本谷(もとや)有希子作品のページ


1979年石川県生。高校卒業後上京し、2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手掛ける。また小説家としても活動
を開始し、「腑ぬけども、悲しみの愛を見せろ」にて三島由紀夫賞候補、「生きてるだけで、愛。」にて同賞および芥川賞候補となる。06年上演の戯曲「遭難、」にて鶴屋南北戯曲賞を最年少で、08年上演の戯曲「幸せ最高ありがとうマジで!」にて第53回岸田國士戯曲賞、11年「ぬるい毒」にて第33回野間文芸新人賞、13年「嵐のピクニック」にて第7回大江健三郎賞、14年「自分を好きになる方法」にて第27回三島由紀夫賞、16年「異類婚姻譚」にて 第154回芥川賞を受賞。


1.グ、ア、ム

2.偏路

3.幸せ最高ありがとうマジで!

4.あの子の考えることは変

5.ぬるい毒

6.嵐のピクニック

7.かみにえともじ

8.自分を好きになる方法

9.異類婚姻譚

10.静かに、ねぇ、静かに

 


   

●「グ、ア、ム Gu,a,m」● ★★


グ、ア、ム画像

2008年06月
新潮社刊

(1300円+税)

2011年07月
新潮文庫化



2008/10/24



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母・姉・妹という女3人のグアム旅行を描いた小説作品ですが、三者三様、抱腹絶倒の性格コメディ。
まさに見事なまでの家族版スラップスティックコメディです。

父親がしきりに勧め、女3人初めての海外旅行、2泊3日。
本作品では、母親、長女、次女と語られるだけで、各自の名前は呼ばれません。母親は長女を「おねえ」、次女を「チビ助」と呼ぶのみ(といっても身長は次女が一番高い)。
勝手に東京へ出て行ったものの、長女25歳は恋人と同棲しながらのバイト暮らし。それと対照的に次女21歳は堅実かつ慎重派で、大阪で信用金庫勤め。
この姉妹、性格だけでなくファッションセンスも両極端と、ことごとく旅の最初から衝突ばかり。
母親は間に入って何とか喧嘩にならないよう心を砕くというパターンですが、こんな姉妹の母親ともなると大変なのである。
せめてグアムが楽しければ、なのですが、これまた台風が直撃するという悪天候で、グアムらしい楽しさは壊滅状態。折角の家族旅行だというのに内も外も悪い材料勢ぞろい、という状況。
最後やっとホロッとさせられたと思ったら、かえって母親が困惑してしまうという展開には大笑い。

先に本書を読んでいたら、先日読んだ偏路、もっと入り込み易かっただろうなぁと思います。だってあの若月、本書の長女をもっとエキサイトさせた人物設定でしょうから。
ホームドラマにして壮絶な家族コメディ、快作と言って良いでしょう。
なお、三人をグアム旅行に送り出した父親、その本心は如何なるものだったのか。単純な好意か、それとも巧妙な策略か。
まさかうさぎの所為だけとは思えず、これまた興味尽きないところです。

   

2.

●「偏 路」● ★★


偏路画像

2008年09月
新潮社刊

(1300円+税)



2008/10/13



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家族間における葛藤劇は、井上ひさし戯曲にもよく描かれるところですが、井上作品にはユーモアが常に加えられているのに対して、これはもう凄い!としか言いようがない。
本作品は、伯母の家を舞台にした壮絶な家族葛藤劇。

劇団への夢を抱いて上京した木多若月が夢破れ、父親=宗生の恒例の巡礼について伯母=紺野和江の家を訪れているところから舞台は幕を開けます。本戯曲の舞台はその和江宅。
いくら娘だとはいえ、若月のエゴぶりが凄い、もうムチャクチャの限りです。そしてその延長上に繰り広げられる若月と宗生の言い合い、罵り合いもハチャメチャとしか言いようのないものですが、それは伯母一家にも広がっていく。
一見和やかな伯母一家という雰囲気が呆気なく崩れると、従兄=ノリユキの人格破綻者ぶりも露わとなり、さらに和江の従妹である依子・ダキラまで加わると、皆のエゴが赤裸々にぶつかり合うという展開。
その破壊エネルギーには、ただただ圧倒されるばかり。一見温い親子関係、家族関係の中にそんな破壊エネルギーが潜んでいると思うと空恐ろしくなります。
結局最後は、収まるべきところに収まるというストーリィ。それならこの大騒動は一体何だったのでしょうか。
それこそ小説とは異なる戯曲らしいところ、と言えば確かにそのとおりなのですが。

読了後少し距離を置いて眺めることができるようになると、別の様相が見えてきます。
それは都会と田舎との対立構図。伯母の家には、人生破綻者ともいうべきノリユキやヨレヨレになって働き続けている伯父を肯定し包む込むような温さがあります。そんな温さを嫌って若月は東京へ出て行った訳ですが、都会で挫折してみると自分勝手な論法を振りかざしてまでその温さの中に入り込もうとする。
刺激的でメリハリある都会と、気持ち悪いと若月が言う田舎特有の生温かさ、どちらを望むかは人それぞれなのでしょう。

なお、私も最初誤ったのですが、注意して欲しいことは本題名がお遍路さんの「遍路」ではなく「偏路」であること。そこを思い違えると、読み始めてすぐ途方に暮れることになります。

    

3.

●「幸せ最高ありがとうマジで!」● ★★☆     岸田國士戯曲賞


幸せ最高ありがとうマジで!画像

2009年03月
講談社刊

(1400円+税)



2009/04/25



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久しぶりにパワフルな戯曲を読んだ、という満足感あり。
戯曲におけるパワフルさとは、セリフの凄み、破壊力かもしれない。

曽根新聞配達所に突然現れた女。彼女は、店主の「愛人です」といきなり名乗る。
居合わせたのは、後妻の美十里、連れ子の紗登子、店主の息子である功一、それに住み込み店員の山里えいみ
明里(あかり)というその女は、過激的な言葉で居合わせた家族を挑発していく。
いったい何なんだ、あの女は? その明里は“無差別テロ”だと言い、“明るい人格障害”なのだと楽しげに言う。
店主の慎太郎が戻ってくると揉め具合はさらに増幅していくばかり。無責任にも悪鬼の如く、取っては投げという具合に登場人物たちの内心を抉り、傷を暴き、彼らが不幸に落とされた様を明里は喜び、大きな笑い声をあげる。
この明里というキャラクター、圧巻です。

登場人物各々が内面に抱える鬱屈、不満を抉り出していく明里の舌鋒の鋭さ、パワー、それに引きずり出されるようにして各々隠していた筈の本音が洩れ出していく。そうした展開が、読み応えたっぷりです。
これはもう、戯曲作品ならではの迫力、面白さ。
果たしてこのバトルの勝者は、明るい人格障害者の明里なのか、それとも表面を取り繕って平凡に暮す一家なのか。それは読んでのお楽しみ。

※なお、表紙カバーの写真は、明里を演じた永作博美さん。
また、特別付録=「ありマジ」舞台ができるまでを描く榎本俊二さんによるルポ漫画もかなり楽しめます。

  

4.

●「あの子の考えることは変」● ★★


あの子の考えることは変画像

2009年07月
講談社刊

(1300円+税)



2009/08/15



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巡谷(めぐりや)日田(にった)、高井戸のアパートに同居する女2人、ともに23歳。
片方の日田、高校生の頃から既に皆から浮いていた、という。
同居する今も自分は臭いと思い込んでいて、相手するのが面倒臭いと思っていたら、実は隠していたことがある、と言い出す。
「性欲。私の性欲がすごい勢いで強くなっているんだ、ダイオキシンのせいで」、「毎晩見知らぬ男を犯す夢ばっかり見るんだよ処女なのに!」と。

題名の意味する「あの子」は日田のことに違いないと確信したのですが、ストーリィが進むに連れ、巡谷も変なのではないか、もしかして日田以上ではないかと感じ始めたところから、一気に怒涛のような本ストーリィの渦に巻き込まれた!という印象。

幸せありがとうマジで!に登場した明里、曽根新聞配達所の人々を蹂躙し尽くしたという観がありましたが、その明里が自虐的な女(日田)と他虐的な女(巡谷)という2人に分裂したのではないかと思える。
恋人がいるという男に押しかけセフレ(セックスフレンド)となっている巡谷、相手からもう相手してられないと言われるや否やキレ、その行動は破壊的になっていく。
さらにその巡谷の異常さを日田が指摘、すると今度は巡谷が日田を罵り始め、深夜の町に迷い出た2人は訳の判らぬ破滅的な行動を繰り広げていくというストーリィ。

ストーリィの大筋をあらかた書いてしまったようなものですけれど、2人の暴走・迷走ぶり、その圧倒感は凄まじい。とても伝えられるものではありません。
それに留まらず、細部のやりとりにも、絶句させられるばかり。
そのメチャクチャな破天荒さこそ、本書の魅力なのでしょうけれど、これって青春ストーリィ?

絶句してしまう圧倒感を味わいたい方、お薦めです。ちなみに本書は、平成21年度上半期芥川賞の候補作となった逸品。

               

5.

●「ぬるい毒」● ★☆       野間文芸新人賞


ぬるい毒画像

2011年06月
新潮社刊

(1300円+税)

2014年03月
新潮文庫化


2011/07/15


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19歳になった熊田由理の元を、借りた金を返しに来た高校の同級生と名乗って自宅に訪ねてきた、向伊という男。
その向伊は、「魅力の塊のような男だった」。

一体、何を目的に自分の元を訪ねてきたのか。自分を連れ出して何をしようとするのか。
学校時代は地味で目立たない存在だったのが由理。由理は向伊とその仲間たちに、自分を煽て誑かして、自分の知らぬところで嘲笑って楽しんでやろうという風を感じます。
そんな向伊に、籠絡されすっかり恋した風を装い、最後に向伊らを逆に嘲笑してやろうと由理はしているのでしょうか。

何故そんな関係に足を踏み入れたのか。どうってない、すぐ修正できると思っていたからか。
ちょっとしたことに過ぎないという油断が、いつの間にか全身に毒を回らせることになる。だからこその「ゆるい毒」であり、その結果は狂気となった現れる、そんな感じを受けます。
 
こうしたどろどろした関係、意味ないと思われる水面下の争い、親をまで巻き込んでしまう不条理、好きじゃないです。読みたくないという気持ちになります。
ただ、好きではなくてもそれなりの圧倒感があれば別ですが、本作品はもうひとつパワー不足、という印象です。

            

6.

●「嵐のピクニック」● ★★       大江健三郎賞


嵐のピクニック画像

2012年06月
講談社刊

(1300円+税)

2015年05月
講談社文庫化

2012/07/26

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奇想、ブラック、ユーモア、何でもあれといった13篇の短篇集。
本書表題は、「群像」掲載時の
「13の“アウトサイド”短篇集」から改題したものとのこと。
当初題名が示すとおり本谷さんならではのごった煮観ある掌篇集というところですが、それ故に困惑あるいは面喰うことがないとは言えません。その意味では、本谷有希子ファン向け作品集という感じです。
 
13篇の中で私として面白かったものは次のとおり。
穏和なピアノ教師が示した一瞬のスリリング感が堪らない
「アウトサイド」、こんなブラックユーモア読んだことがないと言いたい「哀しみのウェイトトレーニー」、奇想溢れる「亡霊病」、飄々としたユーモアが堪らなく楽しい「Q&A」、これこそ奇作と評したい「いかにして私がピクニックシートを・・・・」

どれも荒唐無稽な話のようでありながら、一皮向くと実はリアル、という特徴あり。そこに魅せられま
す。

アウトサイド/私は名前で呼んでる/パプリカ次郎/人間袋とじ/哀しみのウェイトトレーニー/マゴッチギャオの夜、いつも通り/亡霊病/タイフーン/Q&A/彼女たち/How to burden the girl/ダウンズ&アップス/いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか

           

7.

●「かみにえともじ」●(イラスト:榎本俊二) ★☆


かみにえともじ画像

2012年08月
講談社刊

(1400円+税)



2012/09/13



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漫画雑誌「モーニング」に3年半に亘って掲載されたコラム「かみにえともじ」より抜粋・再構成しての単行本化。

まず題名、どんな意味だろうと首をひねっても判らなかったのですが、どうも
「かみ」に「え」と「もじ」という意味らしい。

読後感から言うと、暴風雨が好きなように吹き荒れて、さっさと目の前を通り過ぎて行った、という印象。
それでも、本谷さんらしいなぁ、とそれなりに楽しめました。
少々荒っぽい節があるのは、本谷さんが本来舞台作家であること、エッセイではなくコラムであること、掲載されたのが漫画雑誌だったという要素から、自然な流れだったのではないかと思います。
作家のエッセイを読む楽しみは、小説とは違って生身の作家自身に触れることができる、という点にあります。そこで親しみを持つに至れば、小説作品を読むのがより一層楽しくなるというものです。

各篇、“
もとやちゃん”というキャラクターを主とした破天荒な榎本さんの漫画付き。さらに「かみにえのもと」という本谷さんを語る榎本さんの連載漫画も挿入されています。
肝腎のコラムの内容はといえば、本谷さんのいろいろな状況・心理が知れて興味深くもあり、面白くもありだったのですが、中でも舞台公演前後の状況を語った辺りはとくに興味惹かれるところです。
生身の本谷さんに興味ある方には、お薦めの一冊です。

             

8.

「自分を好きになる方法 For six days of Linde ★★   三島由紀夫賞


自分を好きになる方法画像

2013年07月
講談社刊

(1300円+税)

2016年06月
講談社文庫化


2013/08/20


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人生における特にドラマチックでもない6日間を切り出して、リンデという女性主人公の人生を描き出そうと試みた作品。

ありふれた一日といえども本書に描かれたその6日間は、リンデにとって何かきっかけとなる一日であったように感じられます。しかし、その結果となる出来事は描かれておらず、章と章との間にどういうドラマがあったかは読み手の想像に託された形。
まるでリンデという女性の人生を、飛び石を伝わっていくように飛び飛びで読んだ気分なのですが、それがどういう訳か読み手の心をくすぐります。描かれていない部分にこそ本来いろいろなドラマがあった筈なのに、それが隠されているのですから。
結局リンデの人生とは、自分と判り合える相手探しであった、と言えるでしょうか。

人の人生を6日間だけで凝縮して描けるものなのか。本書中盤からの興味はそこに尽きる、といって過言ではありません。
是か非か、その結果を読み手が判断できるのは最終章でしょう。なお、小説作品でこうした趣向は目新しく感じられますが、井上ひさしさんの評伝戯曲では割りと見られたもの。
その意味で、劇団活動をしている本谷さんだからこそ生み出された実験的な小説作品と思います。

16歳のリンデとスコアボード/28歳のリンデとワンピース/34歳のリンデと結婚記念日/47歳のリンデと百年の感覚/3歳のリンデとシューベルト/63歳のリンデとドレッシング

 

9.
「異類婚姻譚 ★★       芥川賞


異類婚姻譚

2016年01月
講談社刊

(1300円+税)

2018年10月
講談社文庫化



2016/02/09



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「ある日、自分の顔が旦那の顔をそっくりになっていることに気が付いた」
この冒頭の一文、何とも印象的で気になり、また惹きつけられる言葉です。
夫婦とは、一緒に暮らしているうちに何時の間にやら同化していくものでしょうか。頷けるところもありますし、いやいやそうでもない、というところもあります。
でも、顔までそっくりにはならないよなぁ・・・でも並んでいる時似たような表情は浮かべているかも。
交際1年半、結婚して4年の専業主婦「
サンちゃん」は、ふとそのことが気になり出します。

どちらがどちらに似るのか。それは夫婦の力関係によるものか。それとも元々の願望によるものなのか。
サンちゃんの前で旦那はすっかり気を緩めている所為か、顔まで緩んで崩れていき・・・。
考えられない状況へと事態は進んでいきますが、ファンタジーのようでありながら、感じるのはただただ不思議というだけ。
不思議ではあっても何となくリアルに感じてしまう処が何ともユーモラス。
その掛け合わせの絶妙さが本作品の魅力。ただ、小説よりも戯曲向きのストーリィではないかなァと感じます。

他の3作は掌篇。
「<犬たち>」も何なのですが、藁で出来ている夫をもつ妻を主人公にした「藁に夫」がユニーク。

異類婚姻譚/<犬たち>/トモ子のバウムクーヘン/藁の夫

                

10.
「静かに、ねぇ、静かに ★★


静かに、ねぇ、静かに

2018年08月
講談社刊

(1400円+税)



2018/09/10



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SNSに嵌り過ぎてしまった現代人、3組の様を描く中編集。

「本当の旅」は、SNSで知りあった男2人・女1人がクアラルンプールへ一緒に旅する話。
ネットへの投稿話やいかにも軽々しいやりとりから、若者たちの格安旅行かと思えば、3人とも中年男女。
現実より、撮った写真にどう映っているか、どう見えるかの方が余っ程大事という3人には、うすら寒ささえ感じます。
しかし、今や特殊な話ではもうないのかも。
最後、彼らは一体どうなってしまうのやら・・・。

「奥さん、犬は大丈夫だよね?」は、夫の勧めにより、その会社の同僚だという夫婦のキャンピングカー1泊旅行に同行する話。
なんでこんな夫婦のキャンピングカー旅行に妻を同行させようという気になったのかと呆れる思いでしたが、夫側の窮余の手だったらしい。もっとも、少しも良い策とは思いませんが。

「でぶのハッピーバースデー」
は、3ヶ月前に勤めていた会社が倒産し、二人そろって失職することになった夫婦の話。
「でぶ」とは、この夫が妻を呼ぶ言葉。そしてその妻、ひどい乱杭歯。
なんだかんだありましたが、二人とも職を得るのですが、何故か夫、自分たちの“印”を他の人間に知らしめようとする・・・。
一体なぜ、そんな発想をするようになったのやら。

まさに、SNS依存症とでも言うべき、現代人狂騒曲だよなぁ。


本当の旅/奥さん、犬は大丈夫だよね?/でぶのハッピーバースデー

    


   

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