小佐野 弾
(だん)作品のページ


1983年東京都生、慶應義塾大学経済学部卒。台湾台北市居住。2017年「無垢な日本で」にて第60回短歌研究新人賞、19年第63回現代歌人協会賞、第12回「わたしく、つまりNobody賞」を受賞

  


       

「ビギナーズ家族 ★★   


ビギナーズ家族

2023年05月
小学館

(1800円+税)



2023/06/04



amazon.co.jp

パートナー関係にある男性2人が、幼い子どもの養育を引き受けることになり、3人で新しい家族を作ろうと頑張っていく姿を描いた長編。

極めつけのセレブの家に生まれ育った
大田川秋は、飲食ベンチャー企業の経営者かつエッセイスト。
その秋のパートナーは、関西人で神奈川県立の特別支援学校で体育教師をしている
中島哲大。2人は青山のマンションで同棲、既に渋谷区にパートナーシップを登録済。
そんな秋にふっと湧いた出来事は、両親が離婚して以来20年以上も会っていなかった父親が癌で死去し、後に2歳となる異母弟の蓮を遺します。
その蓮と養子縁組をして義父となり、生活を切り替えた秋は、幼稚園の送り迎え等々、母親業に精を出しますが・・・。

ストーリィは、母の
知香、姉のも卒業した名門=慶心学院初等部入学を目指すという、“お受験”がメインになります。
その前門となる私立幼稚園や受験塾の入園を巡り、多額の寄付金や付け届け等々が飛び交い、庶民にはまるで手の届かない世界のことと呆れる思いがしますが、名門すなわち保守的な学校が果たして秋と哲大、そして蓮というパートナー家族を受け入れるのかどうか。端的に問われる場面として、お受験が設定されたのでしょう。
 
同性パートナーなんて神さまが許さない、と頑なに認めようとしない人たち。それと反対に、秋と哲大の関係を積極的に認めようとする人たち。
まさに現時点における日本社会の様相、それを象徴するものかもしれません。

秋と哲大が一方的に蓮を守っている、という訳ではありません。蓮の存在によって秋と哲大も親になれた、親として育てられているという関係です。
“家族”とは何なのでしょう。お互いに大事な存在と思い合い、一緒に支え合って暮らしていこうとする関係、それが家族でなくして何でしょう。
寛容性のある社会が望まれます。


プロローグ/第1章〜第4章/エピローグ

           


  

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