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「鬼憑き十兵衛」 ★★☆ 日本ファンタジーノベル大賞 |
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2021年12月
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賞に“ファンタジー”と冠されていても、本作はかなりブタックな内容です。 舞台は改易された加藤家から引き継いだ後の細川家熊本藩。 主人公は松山十兵衛。細川忠利の剣術指南役であり、十兵衛にとって厳しい剣の師であった松山主水から、実は父だったと知らされた直後、主水は襲撃を受けて暗殺されます。 そこから逃れ得た十兵衛は追手15人を斬り殺した後、暗殺に関わった元加藤藩浪人50人の残りへ、次々と復讐を続けます。 その十兵衛のおかげで復活できたと姿を現したのが、異様に美しい僧姿の<鬼>で「大悲」と自称。その大悲、十兵衛への自分なりの礼だと言い、十兵衛に憑くことを明言します。それが本作題名の所以。 何故主水は暗殺されたのか。本ストーリィは十兵衛の復讐譚であると同時に、その謎解きストーリィにもなっています。 それだけでもかなりブラックな内容ですが、その2人を超え、はるかに妖しい存在として登場するのが前藩主=三斎(細川忠興)をその肉体で篭絡する妖女=安珠。山田風太郎の伝奇小説にいかにも登場しそうな人物です。 それだけなら極めてブラックというだけの内容ですが、さらに不思議な人物が登場します。 それは偶然に十兵衛が救い出すことになった異国の美少女。顔に無残な刀傷、四肢に枷を嵌められ、声も潰されたらしい。 大悲によって彼女は「紅絹(もみ)」という名を与えられますが、彼女の正体は一体何なのか。何故日本に連れてこられたのか。その辺りも大いなる謎です。 その紅絹が本ストーリィの重要な要素になっていることが後に分かるのですが、彼女の存在によって本作は、十兵衛にとっての青春&成長ストーリィとなるに至っています。 そして結末はというと、何とまぁ・・・。 好き好きによるとは思いますが、私としてはすこぶる満足。 破天荒な登場人物たち、その一方で人間味ある人物も配し、極めて骨太で読み応えたっぷりの伝奇小説になっています。お薦め。 序.天来无妄(てんらいむもう)/1.地下明夷(ちかめいい)/2.山風蠱(さんぷうこ)/3.火水未済(かすいびせい)/終.火天大有(かてんたいゆう) |