森 博嗣作品のページ


1957年愛知県生、名古屋大学工学部卒、同大学院博士課程修了。三重大学助手を経て名古屋大学助教授。1996年「すべてがFになる」にて第1回メフィスト賞を受賞。2005年03月名古屋大学を退職。

 
1.
少し変わった子あります

2.銀河不動産の超越

3.どちらかが魔女−森博嗣シリーズ短編集−

4.僕は秋子に借りがある−森博嗣自選短編集−

  


    

1.

●「少し変わった子あります」● ★☆


少し変わった子あります画像

2006年08月
文芸春秋刊

(1381円+税)

2007年11月
ノベルス化

2009年06月
文春文庫化

      

2006/09/17

 

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何と言ったら良いのだろう、この小説は。
後輩の研究者から聞いていたその料亭に、大学教授の小山は度々足を運ぶことになります。
その料亭は極めて特殊。まず場所が一定ではない。その都度借りているらしく、場所を転々とする。そして客の注文により、一緒に食事を付き合う相手として若い女性が現れる、という。
小山にこの店を紹介した荒木は現在行方不明。荒木の消息を聞くつもりで足を運んだところ小山自身が病み付きになってしまう。

女将に連れられて登場する若い女性はその都度変わり、しかもどういった女性か名前すら判らない。
ふと川端康成「眠れる美女」と同じ趣向かと感じたのですが、どうも違うらしい。
小山に孤独性があるからこそこの店に惹かれたというのですが、私もこんな趣向の店があったら味わってみたいと思います。食事のテーブルは彩るのは、お酒と女性でしょうから。
クラブやキャバクラでお酒を間に女性と語るのと、料亭で食事を間に語るのと、そう変わりはないと思うのです。
しかし、この店の不気味さは、毎回場所が変わり、次第に遠くなり、しかも主人公の行動が誰にも知られていないこと。

このストーリィに答えはありません。
季節毎に変わる料理と同じように毎回異なる若い女性が現れる楽しみ、でも一方で不気味さもある。
是とするか非とするか、読後の余韻はその狭間で揺れること。

少し変わった子あります/もう少し変わった子あります/ほんの少し変わった子あります/また少し変わった子あります/さらに少し変わった子あります/ただ少し変わった子あります/あと少し変わった子あります/少し変わった子終わりました

    

2.

●「銀河不動産の超越 Transcendence of Ginga Estate Agency」● ★★


銀河不動産の超越画像

2008年05月
文芸春秋刊

(1381円+税)

2011年11月
講談社文庫化

   

2008/06/17

 

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“銀河不動産”というからには広大な宇宙を舞台にしたSFストーリィかと思いきや、何のことはない、何処の町にもあるような零細な不動産仲介会社。
本書は、初老の社長に中年女性の事務員一人というそんな銀河不動産に入社した若者を主人公にした連作短篇風ストーリィ。

県内の国立大学卒だというのに、何故「ここだけはやめておけ」と言われた会社に入ったかというと、気力というものが認識できない、怠けているわけではなくこれが精一杯なのだ、という人間だから。
そんな主人公=高橋が相手するのは、いずれもちょっと変わった客たち。そんな客たちを相手に、無気力といいつつ、結構真面目にやっているじゃないか、というのがこの主人公の印象。
冒頭の「銀河不動産の超越」がまず面白い。お金持ち夫人の要望に応えて風変りな大きな家に案内したところ、主人公が借家人として住むということを条件に取引が成立してしまう。
家賃は今まで通りでいいというのだから破格の条件ではあるが、何故お金持ち夫人はこうも楽しそうなのか。
その後も、普通だったら断ってしまうような変な客にも真面目に対応するうち、どんどん主人公の世界が広がって、挙句の果て可愛い女性まで結婚相手として住み込んでくるのですから、いやはや何ともはや。

特筆すべきドラマがある訳ではないのですが、風変わりな客たちに真面目に向き合っている主人公が醸し出す雰囲気を楽しんでいるうち、意外にもそれら全てが絡み合って皆が幸せと思う方向に転がっていくという、後から思うと、これは不思議な楽しさをもった作品なのです。
また、そこはかとないユーモア感も本書の魅力。
気負わず自然体で、それでもそれなりに努力していたことを認めてくれる人たちに囲まれて・・・いいなぁ、こんな幸せも。

銀河不動産の超越/銀河不動産の勉強/銀河不動産の煩悩/銀河不動産の危惧/銀河不動産の忌避/銀河不動産の柔軟/銀河不動産の捕捉/銀河不動産の羅針

   

3.

●「どちらかが魔女 Which is the Witch?−森博嗣シリーズ短編集−」● 


どちらかが魔女画像

2008年08月
講談社刊

(1800円+税)

2009年07月
講談社文庫化

   

2008/10/01

 

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“犀川&萌絵”シリーズから、著者自身が選んだ8篇を収録した短篇集、とのこと。
ただ、私がこれまで読んだ森博嗣作品は上記2作品のみなので、上記シリーズを読むこと自体、本書が初めてです。

私が初めてという訳で、主人公として並列関係にある犀川と萌絵の2人を簡単に紹介すると、犀川創平は、国立N大学工学部の助教授。
西之園萌絵
はその犀川研究室の教え子であり、かつ犀川の恩師でありN大学の総長でもあった故・西之園恭輔の一人娘。また、ミステリ研究会にも所属する超セレブな女子大院生。
本シリーズは、その萌絵と犀川の2人が中心となって、お馴染みの仲間たちと謎を提供したり、謎解きに頭をひねったりするというミステリ作品。
なお、本書に収録された作品の内、刑事事件は僅か1件のみで、その他は日常ミステリ、というより、“謎解きゲーム”と言った方が適切でしょう。
本書では、事件の起きた現場ではなく、皆でテーブルを囲んで謎解きに挑むという設定が多く、これはもうゲーム感覚です。

謎解きゲームであるが故に中身が凝り過ぎ、問題自体がするっと私の頭の中に入ってこないところがあり、したがって、その結果として正解を教えてもらっても、何となく未消化という気分が残ります。いわば、謎が解けたのはいいけれど、だからどうしたんだ?という風。
なお、本書8篇の中で私がすぐ謎解きできたのは、表題作の「どちらかが魔女」。この作品は人と人とが絡み合う謎であり、だからこそ解き易くもあり、解けた後の感慨もある、と思います。

登場人物はいずれも個性的で、西之園萌絵を中心に、彼らが絡み合うところから生じる面白さもありますが、ミステリ自体は今ひとつ物足りず。

ぶるぶる人形にうってつけの夜/誰もいなくなった/石塔の屋根飾り/マン島の蒸気鉄道/どちらかが魔女/双頭の鷲の旗の下に/いつ入れ替わった?/刀之津診療所の怪

  

4.

●「僕は秋子に借りがある−森博嗣自選短編集−」● ★★


僕は秋子に借りがある画像

2008年08月
講談社刊

(1800円+税)

2009年07月
講談社文庫化

   

2008/10/29

 

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自選短篇集とのこと。特定のシリーズに捉われていない所為か、どちらかが魔女より楽しめました。
殺人事件の謎解きストーリィから始まりファンタジー的なもの等々まで、収録された13篇の趣向は実に多彩です。

冒頭の殺人事件2篇。暗さがなく、さらっと書かれているので、事件の謎より当事者たちのやり取りの方が楽しめたり(「虚空の黙祷者」)、現代おとぎ話かと思わせながられっきとしたミステリだったり(「小鳥の恩返し」)と、巧妙な仕掛けが楽しい。
SFとミステリ、ショートショートと短篇という違いはありますけれど、余計な感情を交えず淡々とストーリィを書き綴っていくところは星新一さんを偲ばせられます。
そんな雰囲気に乗せられてさらっと読んでしまうと、肝心の仕掛けを見落としてしまうこともないとは言えませんから、ご用心(「探偵の孤影」)。

ミステリ、推理ものというより、読者に対する仕掛けの面白さが持ち味の短篇集と言うべきなのでしょう。
そうした雰囲気は、ミステリ系だけでなく、SF・ファンタジー系の篇についても同様。ただし、こちらの方は謎解きでないだけに仕掛けものかそうでないのか見極めが難しく、読み終わった後も未だ??ということが幾度かあり。これは一重に私の読解力不足かもしれませんが・・・・。

なお、「素敵な模型屋さん」はファンタジー要素、「キシマ先生の静かな生活」は主人公のユニークさ、表題作「僕は秋子に借りがある」はその雰囲気が、何よりの味わいです。

虚空の黙祷者/小鳥の恩返し/赤いドレスのメアリィ/探偵の孤影/卒業文集/心の法則/砂の街/檻とプリズム/恋之坂ナイトグライド/素敵な模型屋さん/キシマ先生の静かな生活/河童/僕は秋子に借りがある

  


  

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