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「雪渡(ゆきわたり)の黒つぐみ」 ★☆ 小説現代長編新人賞 | |
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小説現代長編新人賞を受賞した、忍びもの時代小説、ということで興味を惹かれ読んでみた次第です。 本作の特徴は、 一つに、主人公である南部藩お抱えの忍び<間盗役>の一番衆だという望月景信(17歳)が、これ以上ないというくらい、忍びらしくない忍びであるということ。 もう一つは、舞台が東北の南部藩領という僻地であり、極めてローカル色の強いストーリーとなっていること。 景信、相手が敵方の忍びだろうと、関係のない村娘だろうと、やたら女子に甘く同情してしまうのが常。そんなことで忍びの役を果たせるのかと、読みながら懸念してしまう程。 また、口の悪い上司とのやりとりは方言丸出しで、緊迫感のないことこの上ない。 中央での戦さに縁のなかった地方の忍びとは、こんなにものんびりしてしまうものかと、ついつい感じてしまいます。 なお、その景信のもつ秘技は、“声色(声真似)”と、これまた大人しいもの。 さて、肝心のストーリーは、南部藩内に<伴天連教>の伝道師や信徒が集まっており、その一方で<大眼宗>という謎の宗教集団も入り込んでいるらしい。 その裏に、仙台藩・伊達政宗の画策があるのではないか、というのが南部藩の懸念。 実際、景信の戦いは、仙台藩の忍び<黒脛巾組>を相手に繰り広げられることになります。 予想と異なる趣のストーリーに困惑する思いでしたが、東北地方ではこうした歴史や戦いもあったのだと思うと、興味深い。 ローカル色の濃い処が、本作の読み処と感じます。 プロローグ.神の眼/1.七色の声、枯山を越える/2.北辺の韋駄天、雪原を渡る/3.紺碧の天女、疾風に舞う |