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1.ゆれる 2.きのうの神さま 4.永い言い訳 |
●「ゆれる」● ★★ |
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2008年08月 2012年08月
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オリジナル脚本・監督し、カンヌ国際映画祭の監督週間に出品するほか数々の映画賞を受賞した「ゆれる」を、自ら書下ろし小説化した作品。 父親と喧嘩するようにして家を出、自分の好きな道でカメラマンとして成功した弟。一方、寂れていく町でちっぽけなガソリンスタンドという家業を継いで、35歳の今も独身のまま父親と地道に暮らしている兄。 他人であったら簡単なのでしょう。お互いに遠ざかればいいのでしょうから。しかし、兄弟という関係ではそうはいかない。 30代前半の若さ、監督3作目でこうしたオリジナル作品を世に出し、かつ書下ろしまで。凄いと思います。当分目の離せない作家となりそうです。本映画にも興味大。 |
●「きのうの神さま」● ★★ |
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2022年04月
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「僻地の医療を題材にした映画を作りたい」。その一念から何とか出版社の支援を取り付け、実に豊かな取材をすることができた結果が、映画「ディア・ドクター」脚本の他、本短篇集に結びついたのだそうです。 「1983年のほたる」は、往復3時間をかけて町の学習塾に通っている小学生の女の子と、バスの運転手との関わりを描いた篇。 僻地を舞台にした3篇、「1983年のほたる」「ありの行列」「満月の代弁者」がいずれも味わい深い。 いずれも、さらりとした中に深い味わいを感じ取れるところが、本短篇集の良さです。 1983年のほたる/ありの行列/ノミの愛情/ディア・ドクター/満月の代弁者 |
●「その日東京駅五時二十五分発」● ★★ |
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2015年01月
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作者の伯父さんの戦争体験を基にした中篇小説とのこと。 東京駅始発の東海道線に乗り込み、故郷へと向かう兵隊2人を描いたストーリィ。 そうした事情から、本書では戦争体験記によくあるような戦争の悲惨さも、軍隊での過酷なシゴキも殆ど縁がありません。むしろこれからの希望を車中で語り合う、若者2人の屈託なさが印象的です。現代の若者の比べて何ら変わらない若者の姿がこの2人からは感じられます。 僅か 120頁程の中篇小説ですが、ひとつの戦争体験記として忘れ難いものがあります。 |
4. | |
「永い言い訳」 ★★★ |
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2016年08月
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突然に大事な家族(妻)を失った小説家=津村啓の痛みを、第一人称で語る他、第三者からの視点を加えて複眼的に描いた長編。 本書を書くきっかけになったのは、東日本大震災で家族や友人を失った方々の報道において、綺麗なエピソードばかり報道されることへの違和感だったそうです。 |
「スクリーンが待っている」 ★★ | |
2024年04月
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2021年 2月公開の映画「すばらしき世界」、その完成までの5年間にわたる制作の軌跡を綴ったエッセイ本+α。 ずっとオリジナル脚本で映画を撮り続けてきた西川美和監督、今回の「すばらしき世界」は初めて小説を基にした作品とのこと。 そして主演は、西川監督の念願叶って役所広司さん。 原案となる小説は、佐木隆三「身分帳」。 人生の大半を獄中で過ごした前科10犯の男が、極寒の刑務所から満期出所し、人生を再スタートしようと東京に出て職探しを始めますが、衝突と挫折を繰り返すというストーリィ。 福祉事務所に取材したり、福祉事務所主催の婚活パーティへの参加、旭川刑務所の見学、佐木作品のモデルとなった実在の犯罪者を汁知る人たちへの取材等々、映画制作にあたってそこまでするのかと思うくらいの軌跡が順々と綴られていきます。 一作品のために5年も掛けてと驚きますが、撮影に当たって細部までリアルに拘ると、これはもうキリがないなぁと思い知る気がします。 「映画をはなれて」は、割とあっさりしたエッセイ集。 「夢日記」と「蕎麦屋ケンちゃん失踪事件」は創作2篇。 これも結構、楽しかったです。 映画「すばらしき世界」を観るのが楽しみになりました。 まえがき/ <スクリーンが待っている>:恋/出会い/ともだち/時代/ホーム/塀/孤児/船/幸福/山/妖怪/異邦の人/花/夜明け前/ <映画をはなれて>:逃げ場所/私の青い鳥/ピクシーえほん/みつけたともだち/都会の景色/二十三年後の夏/スポーツを「みる」/壁また壁/鋏のこと/ 夢日記/ 蕎麦屋ケンちゃん失踪事件 |