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1.左目に映る星 2.透明人間は204号室の夢を見る 3.ファミリー・レス 4.五つ星をつけてよ 5.リバース&リバース 6.青春のジョーカー 7.魔法がとけたあとも 8.愛の色いろ 9.愉快な青春が最高の復讐! 10.白野真澄はしょうがない |
クレイジー・フォー・ラビット、求めよさらば、夏鳥たちのとまり木 |
「左目に映る星」 ★★☆ すばる文学賞 | |
2018年09月
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26歳のOLである主人公=早季子は、友人に頼まれれば頭数揃えで合コンに出席し、初めて出会った男とホテルへ行くことも珍しくない。 何故早季子が刹那的な行動ばかりとっているのかというと、誰とも繋がり合えないという孤独感をずっと胸に抱えているから。 そんな早季子が忘れられないでいるのは、小学校の同級生だった吉住のこと。早季子と同様、左目に近視と乱視という障害を抱えているために唯一同胞感を持つことができた相手。しかし、その吉住はもはやいない。 ある合コンで早季子は、相手の男性から左目に障害があるらしい同僚がいるという話を聞き、その宮内という男性に会いたいと頼み込む。しかし、その宮内はアイドルのオタク。宮内に会うため早季子はリリコというアイドルのライブに同行するのですが、早季子と宮内の関係はどう進行するのか。 現実に早季子がずっと孤独な思いを抱えていたにしろ、要は真に繋がれる相手と早季子が出会えていなかっただけではないのか。真面目で純粋で不器用な宮内と出会い、徐々に早季子の心に変化が生じていきます。 冒頭における早季子がかなり虚無的であったのに対し、終盤における早季子は大きな変わりようを見せ、その好対照ぶりがとても印象的です。 障害のある左目をモチーフにした独特な切り口で、初めて恋心を覚えた女性の心情を鮮やかに描き出した処がお見事。 男女交際といえばセックスが当たり前の今日この頃、セックスを越えて恋心にときめく男女2人の瑞々しい姿は、爽快です。 |
「透明人間は204号室の夢を見る」 ★★ |
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2020年05月
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主人公の実緒は6年前、高校在学中に書いた小説がたまたま新人賞を受賞し「佐原澪」名義で作家デビュー。卒業後小説を書いて生きて行こうと東京へ。しかし、その後次々と書いた作品は担当編集者から少しも評価されず、4年前からは書くこともできなくなっている状況。 元々コミュニケーション能力が不足していた実緒は、雑文書きのライターと棚卸しのバイト仕事で生活費を稼ぎながら、古いマンションで一人孤独に暮す日々。 そんなある日、書店で自分の本を手に取った青年を見かけ、そのまま彼の跡をつけて彼の住むマンション、部屋を確かめます。 やがて実緒は、透明人間になって彼の部屋に忍び込む想像を繰り広げるようになるのですが、いつしか現実世界でも・・・。 想像だけならまだしも、実際にストーカーもどきの行動へと繋がっていくと、実緒という主人公のことを危ない、怖い、気味悪いと思うのは当然のことでしょう。 しかし、その青年=千田春臣と大学の同級生でその恋人である津埜いづみと現実に知り合い、交遊を持つようになると、徐々に実緒に変化が生まれます。 最後は必然的な結果かもしれませんが、幾ら暴言を浴びようと、そのことが実緒に新しい扉を開けたことを思うと非難することはできません。むしろ実緒にエールを送りたい気持ちでいっぱいになります。 ストーカー紛いのストーリィではありますけれど、想像の世界から現実の世界へ、そして人との関わりを求めて一歩踏み出したことにより新しい扉へ辿り着いた実緒を描く、アウトサイダー的青春&成長ストーリィ。その希少な清新さが魅力です。 |
「ファミリー・レス」 ★★ | |
2018年10月
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現代における様々な家族の姿、有り様を描いた連作式の短編集、6篇。 現代においては最早、以前の様な家族の姿を当たり前のものと決めつけることはできない、と感じるようになったのは何時頃からでしょうか。 その中には、家族だから厄介、それ故に家族から離れたいという状況に追い込まれた主人公もいれば、離婚した後も元妻と娘に何かと思いを残している主人公もいます。 無職で、働いている妻のヒモのような状態になっている主人公が妻の祖母から嫌われ意地悪されている姿は、結局は自分の責任と思う処ですが、孫娘が選び納得しているのであればもう少し寛容であって欲しいよなァと思います。 前篇で脇役として登場した人物が次の篇では主人公になったり、再び脇役で登場したりと、円環小説といった構成。 どれが正解とか是非を判断する必要はなくて、いろいろな家族の形、成り行きがあるということを感じていれば良いのではないかと感じます。 この人にもこんな家族の事情があったと、立体的に浮かび上がらせる構成も魅力ですが、それ以上に惹かれるのは各篇ストーリィのキレ味の良さ。 なお、6篇の内一番惹かれたのは冒頭の「プレパラートの瞬き」。また、「指と筆が結ぶもの」も面白いのですが、「アオシは世界を選べない」については、主人公の設定が憎めず。 プレパラートの瞬き/指と筆が結ぶもの/ウーパールーパーは笑わない/さよなら、エバーグリーン/いちでもなく、さんでもなくて/アオシは世界を選べない |
「五つ星をつけてよ」 ★★☆ |
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2019年05月
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冒頭の2篇を読んだ処で上手くなったなァと唸らされ、その後は一気読み。 今やネット社会だからでしょうか、どの篇にもネット、ブログ、SNSといったコミュニケーション手段が盛んに登場します。 そのうえで各篇のストーリィはというと、主人公像も内容も極めてヴァラエティに富んでいます。 その奥にあるものを突き詰めていくと、人と繋がる難しさ、ネットで容易く繋がれる反面にある怖さ、そして自身の内にある弱さが見えてきます。 でも、難しく考える必要はありません。どの篇もそんな問題点をさらりと奥に潜めて、ストーリィだけで充分読み手を唸らせてくれます。お薦め! ・「キャンディ・イン・ポケット」:卒業式を迎えた高校生が主人公。たった30分とはいえ、3年間通学電車で同じ時間を共にした相手をどうして信じられなかったのか。 ・「ジャムの果て」:母親として家族を第一に考えてきたのに、何故子供たちに拒否される羽目になってしまったのか。 ・「空に根ざして」:長年にわたる恋人と何故別れるに至ったのか。元恋人が結婚したニュースに心が揺れる。 ・「五つ星をつけてよ」:母親の介護に通ってくるヘルバー、悪い噂のある彼を自分は信じることができるのか。 ・「ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ」:汚れた大人が子供を守れる訳がないと思っていた中学生の頃。中学生の娘を持つ母親となった今、どう娘と向かい合えばいいのか。 ・「君に落ちる彗星」:ネットで嘲笑される元アイドル、彼女を見下して自己満足している男女、3人の今を描く篇。 キャンディ・イン・ポケット/ジャムの果て/空に根ざして/五つ星をつけてよ/ウォーター・アンダー・ザ・ブリッジ/君に落ちる彗星 |
「リバース&リバース」 ★★ |
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2021年04月
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主人公の一人は、女子中学生向け雑誌「Can・Day!」の編集者で、読者からの相談コーナー「ハートの保健室」を入社2年目以来担当している菊池禄(「ろく兄」)。 もう一人の主人公は、長野県山間部の中学生である郁美。 菊池は、中学生の時に同級生に対して取ってしまった行動にずっと悔恨を抱いており、その所為で菊池を振り回し続ける中学生読者の小野寺渚を突き放せないでいます。 一方、東京から転校してきた種田道成の存在により、郁美と親友である明日花の関係に、徐々に溝が生まれます。 本作はそんな2人を並行して描くストーリィ。 描かれるのは、想いを届けることの難しさと大切さです。 ふと起きた感情のままを口に出してしまい、相手を傷つけてしまった悔いは、いつまでも消えません。 どうすれば相手に言葉が届くのか、想いが通じるのか。本作でそれを届ける手段として取り上げられているのは“手紙”です。 今や、SNS等で簡単にメッセージを発信できる時代。だからこそ、思いを込めて書いた“手紙”という手段が、光を放つのかもしれません。 菊池と郁美の想いが時間を超えて繋がった時、そこには太い感動と安らぎがあります。 本作は極めてシンプルなストーリィ。だからこそ本作に篭められたメッセージが、郁美の言葉と菊池の想いを借りて、率直に読み手の胸に届いてくるように感じます。 ※題名の「リバース&リバース」は、reverse(反転)とrebirth(生まれ変わり)ということらしい。 |
「青春のジョーカー」 ★★★ | |
2020年12月
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冒頭からセックスの妄想ばかり、おまけに学校ではイジメの対象にされている下位カーストに属するゲームオタク。 というのが、本ストーリィの主人公、中学三年の島田基哉の人物像です。 そして、セックス妄想に囚われているのは何も基哉ばかりではありません。クラスの上位カーストにいる啓太たちも、年中セックス、女の話ばかりなのですから。 辟易し、ウンザリするような展開なのですが、それは最初の内だけ。 読むうち、彼らに親近感が湧いてくるのです。 そこに卑猥感などはありません。中学生という年代であれば、そうした妄想を繰り広げていても当然、むしろ健全と言って良いくらいではないでしょうか。 主人公の基哉にしろ、決して模範的な生徒という訳ではないし、基哉とそのゲームオタク仲間をイジメの対象とする啓太らにしても、さほど悪辣な奴とも思えません。また、基哉の友人たちもある時を境に突然反目しだす。 そこにいるのは、生々しさも含めて、等身大の中学生たち。 表題の「ジョーカー」とは切り札、それはどうもセックス経験の有無、ということらしい。 そんな、所詮は中学校という狭い枠内での上下関係から、基哉が一歩抜け出すことができるようになったのは、大学生の兄である達己から誘われてそのサークルの集まりに参加したときに、吉沢二葉という大学3年生と知り合ったことから。 両親が動物病院を営んでいることから、双葉が拾った捨て猫の世話の仕方についていろいろ相談を受けるようになり、基哉と双葉の間に友達付き合いが生まれます。 そのおかげで、ちょっと違う世界を見たことが基哉に余裕のようなものが生まれ、基哉なりの成長へのきっかけとなります。 等身大の中学生たちによる青春ストーリィ。 人間的な小ささも、ちょっとしたことで飛躍的に成長するのも、お互いの間における見栄や敵愾心も、一人一人がありのままの中学生らしく、愛おしくさえ感じられます。 爽快で、生々しいリアルさ、愛おしさを備えた青春ストーリィ。これはもう傑作と言う他ありません。 是非、お薦め! |
「魔法がとけたあとも」 ★★☆ | |
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日常的な悩みごと、ちょっとした身体のことが原因で、これまでの人生にまで疑問を感じてしまう。 誰しも一度や二度は味わったことがあるだろう日常の一幕を鮮やかに切り出し、その処方箋まで描き出した短篇集。 その鮮やかさと軽やかさ、そして切れ味の良さ、そして登場人物たちへの親近感・好感は半端ではありません。 それらが相まっての味わい良さがとても印象的です。この辺り、奥田亜希子さんは本当に上手い。 ・「理想のいれもの」:妊娠中の志摩。悪阻の酷さと、何かと妊婦扱いされることに苛立つ日々。 ・「花入りのアンバー」:別れた恋人への未練、検査結果への不安を抱きながら美鶴は高級旅館に一人で投宿。そこで・・・。 ・「君の線、僕の点」:鼻の下の大きなホクロがコンプレックスでずっと友達ができず。遂に決断した晴希でしたが、その結果はというと・・・。 ・「彼方のアイドル」:母子家庭、中学生になった息子から「くそばばあ」と言われて敦子はショック。いろいろ積み重なり、息子とすっかりギクシャク。 ・「キャッチボール・アット・リバーサイド」:7歳の娘が妹を欲しがっているものの2人目ができず。大悟にも問題あるのですが、それ以来妻とはギクシャク。 私の好みに寄るものではありますが、是非お薦めしたい、日常ドラマを描いた良質の短篇集。 理想のいれもの/花入りのアンバー/君の線、僕の点/彼方のアイドル/キャッチボール・アット・リバーサイド |
「愛の色いろ」 ★★ | |
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本書を読むまでその言葉すら知らなかったのですが、複数のパートナーとの間で親密な関係を持つこと、あるいは持ちたいと願うことを“ポリアモリー”というのだそうです。 本作は、ひとつシェアハウスで暮らす、ポリアモリーと自認する4人の男女を描いたストーリィ。 朝川良成、システム開発会社勤務でバツイチ。その第一パートナーである志田千瀬は歯科医院勤務の26歳。 シェアハウスのオーナーであり、地元で不動産会社を営む渡辺伍郎は52歳。その第一パートナーである佐竹黎子は、料理上手の腕を生かしてスナックを営む45歳。 千瀬以外の3人はポリアモリーですが、千瀬はちょっと違う。3人の中に元恋人と現恋人がいますが、同時に2人と恋人関係にある訳ではない。 一般的な社会常識からすると、ポリアモリーなんて非道徳的な関係、と言われるのでしょうけれど、私としては様々にある愛の形の一つに過ぎない、と感じます。 一夫多妻があるなら多夫多妻だって有り得よう筈と思いますが、歴史的背景から生まれた一夫多妻制を、多夫多妻と比べるのは適切ではないのかもしれません。 なお、子供をもうけて家庭生活を営む、ということは難しい関係だろうなぁと思います。 4人による共同生活、ルールをお互いに守り合うことによって順調のようでしたが、ある出来事が起こったことによりバランスが取れなくなっていきます・・・。 夫婦だって長年一緒にいれば色々不満や問題も起きるもの。それが4人から成る関係となれば、継続するのはなおのこと難しいのでしょう。 「ファミリー・レス」にて現代社会における様々な家族の姿を描いた奥田さん、本作もそれに連なる作品だと思います。 |
「愉快な青春が最高の復讐!」 ★☆ | |
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奥田亜希子さんの初エッセイ。 内容はというと、千葉県にあるフリーペーパー会社に入社時、同期5人の女性たちとべったり過ごした日常、各地へ旅行に出掛けた思い出を中心に綴ったもの、とのこと。 大部分を占める「愉快な青春が最高の復讐!」は、集英社のPR誌「青春と読書」に全十回連載されたものだそうです。 表題、如何にも楽しそうな雰囲気ですが、「復讐」って? 学生時代余り楽しくなかったという思いの反映でしょうか。 会社の同期とまさかこんな楽しい青春を送るとは思わなかった、とありますが、分かるような気がします。 学生時代がつまらなかったから、たまたま同期生たちと意気投合したから、遅ればせながらの青春期到来、ということだったのでしょう。 青春とは、年代によるものではなくその行動によるもの、とはごもっともです。 仕事は仕事として、毎晩のように誰かの部屋に集まり、参加不参加、途中抜けるのも自由という前提で青春18きっぷを最大に活かしてあちこちへ、これはまさに青春と言って他なりません。 入社1年目だけでなく、退職、結婚、娘の出産、子育て中にもかかわらず仲間と相変わらずあちこちへ。 旦那さん、善い人だなぁ。 エッセイというより、青春期への郷愁を篭めた回想録かな。 小説作品から抱いていたイメージ、だいぶ変わりました。 まえがき 愉快な青春が最高の復讐! 1.空腹のライオンでもゾンビのほうを/2.とろとろしてるから/3.この世に生を享けて以来の/4.頭を下にした潰れたカエルのような/5.そんなちっぽけなアイデンティティ/6.修業感を漂わせるスタイルが/7.これから開くんです/8.スタンプラリー的な発想/9.おかあさんもたのしくしてね/10.岩手旅行の楽しさを綴る 記録魔の青春を駆け抜ける あとがき |
「白野真澄はしょうがない Same name unique life」 ★★ | |
2022年11月
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同姓同名(白野真澄)の人物たちを主人公に据えた短編集。 ただし、彼らがストーリィ中で交錯する訳ではありませんし、性別、年代、場所もそれぞれバラバラ。 また、名前が同じだからと言って、人間性まで一緒である訳がありません。 それでも一冊の短編集の中にまとまってみれば、同じ「白野真澄」なのにと何となく比較して面白みを感じてしまう。 そこに本作の楽しみがあります。 何やらパラレルワールド?といった感じを受けますので。 ・「名前をつけてやる」:本篇の白野真澄は31歳女性、助産師。 確かに葛藤はありますよねぇ。愉快で、切なくも愛おしい。 ・「両性花の咲くところ」:25歳男性、イラストレーター兼書店バイト。難しい処ですが、両親と妹がユニーク。 ・「ラストシューズ」:56歳女性、主婦。 主人公もその母親も痛快にして爽快。究極の仕返しですねぇ。 ・「砂に、足跡」:20歳女性、大学生兼居酒屋バイト。 う〜ん、微妙だなぁ・・・。 ・「白野真澄はしょうがない」:小学4年生、男子。 困ったちゃんであるのかもしれませんが、子供はいくらでもやり直しできるし、未来への展望が開けているようで嬉しい。 5篇の中で私が特に好きなのは、「ラストシューズ」「白野真澄はしょうがない」の2篇です。 名前をつけてやる/両性花の咲くところ/ラストシューズ/砂に、足跡/白野真澄はしょうがない |