なかにし礼作品のページ


1938年中国黒龍江省牡丹江市(旧満州)生、立教大学文学部仏文科卒。シャンソンの訳詞家を経て、作詞家。「時には娼婦のように」他多くのヒット曲を生み、「天使の誘惑」「今日でお別れ」「北酒場」にて日本レコード大賞を3回受賞する他、受賞多数。98年「兄弟」を発表して作家活動入り。2000年「長崎ぶらぶら節」にて直木賞受賞。

 
1.翔べ!わが想いよ

2.長崎ぶらぶら節

3.てるてる坊主の照子さん

 


1.

●「翔べ!わが想いよ」● ★★

 

   
1989年11月
東京新聞出版局

1991年10月
文春文庫化

2003年12月
新潮文庫

(476円+税)

 
2003/12/21

一度読み出したら止まらなくなり、あっという間に読み終えた一冊。本書は、なかにしさんの自伝エッセイです。

冒頭、旧満州で生まれ育ったなかにしさんが、日本の敗戦により追われるように故郷(旧満州)を捨て、日本に逃げ帰るまでの一家の苦闘が語られています。
無蓋列車等による異動、ロシア兵・中国兵による強奪、男狩り、女狩りと、それまでと一転した日本人の悲惨な有様は、本書もまたひとつの敗戦記と言いたい重みがあります。
そんな中で、夫を失い、子供2人を抱え、機転を働かせて生き抜き、日本に帰りついた母親の強さには、感銘を受けます。後年のなかにしさんの逆境での強さは、その母親から受け継いだものに他ならないでしょう。

また、作詞家として順調以上にヒットを飛ばし続けたなかにしさんに、立教大学に折角入学しながら授業料が支払えずに何度も退学の憂き目にあった過去、目指した訳でなく食べていく為にシャンソン訳詞の道に踏み込んだこと。最初の妻との葛藤、それを経て作詞家の道へ進んだこと等々。思いもよらないその軌跡に、頁を繰る手を止めることができません。
作詞家として立ちヒットを続けた後も、心臓発作を続けたり、莫大な借金を背負ったりと、息つく暇なく、常に挑戦的に臨んで来た人生。
表面的な華やかさの裏にこんな人生があったのだと知るだけでも貴重。理屈抜きにまず読んでみたら、とお薦めしたい一冊。
なお、ヒット曲の数々は、昭和史を見るようで懐かしい。

  

2.

●「長崎ぶらぶら節」● ★★       直木賞



  
1999年11月
文芸春秋刊
(1524円+税)

2002年10月
文春文庫化

2003年10月
新潮文庫化

 
2001/01/11

長崎の丸山に実在した名妓・愛八の半生を描いた小説です。
愛八が生きたのは、明治から昭和の初期という時代。前半は、愛八ことサダが、貧しい家から幼くして花街・丸山に入り、半生を芸者として過ごしてきた愛八の身上が語られます。この前半、当時の長崎、丸山の様子を眺め見るような趣きがあります。

その愛八が、古賀十二郎を知り、彼を慕うようになってから、本書の主ストーリイが始まります。

長崎の町学者を自称する古賀は、裕福だった実家の蓄財を傾けて長崎研究に打ち込む人物。その古賀から誘いを受け、愛八は2人で、長崎の忘れ去られようとしている古い唄を探し回ります。そして、“ぶらぶら節”を見出し、それを広めるに至るストーリィです。
会話が多く、すべて長崎言葉で書かれていることに、長崎という土地への深い愛着を感じます。それと、唄に対する思い入れの強さ。作詞家である著者だからこそ生み出しえた物語、と感じます。
最後はお涙物語過ぎるところがありますが、愛八の決意を通す見事さに、ほれぼれとせざる得ません。

長崎という土地、そして愛八という人を、そっくり唄で歌い上げたような、そんな作品です。

   

3.

●「てるてる坊主の照子さん」● ★☆

 

   
2002年7月
新潮社刊

上下
(各1600円+税)

2003年8月
新潮文庫化
(上中下)

 

2003/12/29

なかにしさんの奥さんの実家を描いた家族小説。
春子・夏子・秋子・冬子という四姉妹が登場しますから、帯の宣伝文句“なにわの若草物語”も間違いではないのですが、もっぱら中心になるのは、母親・照子と、長女の春子、次女の夏子の3人。
次女の夏子が歌手→女優のいしだあゆみ、語り手となる四女の冬子が(デビューしてすぐなかにしさんと結婚して引退した)石田ゆりとなれば、読み手の興味を惹くのは当然のこと。

戦後の高度成長期にある関西を舞台に、照子さんを中心とした、笑いと涙、そして出世欲も執念もあり、という家族物語。
その照子さんが、圧倒するばかりの上昇志向の持ち主。TV喫茶のアイデアを当てて大繁盛を勝ち取ったり、梅田スケートリンクへ出店したりと、その頑張りはご立派。
ところが、その直後から折角の照子物語は急展開。アイススケートに才能をみせた春子と夏子に全力傾注し始め、結局は春子をオリンピック選手、もう一方の夏子を売れっ子スターになさしめたのですから、娘2人も凄いけれど、それ以上に照子さんの頑張りも凄い。今なら折り紙つきの芸能ママというところでしょう。
母親の飽くことない欲から、娘2人にプレッシャーをかけた是非はありますけれど、結局は皆が幸せになったのですから、これはもう夢みたいな成功物語+家族物語として、興味津々、楽しんで読むほかありません。
なお、同性としては、父親・春男氏にご苦労様と言いたい。
TVの普及、プロレス中継、ドラマ「七人の孫」と、リアルタイムで見てきた世代としては、庶民生活レベルでの昭和史を振り返るという楽しさもあります。
気軽に読めるホーム・コメディ・ストーリィ。

  


  

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