|
|
1.メゾン刻の湯 2.ピュア |
「メゾン刻(とき)の湯」 ★★ | |
2020年01月
|
就職活動をうまくやれず就職先が決まらないまま大学を卒業した湊マヒコが、本書の主人公。 いつも強引な幼馴染の蝶子に呼びつけられた先は、古い銭湯である“刻の湯”。 マヒコを迎えた蝶子、現在“刻の湯”の運営を任されている青年アキラに翻弄されるまま、バイト兼居候としてこの銭湯に住むこととなります。 そしてそこはシェアハウスでもあり、アキラと蝶子の他、銭湯の3代目店主である戸塚老人とその孫リョータ、奇抜なファッションのフリーエンジニア=ゴスピ、事故で片脚のない美容師=龍くん、ベンチャー社員で上昇志向の強いまっつん、というのが同居人の顔ぶれ。 いずれも、どこかフツー通りにはいっていない人間ばかり。 彼らの抱えている葛藤や悩みが、共同生活を営むうち、次第に見えてきます。 一言でまとめると、一人で堂々と世間に踏み出していく自信がまだ持てていない若者たちが一時的に足踏みしていられる場所、それがこの、肩肘張らずにいられて居心地の良いシェアハウス“刻の湯”である、と言って良いと思います。 そして時期が来れば、一人一人、この刻の湯を育っていく。 現代の若者たちにとって、そんな足踏みできる居場所がある、ということは救いに繋がるように感じます。 類まれな包容力ありと感じた青年アキラの意外な過去には驚きましたが、一人ずつ巣立っていく彼らの後姿に、エールを贈りたい気持ちでいっぱいになります。 1年間にわたる、マヒコを主人公にした青春群像ストーリィ。 独特の雰囲気、味わいが、本作の魅力です。 |
「ピュア PURE」 ★★☆ | |
2023年11月
|
前作から一転してSF短篇集とは、と驚いたのですが、小野美由紀さん曰く、現代女性の生きづらさを描いたらSFになった、とのこと。 ・「ピュア」:遺伝子改良で女性が強靭になり、男を狩り=セックス、直後男を喰らうことによって受胎することができるという未来社会が舞台。まさに雌カマキリと雄カマキリの関係です。そんな運命が得心できないユミは・・・。 ・「バースデー」:幼稚園以来の親友だったちえが、突然性変容手術を受けて男子に。ショックを受けたひかりは・・・。 ・「To the Moon」 :昔自分を救ってくれた朔希は、ゲル状の月人となって望の前に再び現れます。当時の記憶を失っている朔希に望は何を伝えようとするのか。 ・「幻胎」:自分の名声のために娘を犠牲にすることも躊躇わない父親。新種人類の凍結精子に自らの卵子を提供したゼスの思いは? ・「エイジ」:「ピュア」のスピンオフ作品。ユミに出会う前のエイジを描きます。 SF、未来社会が背景とは理解しつつも、本書を読んでいてSF小説という意識はそう感じません。 それよりも、女性として生きていくことのしんどさの方を、むしろ強く感じるからです。そしてそれは、現代社会の延長であることに他なりません。 何と言っても表題作の「ピュア」が、着想といい展開といい、SFならではの要素を含めてお見事。変貌を遂げたユミの姿が圧巻です。 私が最も好きなのは「バースデー」。ひかりとちえの戸惑い、必死な思いは、現代に共通するテーマだと思います。 お薦め。 ピュア/バースデー/To the Moon/幻胎/エイジ |