水生大海
(みずきひろみ)作品のページ


三重県鈴鹿郡関町(現亀山市)出身。1995年漫画家デビュー。2005年第1回チュンソフト小説大賞(ミステリ/ホラー部門)銅賞を受賞。08年「少女たちの羅針盤」にて島田荘司選によるばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作を受賞し、翌年同作にて作家デビュー。


1.熱望

2.ランチ合コン探偵
(文庫改題:ランチ探偵)

3.教室の灯りは謎の色

4.ランチ探偵−容疑者のレシピ−

5.ひよっこ社労士のヒナコ

 


           

1.

「熱 望 ★☆


熱望画像

2013年04月
文芸春秋刊
(1400円+税)

  

2013/05/25

  

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出版社紹介文に「究極のイヤミス!」とあり、イヤミスって何のこと?と意味が解らなかったのですが、「後味が悪い」「イヤな気分になる」ミステリ作品のことを言うのだそうです。
(この頃は何でも省略語にするのが好きだなァ・・・)

契約社員として働く清原春菜31歳、ようやく結婚が決まったと喜んでいたら何と結婚詐欺。なけなしの1百万円を取られた上に勤務先から契約を切られ、食うにも困る日々に。そこで一念発起した春菜が考えたことと言えば、今度は自分が男たちを騙して金を奪ってやろうというもの。さて、その結果は・・・。

差し詰めジェットコースター・ストーリイなのですが、何より呆れるのは、主人公の春菜が呆れるくらいに自己肯定的なところ。
特に男関係では全て、自分に都合の良い方へ勝手に思い込み、失敗しても決して自分の所為とは思わない。そしてたまに褒められれば、勿論よ!と自信たっぷり。いやはや・・・。
春菜の身に次々と起こる事は確かに不運な面もありますけれど、考え方が違っていれば別の結末もあったのでは、と思わざるを得ません。
例えば、誰かの所為にするのではなく、もう一度やり直せば良いと思うことができたのなら・・・と。

主人公の明るく前向きなキャラクターに反して、どんどん深みに嵌っていくという展開。それが軽快なテンポで語られていくところが本作品の持ち味でしょう。
なお、最後の第4章、こんな事件が実際に在ったよなぁと思えるところから実にリアル。
結末はとてもハッピーとは言えませんが、少なくとも「イヤ」と感じるような作品ではなかったなぁ。

            

2.
「ランチ合コン探偵 ★★
 (文庫改題:ランチ探偵


ランチ合コン探偵

2014年09月
実業之日本社

(1400円+税)

2016年10月
実業之日本社
文庫化

 


2016/10/13

 


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“安楽椅子探偵”もの連作ミステリ。
気分転換に軽い作品をと思って手に取ったのですが、趣向の面白さから予想以上に嵌りました。

阿久津麗子25歳、住宅関連会社の経理部に勤務する正統派美人。ところが彼氏にフラれ仕事中ボーっとしていたところ、鋭くその理由を見抜いていたきたのが、有能だがコミュニケーション能力欠如と評されている1期下の後輩、けれど同い年の天野ゆいか
思わぬところで打ち解けた2人、麗子がランチ合コンをセットする度、2人していそいそと出かけていきます。
麗子の狙いが彼氏探しにあることは明らかですが、ゆいかの狙いはというと、安楽椅子探偵の才能を発揮できる奇妙な話に巡り会うこと。
興味深い話に舌なめずりするゆいかの様子が眼に浮かんできて、思わず楽しくなってしまいます。

1.夜中にエレベーターが動くのは、自殺した幽霊の仕業?
2.毎週金曜日、大量に弁当を買う謎の美女の理由は?
3.銀行店頭でストーカーを取り押さえた俳優はヒーローか?
4.新婚旅行前に姿を消した妻の行方、理由は?
5.家の窓に毎日並び変えられるぬいぐるみの謎は?
6.離婚して回収した婚約指輪がなくなったのは元妻の盗みか?

なお、なぜランチ合コンが可能かというと、昼休みに加えて“時間有給”を取っているから、という設定。成る程なぁ。

1.アラビアータのような刺激を/2.金曜日の美女はお弁当がお好き/3.午後二時すぎのスーパーヒーロー/4.帝王は地球に優しい/5.窓の向こうの動物園/6.ダイヤモンドは永遠に

                     

3.
「教室の灯りは謎の色 ★☆


教室の灯りは謎の色

2016年08月
角川書店刊

(1500円+税)

 


2016/10/31

 


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学習塾「優勇塾」に通う高校1年の並木遥は、実は不登校中。
そんな遥を主人公にし、この学習塾を舞台にしたスクール風連作ミステリ。

学習塾といえば、補習あるいは受験の為に通ってくるところですから、そう問題事が起きるとは思えないようなものですが、それでも生徒たちがいれば思春期なりの悩みもそれなりの事件も起きる、ということなのでしょうか。
探偵役は、サイズの合わないテーラードジャケットをいつも着ていて、無愛想な塾講師の
黒澤光彰
黒澤にマイナーな印象を持っていた遥が、第1章で黒澤に救われるや、一転して黒澤にまとわりつき、彼の探偵能力を引きずりだそうとする毎度の展開が楽しい。
ランチ合コン探偵のような意表を突く面白さではなく、どちらかというとオーソドックスな展開のミステリです。

「水中トーチライト」:遥が不登校になった真の理由は何か。
「消せない火」:塾内で放火しようとしたのは誰か。
「彼の憂鬱、彼の選択」:バイト講師を内倉が嫌う理由は?
「罪のにおいは」:長野聖を部屋に閉じ込めたのは誰か。
「この手に灯りを」:安奈が逃げ出して事故にあった背景にどんな事情があるのか。

1.水中トーチライト/2.消せない火/3.彼の憂鬱、彼の選択/4.罪のにおいは/5.この手に灯りを

             

4.

「ランチ探偵−容疑者のレシピ− ★☆


ランチ探偵−容疑者のレシピ−

2016年12月
実業之日本社文庫刊

(593円+税)



2017/01/02



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OLコンビがランチ合コン相手の語り出す日常ミステリの真相をその場で解き明かす、コージーミステリ&安楽椅子探偵もの“ランチ探偵”シリーズ第2弾。
正統派美人の
阿久津麗子がワトソン役、ホームズ役は麗子の1年後輩にして同い年の天野ゆいかという設定は前作どおりです。

前作では、ランチ合コン+安楽椅子探偵ものという趣向の清新さと面白さに興奮したのですが、第2作となると最初から合コン目的が謎解きに設定されているとあって、少々興覚めの観あり。
しかし、謎が絡まないゆいかが合コン話に乗ってこないのですからやむを得ない、との弁。

1.借り上げ社員寮の部屋で幾度も起きた不審な出来事の真相は何か。
2.美容室、客の一人が持ち込んだスマホをゴミ箱に捨てたのは、本当にスタッフ女性のミスか?
3.大叔母から2匹愛犬と共に1千万円の負担付遺贈を受けた青年の話。犬を殺そうとした犯人は、遺産相続争いした相続人か?
4.スポーツジムの女子ロッカーからお金が入った封筒を盗んだ犯人の目的は何か?
5.シェアハウス住民の一人が大切にしていた写真に落書きしたのは、本当に彼が付き合っていた相手の幼い息子か?

「MENU 5.」では、ランチ探偵はもうこれで最後?と心配させられましたし、ミステリ以外でのハラハラがありましたが、これからも本シリーズは続くと期待したいところです。
何といっても、麗子とゆいかのコンビが魅力的ですから。


1.その部屋ではなにも起こらない/2.密室における十人の容疑者/3.小日向家の犬はなぜ狙われる/4.秘密の扉を開くのは/5.そして、いなくなった

              

5.

「ひよっこ社労士のヒナコ ★☆


ひよっこ社労士のヒナコ

2017年11月
文芸春秋刊

(1500円+税)



2017/12/18



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元は派遣社員でしたが、ひたすら勉強して3回目で社会保険労務士の試験に合格したという朝倉雛子、26歳が主人公。
雛子を含めて4人という小さな事務所“やまだ社労士事務所”に所属する新人社労士として、依頼先の企業にて生じた様々な問題の解決に奮闘するという連作式お仕事小説。

山田真哉「女子大生会計士の事件簿と似たコンセプトですが、会計士の場合は経理・決算問題、社労士となれば労務問題と当然ながら問題ごとの内容は異なります。
それに加えて、女子大生といえどもベテラン会計士であったのに対し、本作の雛子は新人社労士。
新人故の甘さを突かれて、余計な面倒毎に巻き込まれる、ということも度々。

「五度目の春のヒヨコ」は、残業手当をめぐる問題。
「綿菓子とネクタイ」は、バイトの待遇問題。
「カナリアは唄う」は、産休・育児休業の問題。
「飾りより、灯りより」は、派遣社員の待遇問題。
「空に星はなく」は、パワハラ、労災問題。
・「撮りたい手は」は、裁量労働制の問題。
どの篇も特別にドラマチックということはありませんが、ブラック企業、過労死、不当解雇等が社会問題になってきた現在、タイムリーな題材なのかもしれません。

感じることは、社会の状況や考え方、物事の是非がどんどん変わりつつある、ということ(根っこは少子化かも)。
時代の趨勢に合わせて柔軟に思考を変えていく、変えていけることが大切だと改めて思います。

なお、読む側は簡単に読み通してしまいますが、こうした作品を書く側にはかなり苦労があったのではないかと思う次第です。


五度目の春のヒヨコ/綿菓子とネクタイ/カナリアは唄う/飾りより、灯りより/空に星はなく/握りたい手は

  


   

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