大塚己愛
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2018年「鬼憑き十兵衛(「忽怪の憑」改題)」にて日本ファンタジーノベル大賞2018。また「ネガレアリテの悪魔−贋者たちの輪舞曲−」にて第4回角川文庫キャラクター小説大賞を受賞し、作家デビュー。

  


       

「鬼憑き十兵衛 ★★☆     日本ファンタジーノベル大賞


鬼憑き十兵衛

2019年03月
新潮社

(1500円+税)

2021年12月
新潮文庫



2019/05/06



amazon.co.jp

賞に“ファンタジー”と冠されていても、本作はかなりブタックな内容です。
舞台は改易された加藤家から引き継いだ後の
細川家熊本藩

主人公は
松山十兵衛。細川忠利の剣術指南役であり、十兵衛にとって厳しい剣の師であった松山主水から、実は父だったと知らされた直後、主水は襲撃を受けて暗殺されます。
そこから逃れ得た十兵衛は追手15人を斬り殺した後、暗殺に関わった元加藤藩浪人50人の残りへ、次々と復讐を続けます。
その十兵衛のおかげで復活できたと姿を現したのが、異様に美しい僧姿の
<鬼>「大悲」と自称。その大悲、十兵衛への自分なりの礼だと言い、十兵衛に憑くことを明言します。それが本作題名の所以。

何故主水は暗殺されたのか。本ストーリィは十兵衛の復讐譚であると同時に、その謎解きストーリィにもなっています。
それだけでもかなりブラックな内容ですが、その2人を超え、はるかに妖しい存在として登場するのが前藩主=
三斎(細川忠興)をその肉体で篭絡する妖女=安珠山田風太郎の伝奇小説にいかにも登場しそうな人物です。

それだけなら極めてブラックというだけの内容ですが、さらに不思議な人物が登場します。
それは偶然に十兵衛が救い出すことになった異国の美少女。顔に無残な刀傷、四肢に枷を嵌められ、声も潰されたらしい。
大悲によって彼女は
「紅絹(もみ)」という名を与えられますが、彼女の正体は一体何なのか。何故日本に連れてこられたのか。その辺りも大いなる謎です。

その紅絹が本ストーリィの重要な要素になっていることが後に分かるのですが、彼女の存在によって本作は、十兵衛にとっての青春&成長ストーリィとなるに至っています。
そして結末はというと、何とまぁ・・・。

好き好きによるとは思いますが、私としてはすこぶる満足。
破天荒な登場人物たち、その一方で人間味ある人物も配し、極めて骨太で読み応えたっぷりの伝奇小説になっています。お薦め。


序.天来无妄(てんらいむもう)/1.地下明夷(ちかめいい)/2.山風蠱(さんぷうこ)/3.火水未済(かすいびせい)/終.火天大有(かてんたいゆう)

   


  

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