長嶋 有
(ながしま・ゆう)作品のページ


1972年埼玉県草加市生、北海道登別市・室蘭市育ち。東洋大学2部文学部国文学科卒。シャチハタ勤務を経て2001年「サイドカーに犬」にて第92回文学界新人賞を受賞し、作家デビュー。02年「猛スピードで母は」にて 第126回芥川賞、07年「夕子ちゃんの近道」にて第1回大江健三郎賞を受賞。コラムニスト(ブルボン小林名義)、俳人(長嶋肩甲名義)としても活躍中。

 
1.
夕子ちゃんの近道

2.ぼくは落ち着きがない

3.祝福

  


    

1.

●「夕子ちゃんの近道」●        大江健三郎賞


夕子ちゃんの近道画像

2006年04月
新潮社刊

(1500円+税)

2009年04月
講談社文庫化

     

2006/07/07

 

amazon.co.jp

古道具店・フラココ屋の2階に居候暮らしする主人公と、居候暮らしの間彼が袖触れ合う付き合いとなった店長の幹夫さん、大家である八木さんの孫の朝子さん夕子ちゃん、初代居候の瑞枝さん、幹男さんと古い付き合いのフランソワーズらを描く、のんびりとした連作短篇集。

率直に言ってよく判らないのです、このストーリィ。
まず主人公がどういう人物か判らない。最初のうち判らないというのならまだ判る。最後の最後まで判らず、結局判らないまま終わってしまうのです。「」による一人称小説ですから、主人公の名前すら判らないのです。これじゃあ、判りようがないでしょう?
その他の登場人物のことも、実はよく判らない。フラココ屋の店長がどういう人物なのか、店に入りびたりの瑞枝さんは何故入り浸るのか。朝子さんと夕子ちゃんの姉妹が自分のことをどう考えているのか。
炬燵が部屋の真ん中に置いてある。自然と人が集まって炬燵にあたりながら無駄話をしている。ちょうどそんな雰囲気なのです。
帯には「人生の春休みのような日々を描く初の連作短篇集」とありますが、確かにそうとしか言いようがない。
そんな居候暮らしを過した「僕」の半年を描くストーリィ。
それにしても、最後は何故皆で揃ってパリなのか?

瑞枝さんの原付/夕子ちゃんの近道/幹夫さんの前カノ/朝子さんの箱/フランソワーズのフランス/僕の顔/パリの全員

    

2.

●「ぼくは落ち着きがない」● ★☆


ぼくは落ち着きがない画像

2008年06月
光文社刊

(1500円+税)

2011年05月
光文社文庫化

 

2008/08/09

 

amazon.co.jp

題名から、とにかくもゴタゴタした学生生活を描いた作品だろうと思ってしまうのですが、それは予想外れ。
見事に何の事件の起きない、ごくありふれた高校生たちの部活動がのんべんだらりと描かれています。
その部活動は何かというと、学校の図書室を運営をサポートするためにかつて自主的に作られた、図書部
他に、各クラスから1名ずつ図書委員が選ばれるのですが、殆どの図書委員はさぼってばかり。したがって、図書室をしきっているのは実質図書部という次第。

この図書部が、楽しそう。
図書室の隣にベニヤ板で仕切った部室があり、時間があれば図書部員はそこに集まり、好きな本を読んだり、だべったりしながら紅茶を入れて飲んだりと、教師から自由でいられる場所と時間を謳歌している、といった風。
一応主人公らしい、中山望美はまさにそんな一人。この望美も殆ど主人公らしい行動はみせず、周囲の部員たちの方が余程賑わしい。

いいなァ、この図書部。居心地がすこぶる良さそうで。こんな部が高校にあったら、喜んで入部したかった。
小説となれば、たとえ高校生であろうと何か事件に出会わない訳にはいかないようなものですが、実際に殆どの高校生活はどうかと言えば、本書のように、何も起きないままダラダラしているうちに、いつの間にか時間が過ぎて行ってしまうというものであることに決まっています。

一般的な学園青春小説の逆を行くような作品ですけれど、私は大好きです。

      

3.

●「祝 福」● ★★☆

 
祝福画像
 
2010年12月
河出書房新社

(1500円+税)

  

2011/02/02

  

amazon.co.jp

帯には、「女ごころを書いたら、女子以上。ダメ男を書いたら、日本一!」
そして本作品の紹介文によると、
男主人公5人、女主人公5人が送る長嶋版「一人紅白歌合戦」いや、「一人フィーリングカップル5vs5」!なのだそうです。
確かに収録10篇の主人公は、男性5人、女性5人。でも、読んでいる最中、とくにそんなことは意識しませんでしたし、する必要もありません。

収録10篇、短篇というより掌篇という印象です。
そしてその内容はといえば、特にどうということなく、どこにでもあるような出来事を描いたストーリィ。 
それなのに読み終わる頃には、何故か愉快、どこか楽しい気分になっているのですから、嬉しい。その理由がどこにあるのか、自分でも判らないところが、かえって本短篇集の魅力なのではないかと思います。
それこそ小説の妙、長嶋さんの上手さ、と言うべきなのでしょう。
 
冒頭の
「丹下」からしてすぐ楽しい気分になります。女性作家らしい主人公の、ごくありふれた一日の様子を描いた篇。
私が爆笑したのは
「噛みながら」。本書収録の10篇、皆ありふれた出来事ばかりという印象なのですが、本篇は銀行強盗にまつわるストーリィ。銀行強盗など滅多に遭遇するものではない筈なのに、いかにもありふれた出来事のように描いているところが、とりわけ愉快。
また、表題作
「祝福」は、友人の結婚式に出席して元恋人と偶然再会するというストーリィ。結構意味深なところを感じるのですが、さらりと描いているところが絶妙。
ユニークな短篇を読んでみたいという方に、是非お薦め。

 
丹下/マラソンをさぼる/穴場で/山根と六郎/噛みながら/ジャージの一人/ファットスプレッド/海の男/十時間/祝福

    


  

to Top Page     to 国内作家 Index