水森サトリ作品のページ


1970年東京都生、東京都在住。「でかい月だな」にて第19回小説すばる新人賞を受賞。

 


   

●「でかい月だな」●        小説すばる新人賞




2007年01月
集英社刊

(1400円+税)

2010年01月
集英社文庫化

   

2007/01/21

 

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主人公の沢村幸彦は、中2の時、無免許で友人の綾瀬涼平とスクーターで海まで遠乗りする。その帰り、綾瀬からいきなり胸を蹴り上げられた幸彦は、ガードレールを越えて崖を転落し、右足に数回の手術を必要とする大怪我をします。1年後ようやく退院して中2に復学したものの、好きだったバスケはもうできない脚になっていた。
両親と姉は綾瀬を加害者として糾弾し、その母親への慰謝料請求に諦めないが、綾瀬を今までどおり友人と思う幸彦はそんな家族に隔たりを感じざる得ない。また元の同級生とは距離が生じ、新たな同級生たちとはどこか壁がある。
そんな幸彦が再び自分の人生を取り戻すまでの青春ストーリィ。

本作品のミソは、上記青春ストーリィにSFファンタジー要素が絡むところにあります。
地球人の心の中に入り込もうとする、宇宙から来た侵略者“ヤツラ”の存在を、何故か幸彦一人が感じ取っている。
青春期の試練にSFファンタジー要素がうまく絡めば面白い展開にもなると思うのですが、率直に言って私にはその2つがうまく絡み合ったとは思えない。
読んでいて、幸彦のストーリィがどこへ向かおうとしてるのか、幸彦の繰返しみる悪夢が彼の青春にどう関係するのか皆目つかめず、釈然としないまま読み進む結果となりました。
新しい学年で知り合った変わり者の科学オタク・中川京一、邪眼である左目を眼帯で封印しているという横山かごめという面白いキャラクターも登場しますが、幸彦の再生ストーリィに絡む必然性がもうひとつ足りない気がします。
結局は、幸彦が綾瀬との間でお互いに不幸な結果をもたらした事故について清算するというストーリィなのですが、それに至る展開がもうひとつ滑らかではない。そこに物足りなさを感じます。

※なお、本書におけるSFファンタジー要素、梶尾真治「黄泉がえりをふと思い出しました。

 


   

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