永嶋恵美作品のページ


1964年福岡県生、広島大学文学部哲学科卒。2000年「せん−さく」にて作家デビュー。


1.
せん−さく

2.あなたの恋人、強奪します。−泥棒猫ヒナコの事件簿No.1−

3.明日の話はしない

4.別れの夜には猫がいる−泥棒猫ヒナコの事件簿No.2−

5.泥棒猫リターンズ−泥棒猫ヒナコの事件簿No.3−

 


 

1.

「せん−さく」 ★★


せん−さく

2000年09月
幻冬舎刊
(1700円+税)

2009年10月
幻冬舎文庫化


2000/09/30


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ゲームサイトのオフ会で出会った29歳の人妻・諸藤典子と、15歳の中学生・浅生遼介という2人の逃避行を描いた作品。

初めてオフ会に参加して典子は、帰りの新幹線の中で、遼介から家に帰りたくない、ちょっとだけつきあって、と頼まれ、1日だけつきあうことにします。ところが、それは典子自身の内にある孤独感を呼び起こし、2人は逃避行を続けることとなります。
そして、途中ニュースで知った、遼介の友人・
石村尚斗の両親が殺された事件に2人は深く関わることとなり、逃避行は逃亡行へと変化を遂げます。
中学生の登校拒否、ネット世界への引篭りを思うと、遼介の行動は少しも意外なものではありません。しかし、普通の主婦である典子もまたその逃避行に同調するとなると.... 誰しも胸の奥にそうした逃避願望のあることを無視できず、2人の行動を切実な思いで見守らざるを得ません。
そしてまた、
インターネット、オフ会が重要な題材となっていることも、本ストーリィへの親近感を高めています。
ストーリィの半分は、2人の逃避行です。永嶋さんはその様子を現実的に、冷静に描いていきます。まるでそれは2人の日常生活そのままのようです。そこに、現代において日常生活と逃避は、皮一枚の差でしかないことに気付かされます。
最終場面、ストーリィは思いもよらない展開を見せます。まるで、ストーリィの裏と表が入れ替わったような衝撃でした。(以前話題になったある小説を思い出した程。)
中盤、最終場面、エピローグと、永嶋さんのストーリィ展開はかなり巧妙なものです。派手さはありませんが、しっかりとした読み応え、精緻さが感じられる作品です。

   

2.

「あなたの恋人、強奪します。−泥棒猫ヒナコの事件簿− ★☆


あなたの恋人、強奪します。

2007年11月
徳間文庫刊

(590円+税)

2017年06月
新装版



2017/06/03



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今月の新刊予定文庫をみていて、題名に興味をそそられて手に取った次第。
かなりインパクトの強い題名ですが、要はストーカーやDV傾向のある恋人と別れたいのに別れられない、そんな境地に陥って困っている女性たちを、“恋人を強奪する”という仕掛けで救い出すというコンセプトの連作短篇集。

困っている女性たちがふと女性専用サイトで見つけたのは、
「あなたの恋人、友だちのカレシ、強奪して差し上げます」という広告文。
疑わしく思いながらもその“
オフィスCAT”に連絡を取ると、さっそく担当者が出向いてきて面談、状況を詳しく聞かれた上で基本料金10万円+αを支払えば、さっそく行動が開始されるという仕組み。
その担当者名前が、
ミナミヒナコ(皆実雛子)という。言わば「泥棒猫派遣業」なのだとか。

軽快なユーモアと、コロリと男をだます手管が面白いという、事件もの風の短篇集。
ちょうどケン・リュウ「母の記憶に」の読書中、時々気分転換に読むのには格好の一冊でした。

「泥棒猫貸します」:OLの早川梨沙、4歳年下の大学生の恋人がストーカー、DV化。精神的に追い詰められ・・・。
「九官鳥にご用心」:OLの須藤茜、友人で同僚の川原清美は何でも茜の真似をし、さらに恋人まで横取り。自分が恋人と別れる前に清美から彼を奪って欲しい。
「カッコーの巣の中で」:依頼人は小学生の竹田緑。その前に現れたのはバイトだという篠原楓。再婚した相手と父親を別れさせて欲しいという依頼。しかし、その依頼の裏には・・・。
「カワウソは二度死ぬ」辻堂美咲、5歳上の姉=知花が大嘘つきの最低男に騙されている、別れさせて欲しいという依頼。
「マイ・フェア・マウス」海老根雪緒27歳。7歳年下で医学生の恋人の母親から、風俗嬢をしていた過去を調べられ、別れるよう脅される。後腐れない別れをと依頼をしますがヒナコ、同じ大学生の方が適切と見習いだという篠原楓が担当に・・・。
「鳥かごを揺らす手」:他の5篇と異なり、まさに事件、といった篇。これはもう、読んでみてください。

泥棒猫貸します/九官鳥にご用心/カッコーの巣の中で/カワウソは二度死ぬ/マイ・フェア・マウス/鳥かごを揺らす手

    

3.

「明日の話はしない」 


明日の話はしない

2008年10月
幻冬舎刊
(1700円+税)

2011年10月
幻冬舎文庫化



2009/01/10



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難病で何年も入退院を繰り返している小学生の女の子、男に金を持ち逃げされてホームレスになったオカマ、職を転々としスーパーのレジ内で糊口をしのいでいる26歳の元OL。
彼らに共通しているのは、
「明日の話はしない」というルールを決めていること。
一見、異なる主人公、異なるストーリィなのですが、実は一本の糸で繋がっている物語。その真相が明らかにされるのは、
「最終話:供述調書」にて。

いずれの篇も暗い話ばかり。「明日の話はしない」という主人公たちの決めが当然と思えるくらい、救いというものがない。
3つの物語が繋がり合ってついに一本になるとき、希望の光が見えるというのであればまだしも、それどころか、もっと陰惨な過去が浮かび上がってくるというのが本作品の趣向。
真相は、サスペンス小説として充分衝撃的ですが、だからといって、とても本ストーリィを楽しめたという気分にはなれません。

最終話も含め、主人公は代わる代わる4人の人物が勤めますが、本作品を通して考えると、本来の主人公は第1章で脇役だった少女。
その彼女がこんなにも救いのない運命に翻弄されなければならないとは、いったい彼女にどんな落ち度があったというのでしょうか。
いや、ない。彼女には罰を受けるような落ち度は何もなかった筈なのです。だからこそ、深い絶望感がここにはある。
そして誰もいなくなった後、彼女は幸せを手に入れることができるのでしょうか。
しかし、「明日の話はしない」というのが、本物語のルール。

1.小児病棟/2.一九九八年の思い出/3.ルームメイト/最終話:供述調書

   

4.

「別れの夜には猫がいる−泥棒猫ヒナコの事件簿− ★☆


別れの夜には猫がいる

2011年08月
徳間文庫刊

(590円+税)

2017年07月
新装版



2017/07/08



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オフィスCAT、皆実雛子が活躍する泥棒猫ヒナコの事件簿シリーズ第2弾。
軽妙な味わいが楽しめるところが、本シリーズの魅力です。
もっとも、設定がかなり限定されていますから、この第2弾までで終わりなのかも。
なお、この第2弾では、今後に向けて依頼人たちを少しでも応援しようとする雛子の姿勢が印象的です。

「宵闇キャットファイト」:ブランドショップ店員の朝枝沙紀。恋人を奪った上野詩織を邪魔するため、泥棒猫に折半で依頼しようと声をかけてきた土井鞠江の真意は?
「孔雀たちの夜宴」篠原楓、またしても雛子に上手く利用されたと怒り。でも、雛子は恩人だし・・・。
名誉乙女たちの復讐を手助けするため楓が仕掛け・・・。
「夜啼鳥(ナイチンゲール)と青い鳥」:看護師の春日小夜子、副師長にバレて勤務先に居づらくならないよう、医師の杉原悠介とうまく別れさせてと、雛子に依頼。
そのうえで、何度も自分を受け入れてくれた
竹野真一と、今度こそきちんとした恋人関係にと思うのですが・・・。
「烏の鳴かぬ夜はあれど」:日本人と結婚したフィリッピーナのテレシータ。日本人男性と結婚したものの、DVで家出。しかし、息子の親権を奪われそうと号泣。家裁調査員の浅沼陽子が、テスのために雛子に依頼。
「別れの夜には猫がいる」篠原楓の履歴と、雛子との出会いが描かれます。見逃せない篇。
過去の篇に登場した篠原楓と本当に同一人物?と思いたくなる程です。


宵闇キャットファイト/孔雀たちの夜宴/夜啼鳥と青い鳥/烏の鳴かぬ夜はあれど/別れの夜には猫がいる

                   

5.
「泥棒猫リターンズ−泥棒猫ヒナコの事件簿− ★☆


泥棒猫リターンズ

2019年11月
徳間文庫

(700円+税)



2019/12/01



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泥棒猫ヒナコの事件簿シリーズ、久しぶりの第3弾。

恋人と別れたい、ストーカーを排除したい、誰と誰を別れさせて欲しい、恋愛絡みの様々な依頼ごとを、「恋人を強奪する」という方法でやり遂げるのが
“オフィスCAT”
ストーリィ設定自体も私好みなのですが、皆実雛子がしてのけるその仕事の鮮やかさ、スマートさが変らぬ魅力です。

「泥棒猫リターンズ」第1弾収録「カッコーの巣の中で」にて小学生の依頼人だった竹田緑も今や大学生。仲の良い1歳上の従姉=美春が、バイト先のバツイチ・こぶ付きというコンビニ店長と大学を辞めて結婚すると言い出したことから、何とか止めてほしいという依頼。
「回線上の幽霊」:ソーシャル・ゲームのオフ会がきっかけとなって<ラテ>こと山城翔太と付き合いだした千崎萌花ですが、翔太に違和感と恐怖感を抱くようになり、別れさせてほしいとの依頼。なお、直接の担当者として、篠崎楓も再登場。
「初日の幕が上がるまで」劇団同期の高梨夏輝がチャンスを掴み始めた。しかし、その夏輝が付き合いだした後輩女優=愛璃の言動に危ういものを感じた森井志乃は、2人に内緒で、2人を別れさせて欲しいと依頼。

十分楽しめました。気分転換等にはもってこいの軽快作です。


1.泥棒猫リターンズ/2.回線上の幽霊/3.初日の幕が上がるまで

   


 

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