佐原ひかり作品のページ


1992年兵庫県生、大阪大学文学部卒。2017年「ままならないきみ」にて 第190回コバルト短編小説新人賞、19年「きみのゆくえに愛を手で」にて第2回氷室冴子青春文学賞大賞を受賞し、同作を改題・加筆した「ブラザーズ・ブラジャー」にて作家デビュー。


1.ブラザーズ・ブラジャー

2.ペーパー・リリイ

3.人間みたいに生きている 

4.鳥と港 

 


                   

1.
「ブラザーズ・ブラジャー Brother's Brassiere ★★☆  氷室冴子青春文学賞


ブラザーズ・ブラジャー

2021年06月
河出書房新社

(1520円+税)



2021/07/20



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3歳の時から父子家庭のちぐさ、高校一年生が主人公。
ところが突然に父親の
悟くん瞳子という女性を紹介してきたと思ったら、あれよあれよという間に再婚、瞳子とその息子=中三の晴彦という家族が増えることに。
ふと知ってしまったことは、その晴彦がおしゃれだからという理由でブラジャー好き、しかも何枚も持っているとは!
父子家庭である故にずっとスポーツブラで通してきたちぐさ、付き合っている相手もいるしこのままではいけないと、晴彦にブラジャーの買物に付き添いを頼むのですが・・・。

コミカルな家族譚と思う処ですが、いやいや、ブラジャーという小道具に迷わされていけません。
本作はれっきとした、ちぐさと晴彦の青春&成長ストーリィなのです。

友達でも恋人でもない、でもそれよりずっと近い存在。ちょっと前までは全くの他人、でも今は姉弟。
そんなちぐさと晴彦の関係を主軸としている処が、とても良い。
親に言えないでいること、でも同年代の家族?だから言えることもある、言えないで抱えてきたことを遠慮なく批判できる?

友人関係にさえ臆病なところがあるちぐさに対して、晴彦の方がずっと大人、という印象で、これでは姉の立つ瀬がないではないか、と思うのが前半。
ところが、一旦ちぐさが暴走しだすと、ぐいぐい相手の懐に攻め込んで、もう喝采を挙げたい面白さ。

ちぐさと晴彦、それぞれ屈折した出来立ての姉弟ですが、2人のキャラクターが実に良い。
2人の会話がとても魅力てきなのです。

題名だけ見てしまうと、男性読者は手に取るのに躊躇するかもしれませんが、躊躇せず手を伸ばしましょう。 お薦めです。

ブラザーズ・ブラジャー/ブラザーズ・ブルー

                

2.
「ペーパー・リリイ Paper Lily ★★


ペーパー・リリイ

2022年07月
河出書房新社

(1600円+税)



2022/09/19



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結婚詐欺に遭った女性と、結婚詐欺師の娘である女子高生、2人のロードノベル。

野中杏、17歳、「結婚詐欺師のこども」
杏と、杏の養育者である
叔父=京介の住まいであるアパートを突然訪ねて来た女性は、佐々木さんに騙されて3百万円貢いだと言い、キヨエ・38歳と名乗ります。
詐欺師のこどもとしてキヨエを放って置けないと思った杏は、京介が隠していた5百万円を紙袋に突っ込み、キヨエを促してその車で、旅立ちます。
行き先は、かつて京介が見たという、幻の百合が咲く町。
そこから始まる、結婚詐欺に遭った女性と、詐欺師のこどもという2人のロードノベル。

それまでは会ったこともない他人同士、おまけに詐欺の被害者とその加害者側という対極的な関係。それなのに一緒に車で旅に出るなんて、ロードノベルにも色々ありますがかなり珍妙な部類でしょう。
17歳と38歳という年齢差だけではなく、積極的な性格と何事にも慎重な性格の違いも対称的ですし。

しかし、やがて2人に共通する部分があることも分かります。それは、2人がそれぞれ置かれた状況に閉じ込められてしまっている感があること。
2人の行動には、その殻をぶち破りたい、という破壊衝動的な思いがあるのでしょう、きっと。
その意味で、本作は爆走ロードノベルと言うに相応しい。

恵奈津という家出老女、ヨータという成金息子との遭遇も、ロードノベルらしい要素ですが、まさか○○にまで遭遇するとは。
そして最後のオチが愉快。
それを笑って吹き飛ばしてしまえるのは、杏の健全さを表していると言うものでしょう。

爽快、愉快なロードノベル。佐原さん、期待に応えてくれています。

               

3.
「人間みたいに生きている ★★☆


人間みたいに生きている

2022年09月
朝日新聞出版

(1600円+税)



2022/10/02



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最近、居場所探しを題材にした小説が多いように感じます。
ストーリィこそかなり奇妙なものながら、本作もまた居場所探しを描いた作品。

主人公の
三橋唯は高校2年生。家族にも仲の良い同級生にも秘密にしていることなのだが、食べる、咀嚼するという行為が気持ち悪くて仕方ない。無理して一旦は口に入れるものの・・・。
そんなある日、同級生の一人から吸血鬼の噂を耳にした唯は、物を食べずにいられる方法を知りたいと、一人で街外れにある洋館を訪ねていきます。
そこで唯が出会ったのは、袋から血液を飲んでいるイケメン青年の
泉遥真

最近、食べ物によって救われる小説が多い、でも自分にとっては気持ちが悪くて仕方ない、という切り出しが絶妙。確かにそうですし、それをまたばっさり否定してみせるところが痛快。

孤独感にさいなまれていた唯は、それから毎日のように泉が暮らす洋館に通い、沢山の蔵書の中から選んだ本の読書で時間を過ごすようになります。
やっと見つけた自分の居場所。でもそれは、泉と同様に、他人から逃げていることに変わりありません。
本質的に問題を解決するために、唯はどうしたら良いのか。

突拍子もないストーリィ設定ですが、それを除けば、現代社会において同じようなことに苦しんでいる人は多いのでしょう。
LGBTQもその一つだろうと思います。
一方的に決めつけず、相手が苦しんでいることをよく聞き、理解しようとする、そうした社会を築けていけたらと、心から思います。

難しい言葉で語ることなく、面白く愛おしいストーリィを以て語る、その辺りのセンス、バランスがとても良い。
佐原ひかり作品、今後も期待大です。

                

4.
「鳥と港 ★★


鳥と港

2024年06月
小学館

(1700円+税)



2024/06/23



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意味のない仕事、課長からの理不尽なマナー指導に耐えられず、春指みなとは9ヶ月で会社を退職。
再就職活動をする気にもなれず実家でぶらぶらと過ごしていたところ、公園の草むらに埋もれていた郵便ポストを見つけます。その中には一通の手紙が入っていた。
郵便ポストを介して、その手紙の主=あすかと文通を始めたみなとですが、やがて偶然にあすかと出会うことになります。

25歳で無職の春指みなと、ずっと不登校の高二である
森本飛鳥、やがて二人はクラウドファンディングを利用しての“文通屋”を始めることになります。
インターネット上で始めたそのサービスの名前は<
鳥と港>。

そのサービスは順調に行くのか。そして、今為すべきことを持てずにいるみなと、あすか夫々の空虚感をそれは満たすことができるのか。さらにそのサービスは、みなとにとって新たな仕事となりうるのか・・・。

新卒で入社した会社の仕事に挫折、という話は最近多いように感じますし、不登校ということもそう珍しいことではなくなったようです。
無理にその場所に居続けるより、一旦逃れてみることも必要だとは思いますが、そのままで良いかどうかは別の問題。
本作は、そうした二人の、新しい行動に向かって踏み出す姿を描いたストーリー。
当然ながら、様々な問題も起きますし、二人の間に感情的な対立も起こります。

年齢差にとらわれず、互いに手を携えて新しい道を切り開いていこうとする二人の姿が気持ち良い。
読後感は爽快です。

       


   

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