ピアノ曲の旋律が溢れんばかりに聞こえてくる。その情感が素晴らしいと評判になった、2010年「このミステリーがすごい!」の大賞受賞作となったミステリ。
主人公はまもなく高校に進学するところの少女=香月遥。
ピアノの才能に恵まれ、ピアニストを目指している。父親は平凡な銀行員だが、同じ敷地内の離れに住む祖父は、実業家で名の知れた資産家。さらに今は、スマトラ沖地震で両親を亡くした従姉妹=片桐ルシアが同居していて、共にピアノのレッスンに通う日々。
そんな遥を悲劇が襲う。両親が不在で祖父の離れにルシアと泊った日の夜に大火災が発生、祖父とルシアが焼死、遥もまた大火傷を負い、一命をとり取り留めたものの全身にわたる皮膚移植手術のため、指の先さえ自由に動かせない状態に。
そんな悲惨な状況から、天才的若手ピアニストによる独創的なレッシンを受け、再びピアノに向かい、学生コンクールでの優勝を目指すというストーリィ。
ピアノ演奏に関する技術的なこと、ピアニストの心構えも描かれ、まさに音楽ストーリィ。ジャンルは音楽と芝居で異なりますが、恩田陸「チョコレートコスモス」に比肩するスリルと興奮を味わわせてくれる作品です。
しかし、本作品はあくまでミステリ。火事の後も、遥の身を幾度かの危険が襲います。
音楽ストーリィだけで足りないからミステリなのか。ミステリとして物足りなさを音楽ストーリィが補って余りあるのか。
幾つかの事故の犯人は、消去法ですぐ判ってしまうことですし、ミステリとしての迫力は感じられません。
しかし、あくまでもミステリ作品だけあって、最後に待ち構えていたのは驚愕すべき真実。でも、がっかり。
ストーリィ構成といい、最後の逆転劇といい、本作品は充分賞讃に価する作品です。
しかし、・・・・後味が良くないのが、残念。(私は、読後感の良いストーリィが好きなのです)
※これは、ある有名な推理作家の代表的な作品についても感じられた問題点。
いっそミステリ部分を外して、「チョコレートコスモス」のようにピアノ演奏をめぐるスリルと興奮で読ませるストーリィにしていたらどうだったろうかと、つい思う次第です。
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