中嶋博行作品のページ


1955年茨城県生、早稲田大学法学部卒。85年司法試験合格、現在横浜にて弁護士開業中。1994年「検察捜査」で第40回江戸川乱歩賞を受賞して作家デビュー。


1.
検察捜査

2.違法弁護

3.司法戦争

4.第一級殺人弁護

5.新検察捜査

 


 

1.

●「検察捜査」●   第40回江戸川乱歩賞受賞


1994年09月
講談社刊

1997年07月
講談社文庫

 

1997/08/23

正直言って、あまり面白いとは感じませんでした。作者の意欲は感じますが、 登場人物のリアリティが今一歩。
ストーリィは、法制審議会委員の大物弁護士が殺害事件により始まります。その事件を担当するのが、主人公である横浜検察庁の若手女性検察官・岩崎紀美子
当初から、単なる刑事事件ではなく、検察庁権威主義を唱える幹部らの怪しい思惑が絡んだ事件、という匂いが漂います。
検察官、弁護士という法曹制度の仕組みにまで踏み込んだ問題作という視点だったのでしょうが、自分達の利益にこだわる人間ばかりしか登場しなかったことが、作品の内容を薄くしたような印象を受けます。

 

2.

●「違法弁護」● 


違法弁護画像

1995年11月
講談社刊

1998年11月
講談社文庫化


1999/01/30

弁護士の増加問題に関する決議争い、横浜における巡邏中の警官射殺事件からストーリィは始まります。
主人公は、横浜の巨大法律事務所の勤務弁護士・水島由里子。彼女は事務所のパートナーに昇進することを唯一の目的に終日激務をこなしていたが、突然貿易会社の法的危機管理を命じられます。しかし、そこには得たいの知れない違法な匂いがする。
ストーリィが、事件に深く関わらざるを得ない水島弁護士の側と、捜査本部の一員である柴崎刑事の側に2部されているような構成なのですが、とくに柴崎側の部分に半端さを感じざるをえません。
また、法律サスペンスということで、弁護士業界における近未来の危機感、検察内部における公安という特殊部門に関する説明が詳細に描かれます。しかし、その説明部分がストーリィの大半を占めてしまったようで、読みつつまどろっこしさを感じることが度々ありました。
なお、法律を逆手にとった戦法、最後の決着のつけ方は、弁護士ならではのアイデアですが、「司法戦争」を読んでしまった後の所為か、いま少し物足りず。

 ※弁護士業界内部の抗争を描いた作品に、小杉健治「宿敵」があります。

 

3.

●「司法戦争」● ★★


司法戦争画像

1998年07月
講談社刊
(2000円+税)

2001年06月
講談社文庫化

 

1998/12/31

「日本を震撼させるリーガル・サスペンス」、「最高裁の陰謀」、「圧倒的なスケールと驚愕の結末」というのが、本書の宣伝文句です。
自動車PLの巨額訴訟と最高裁判事の殺害事件から始まる本ストーリィは、当初最高裁、検察庁・法務省、内閣調査室等官製エリート間の権力争いの様相を示していて、最高裁内部等を覗き知る興味の一方で鼻白む思いもしました。

主人公は、検察庁から判検交流で最高裁に出向し現在調査官である真樹加奈子
彼女は検察庁の元上司から判事殺害の真相を探るよう命じられ、厭々ながら事件に首を突っ込んでいきます。
しかし、その過程で更なる殺人事件が発生、事件は限りなく膨れ上がっていきます。そんな中、主人公は自らの責任感に基づき、独力で真相究明に突き進んでいきます。そこからの展開は、スケール、迫力、テンポとも文句なし、ぐいぐいストーリィに引き込まれます。
終盤に至り、真樹を守って仲間の如く事件に立ち向かう二人の刑事との組み合わせも、絶妙の魅力です。
また、外国人弁護士問題、訴訟の長期化という現実の問題を見据え、近未来的に起こりうる問題を根底に置いていることが、ストーリィの迫真性を増しています。
法曹界の内実と課題を明らかにしつつ、同時に読み応えある推理サスペンスに仕立て上げた一冊、冒頭の宣伝文句に誇張はありません。

 

4.

●「第一級殺人弁護」● 


第一級殺人弁護画像

1999年07月
講談社刊
(1600円+税)

 2002年07月
講談社文庫化

 

1999/09/08

本書は、連作5篇を収録。
これまでの長編3作は、いずれも女性の司法関係者を主人公にしつつ、日本の法曹制度にがっぷり取り組んだ力作でした。それらと比較すると、本書は随分と気軽に読める作品集です。

主人公は、横浜で個人事務所を構える、独立したばかりの弁護士・京森英二。横浜が舞台になっているのは、中嶋さん自身が横浜で開業しているだけに、勝手知った地元だからでしょう。
いずれも殺人がらみの事件ですが、主人公が積極的に事件に取り組むのではなく、いつも嫌々ながら事件に巻き込まれ、結果的に解決に一役買ってしまうという設定が、なかなかユーモラスです。
主人公がそんな羽目に追い込まれるのは、弁護士会が設立した「当番弁護士」制度の所為です。
被疑者が警察に逮捕されて要請をしたのなら、とにかく当番になっている弁護士が面会に赴く。それが弁護士報酬に結びつくかどうかは別問題なのですが、そもそもそんな状況下の依頼ですから、もともと利益には結びつかない。それどころか、むしろ本業の妨げになるというのが実態のようです。ですから、主人公も嫌々事件に巻き込まれる、という展開になるわけです。
軽い作品集といっても、当番弁護士制度を読者に紹介し、かつその実態を知らしめているのですから、中嶋さんの持ち味を今回もしっかり出していると言えます。

不法在留/措置入院/鑑定証拠/民事暴力 /犯罪被害

     

5.

「新検察捜査」 ★★


新検察捜査画像

2013年10月
講談社刊
(1600円+税)

2015年10月
講談社文庫化

 

2013/12/22

  

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若い女性を殺害してその心臓を取り出し喰う、という少年による猟奇殺人が発生。その裁判と同じ時間に行われた別の法廷で、社会保険診療報酬不正受給を問われた被告が入ってきた何者かに射殺されるという事件が発生。
主人公の女性検事=
岩崎紀美子36歳は、上司の次席検事からこの2つの事件担当を命じられます。
岩崎は米国留学時の演習ミスが原因で訟務担当から現場に飛ばされ、横浜地裁には10年ぶりの配属。その間に結婚、離婚を経験し、現在は4歳の娘を抱えるシングルマザー。著者デビュー作
検察捜査で共に捜査にあたった神奈川県警の刑事=郡司耕造と再会。検察捜査に反発する郡司とまたもや角を突き合わせながら事件の真相解明に動き出します。
しかし、
“浄化槽委員会”なる組織が岩崎への監視を始めます。事件の背後には一体どんな企てが潜んでいるのか・・・・。

単なるサスペンスに留まらず、事件の背景に現代社会でクローズアップされつつある問題を題材として取り扱っているのが、中嶋作品の読み応え。
本書でも
司法戦争に負けず劣らず、強大な力を駆使する相手を敵にし、自身に忍び寄ってくる危険をものともせず事件の真相解明に近付いていく岩崎検事を描く本ストーリィは、迫真的なスリリングたっぷり、読み応えもたっぷり、読み出したら頁を繰る手が止まらず、といった具合です。
サスペンスストーリィにおいて、上司の制止も聞かず、聖域も無視して猪突猛進する主人公像は、今は男性のものではなく女性のものなのかもしれません。
私好みの迫真+司法サスペンス。

   


 

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