしい繭

2018年12月
講談社

(1600円+税)



2019/02/28



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僻地といってもよいアジア各地を舞台に描かれた4つのストーリィ。

舞台設定は、非日常的といってもよい土地。ストーリィにはファンタジー要素も入り混じり、異国情緒が漂う。
しかし、そうしたベールをめくりあげれば、そこにいるのはやはり<人>ですし、どう生きていくのか、ということに骨子があると言う点では、現実的な日常を舞台にしたストーリィと特別に変わるところはない、と感じます。

「苦い花と甘い花」:舞台は東ティモール。主人公である少女アニータは、父親を内戦で殺され、祖母と2人暮らし。<声>を聞くことのできるアニータが選んだ道は・・・。
「うつくしい繭」:舞台はラオスの山奥にある保養施設。<コクーン・ルーム>を初体験した主人公がその中で気づいたことは・・・。
「マグネティック・ジャーニー」:舞台は南インド。カミ中瀬の2人が癌の特効薬を求めて踏み込んでいくのは・・・。
「夏光結晶」:舞台は南西諸島の小さな離島。みほ子の実家を訪ねたミサキ、2人が海岸で見つけたものは・・・

4人の選んだ道が正しいかどうか、傍観者がそれを決めることなどできませんが、ストーリィを超えた不思議で蠱惑的な感覚が、何となく快い。


苦い花と甘い花<東ティモール>/うつくしい繭<ラオス>/マグネティック・ジャーニー<南インド>/夏光(かこう)結晶<日本 九州・南西諸島>

                    

2.
「コークスが燃えている ★★☆


コークスが燃えている

2022年06月
集英社

(00円+税)



2022/06/29



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主人公のひの子は39歳の独身女性。
新聞社で校閲の仕事をしていますが、3年間の契約社員という非正規雇用。14歳年下の恋人=
春生とは1年以上前に別れており、両親は既に死去していて孤独の身。今後を考えるととても安穏とはしていられない。
 
そんなひの子が春生と再会し、あろうことか妊娠してしまう。
自分の境遇で子どもを産み育てることができるのかと思うと同時に、産みたいという気持ちがこみ上げてきます。
徳之島に移住した
有里子、かつて弟の子を産むかどうかで騒動を起こした沙穂、いずれもシングルマザーですが、手当たり次第に頼れるものには頼れ、利用できるものは利用しなさいと、真摯にアドバイスしてくれる。
そのおかげで春生と話し合い、母親になるための道を踏み出したひの子でしたが・・・。

本ストーリィでは、春生を除き、男性の存在感が薄いのが特徴。
有里子や沙穂、ひの子の亡母、ひの子が知り会ったエチオピア人女性等々、女性たちが主役と言って良いでしょう。
彼女たちはそれぞれの事情でシングルマザーですが、その運命にひるんだりはしていません。むしろ果敢に生き抜こうと覚悟を決めているようです。
そのために必要なことは、手を取り合い、お互いに助け合うことなのでしょう。
言葉でそう言うのは簡単ですが、本ストーリィにはその現実感が詰まっており、読み手を圧倒してくるかのようです。

ひの子の脳裏にいつもよぎるのは、故郷の筑豊でかつて、お互いに助け合いながら過酷な運命の中を生き抜いていた女性抗夫たちの姿です。本作題名はそこに由来します。

それにしても、病院であっても、ひの子に寄り添うように対応してくれる医師もいれば、事務的に対応する医師もいて、その冷たさには唖然とします。
皆が、母親となる女性に対して優しく、手助けするような社会になれないものかと考えてしまいます。

女性にも、男性にも、お薦め。

                         

3.
「カサンドラのティータイム Cassandras Teatime ★★


カサンドラのティータイム

2022年11月
朝日新聞出版

(1600円+税)



2022/11/21



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スタイリストを目指している戸部友梨奈、夫の故郷で牛肉加工工場のパート働きを始めた安居未知、その2人が嵌ってしまった陥穽を描くストーリィ。

憧れていたスタイリストの事務所にアシスタントとして入ることができ、将来への展望が開けた友梨奈でしたが、メディアで人気となった自称社会学者の手管に嵌り・・・。
一方の未知は、小説家を目指す夫=
彰吾のため、自分のことをさておき夫に尽くしているのですが、機嫌を損ねた彰吾から罵詈雑言を浴びせられることもあり・・・。

この2人が何処でどう関わり合うのだろうかと不思議でしたが、その出会いにはあッと言わせられました。

2人が嵌った陥穽は男性によってもたらされたものであり、女性だから故の真面目さ、弱さを衝かれたものと言えます。
ただし、2人にそれぞれ隙がなかったかと言えば、それはあったと言わざるを得ませんし、常に男性が女性を虐げるというものではなく逆のこともあるでしょう。
しかし、犠牲になるのは女性の側が多い、というのは事実だろうと思います。

題名の
「カサンドラ」とは、人格障害者によって被害者の方が陥ってしまう“カサンドラ症候群”のこと。
とかくこうした場合、被害者は他人に苦しみを打ち明けられず一人で抱え込んでしまいがちですが、語り合える人がいればどんなに救われることでしょう。その意味での「ティータイム」。

人と人が支え合うことの大事さが伝わってくる作品です。

        


   

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