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1.二人静 2.身も心も−テーマ競作「死様」− 3.きみがついらのは、まだあきらめていないから 4.残りの人生で、今日がいちばん若い日 5.蜜と唾 6.焼け跡のハイヒール |
1. | |
●「二人静」● ★★★ |
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2012年11月
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とにかく、主人公というべき男女2人の心の内が切ない。 食品メーカーに勤める主人公=町田周吾は、未だ独身の32歳。年老いた父親と2人暮らしですが、母親が亡くなって以来急にボケてしまった父親を抱え、介護に苦労する日々。 2人とも現在では稀と思えるくらいにストイックな人柄。当然なるべき関係へ進んでいい筈なのに、何故かそうはならない。2人とも大きなトラウマを抱えている故です。 最後まで、じっくり、大切に読み進んだ一冊。 |
2. | |
●「身も心も−テーマ競作「死様」−」● ★★ |
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2014年10月
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光文社が企画したテーマ競作「死様」の中の一作。 主人公は、長年連れ添った妻に死なれ、家業は息子に譲り、余生を何となく過ごしている75歳の老人男性、道久礼二郎。 さて、私自身がいずれそうした状況に置かれた時、どう毎日を過ごしていこうとするのやら(多分相変わらず読書三昧でしょうけど)。そう思うと、決して他人事ではありません。 本作品、盛田さんの逸品「二人静」にも通じるものを感じます。同作の主人公である2人が老人になってから出会ったなら、きっとこうした感じになるのではあるまいか。そう感じます。 |
3. | |
●「きみがつらいのは、まだあきらめていないから」● ★★ |
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出版社の紹介文には「強く生きる女たちの、7つの物語」とありますが、これには「?」。 主人公たちが抱える辛さ、苦しみの理由は様々。不倫の結果相手の家庭を壊してしまったことだったり、人妻と駆け落ちしたものの自分の気持ちが萎えてしまったり、恋人の気持ちに応えず去られてしまったり、等々。 年下の恋人にいつも暴力を振るってやまない美女という「卒業」はキャラクターが面白いのですが、「有希子の場合」は特にストーリィ展開が巧みで面白い。人妻を看板にした風俗店に勤める有希子、その正体は? そしてその動機は? 7篇中圧巻なのは、表題作「きみがつらいのは、まだあきらめていないから」。銀行の営業店で様々なプレッシャーにさらされ、うつ病となった渉外課長が主人公。 心はいつもそばにいる/舞い降りて重なる木の葉/冬の海を泳ぐ人魚/新宿の果実/有希子の場合/卒業/きみがつらいのは、まだあきらめていないから |
4. | |
「残りの人生で、今日がいちばん若い日」 ★★☆ |
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2018年01月
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故あって5年前に妻と離婚し、現在はバツイチの子持ち編集者=柴田直太朗。結婚相談所で紹介を受けるがこれと思う相手に出会えず、身体の不調に苦しむ独身書店員=山内百恵。 本書の紹介文を読んですぐ、「二人静」と相似関係にあるストーリィと感じました。「二人静」の感動が大きかっただけに本作品に対する感想が霞んでしまいはしないかと懸念しましたが、人物関係の設定に違いもあり、心配する程ではなかったようです。 |
5. | |
「蜜と唾 Honey and spit」 ★ |
2019年10月
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盛田隆二さん初の犯罪ミステリ、ということで興味を持ったのですが、結果としては、う〜んという処。 大学卒業後勤務したブラック企業を退職した後、その実態を暴き出したルポによりライターの道に踏み出した梶亮平27歳でしたが、その記事で注目は集めたと言っても日々の生活は安い原稿料で Web掲示の文章を書くというカツカツの暮し。 その亮平にお祝いをしたいと電話してきたのは、かつて家庭教師を務めていた先の母親であった美帆子。 5年前美帆子の息子=拓海が交通事故死して以来、美帆子の境遇は離婚、再婚、バー「雪ノ華」の雇われマダムと変転。 その美帆子に雇われたシングルマザーの相川早紀、大手不動産会社社員で常連客の波多野、美帆子の再婚相手で要介護になっている小杉のほか、様々な人物が登場して少しずつドラマが動き出していきます。 肝心の美帆子という女性、不運な女性なのか、それともたおやかな印象の一方で自分に関わった男女を巧妙に手玉に取る悪女なのか。また、元々悪女だったのか、それとも何かのきっかけで変わってしまったのか。 前半、そんな疑念が実にモヤモヤした形でストーリィを覆っています。率直に言って、私が一番苦手な展開。 終盤、計画的犯罪か?と疑われる事実が幾つも浮かび上がってきますが、真相はどうであったのか・・・。 本作品をミステリとして評価するかは好み次第と思いますが、一方でひたむきに前に向かって生きようとする男女の姿も描かれていて、彼らの善を信じたいという気持になれたことが、私にとって救いとなっています。 ※「蜜と唾」、実に意味深な題名であったと思う次第です。 |
6. | |
「焼け跡のハイヒール」 ★★ |
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2020年07月
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作者のご両親が本作の主人公。 貧しい家庭事情の中、もっと学びたいという欲求から、それぞれ看護婦養成所、逓信講習所に入所。そして、空襲下の東京で看護婦、中国大陸での通信兵という苦難の時期を経て、戦後の東京で出会うまでを描いた長編ストーリィ。 もちろん戦時下、あるいは戦地での過酷な状況も描かれますが、本書全体としては、それがどんな状況下であろうと、2人それぞれの青春期という印象が強いです。 敗戦直後の東京、通りがかった露店で、赤いハイヒールを買った母親の躍るような気持ちが、その象徴のように感じられます。 母:稲村美代子。 昭和20年、高等小学校卒業後に栃木県の茂木から単身上京し、新宿にある東京鉄道病院の看護婦養成所に入学、14歳。 空襲下の東京で、看護の手伝いと勉強に明け暮れる日々。 父:盛田隆作 昭和12年、東京の麻布・広尾町にある逓信講習所に入学、15歳。徴兵され通信兵として大陸の戦地へ。悲惨さ・過酷さを味わう。 2人の出会いは、突発性難聴を患った隆作が通った東京鉄道病院の耳鼻科に美代子が看護婦として勤務していたことから。 戦時中の苦労は苦労として、美代子の凄さに圧倒されます。その努力、覚悟は、現代ワーキングウーマンたちの先陣を走っていたように感じます。その告別式の参列した人数の多さは驚くほど。 私自身、両親の軌跡を細かくは知りませんし、子供たちに知って欲しいとも思いませんが、盛田さんにおいてはご母堂の慰霊になる行動だったのではないかと思います。 ※内容はまるで異なりますが、帚木蓬生さんがご父君について書かれた「逃亡」をふと思い出しました。 |