未須本有生
(みすもと・ゆうき)作品のページ


1963年長崎県生、東京大学工学部航空学科卒。大手メーカーで航空機の設計に携わった後にフリーのデザイナー。2014年「推定脅威」にて第21回松本清張賞を受賞し作家デビュー。


1.
推定脅威

2.リヴィジョンA

3.ドローン・スクランブル

4.音速の刃

  


   

1.
「推定脅威 ★★         松本清張賞


推定脅威

2014年06月
文芸春秋刊
(1350円+税)

2016年06月
文春文庫化



2015/08/26



amazon.co.jp

領空侵犯の疑いがある正体不明機に向かってスクランブル発進した自衛他戦闘機が、2度も続けて事故で墜落。
その事故に背景には何かあるのか・・・?
松本清張賞を受賞した理系ミステリの佳作。

事故を起こしたのは自衛隊練習機からアラート任務に転用されている
「TF-1」戦闘機。
同機を製造した航空機メーカー=四星工業の若き女性エンジニア=
沢本由佳のふとした一言を上司である永田が気に留め、かつて同期入社の仲間ながら現在は四星工業を退職してフリーデザイナーとなっている倉崎修一に相談が持ちかけられます。
そこからメーカー側サイドで沢本、倉崎、自衛隊サイドで事故を起こしたパイロットの
波江一尉を中心に、TF-1開発・運用に関わる様々な人を巻き込んだサスペンスストーリィが展開されます。

何より面白いのは、TF-1開発にかかる様々な経緯、確執、自衛隊小松基地での運用を背景にして、戦闘機の設計仕様が細かく説明されていること。
そのため、航空自衛隊、その戦闘機に関心があれば興味尽きない作品といって良いでしょう。勿論、私自身はそれに該当します。
最後も、理系サスペンスならではの解決で、充分納得。

なお、
リヴィジョンAで気になっていた航空自衛隊の面々と主人公である沢本由佳との関係も分かって、すっきりした気分です。

   

2.
「リヴィジョンA ★★


リヴィジョンA

2015年06月
文芸春秋刊

(1500円+税)

2018年06月
文春文庫化



2015/07/20



amazon.co.jp

未須本さんのデビュー作推定脅威にて、自衛隊機墜落事故から始まる一連の事件解決に活躍した航空機メーカー=四星工業の若き女性エンジニア=沢本由佳を再び主人公としたストーリィ。

沢本が担当する練習戦闘機「TF-1」の生産は堅調なものの、それだけでは航空技術者として腕の振るいどころがない。恋人である倉崎からの示唆も受け、新たなチャンスはないものかと検討を始めた沢本が発見したのは、かつて社内で検討されたが廃案となったTF-1の改修計画案。それは、複座型であるTF-1を、より効果的にアラート任務を効率的に向上させるため単座型戦闘機へ改修するというものだった。
沢本の発案を始まりとして、TF-1の単座型への改修計画=リヴィジョンAがスタートします。
“リヴィジョンA”とは即ち「A改訂」、従来機から初めて機体を大きく改修するという意味だそうです。

折しもライバルメーカーの開発遅れにより2百億円もの航空防衛予算の余剰が生じるという情報を入手、改修計画のプロポーサルにはまさにうってつけの状況。
しかし、障害は当然に多数あり。社内における別派の動き、最有力メーカー=三友重工との余剰予算2百億円を巡る攻防、防衛庁の三友重工シンパ等の妨害懸念等々と、興味は尽きません。
ただし、登場人物の敵味方、善悪がステレオタイプで描かれているのでスリリングさは余り感じられません。
また、親密な恋人同士だというのに、沢本由佳と
倉崎修一との他人行儀な会話は、幾ら何でもどうにかならないものか。

とはいえ、航空自衛隊の戦闘機開発・導入を巡るリアルなストーリィは、私にとってそれらを補って余りある面白さあり。
ただ、本作品を面白く感じられるかどうかは、読み手の好み次第となりそうです。

           

3.
「ドローン・スクランブル ★☆


ドローン・スクランブル

2016年10月
文芸春秋刊
(1550円+税)



2016/11/04



amazon.co.jp

今流行りのドローンを題材にしたストーリィ。
ジェット戦闘機に比べ、ドローンにはそれ程面白みを感じなかったので見送ろうと思っていたのですが、前2作同様に沢本由佳と倉崎修一らお馴染みの人物が登場すると知って、読んでみた次第。

民間ではいろいろとドローンの利用が広まっていますが、自衛隊による防衛面でそれをを利用する余地はあるのか、あるとしたらどういう利用が考えられるのか。
本作は、それを具体的に考えてみた、というストーリィ。
でも細部もリアルに描かれていますから、本作を読んでいると仮想のこととは思えず、実際に検討がなされているのではと思ってしまいます。
一方、前2作と異なって
四星工業、沢本由佳は主役ではなく、ライバルメーカーの技術者たち三友重工の内山田基山製作所の緒方らと幾人もいる主役の一人という構成。また、3社は競り合うのではなく、協力関係という展開になることから、スリリングという面では少々物足りなさを覚えます。

※本書を読んで収穫だったなぁと思えたのは、米軍の
ティルローター機(垂直/水平飛行の両方が可能)=オスプレイの問題点について知ることができたこと。
かねてから構造上、垂直飛行から水平飛行に移行するときの操縦に難点があり、事故が多いと言われていましたが、そもそもがどういう点で無理をしているのかということが、明快に説明されていました。成る程なぁと感じた次第。

         

4.

「音速の刃(やいば) Final Decision ★★


音速の刃

2020年06月
文芸春秋

(2050円+税)



2020/07/21



amazon.co.jp

女性エンジニア=沢本由佳が活躍する航空機ビジネス&サスペンス。
推定脅威」「リヴィジョンAに続く3作目。

四星工業、本シリーズでは悪役である
宮迫航空機開発部長の肝いりで、ビジネスジェット機(10人乗り)開発計画がスタートします。TF-1技術管理室に所属していた長谷川稔が、さっそく航空機開発部第一設計課空力制御グループに異動し、YBJプロジェクトに参加します。
一方、
沢本由佳は、倉崎修一の言葉をヒントに、TF-1機の新たな運用策としてアグレッサー(戦闘訓練での敵機役)への活用を提案、空自の懇意な面々から好感触を得て、実現へ向かって着々と進み始めます。

同じ航空機ビジネスといっても、ビジネスジェット参入計画では今一つインパクトがないのですが、国産戦闘機TF-1絡みというと胸がワクワクしてきます。
その主役が、大胆で柔軟な発想、相手の懐に物おじせず飛び込んでいく率直さを体現している沢本由佳であれば、尚のこと。

YBJプロジェクト、TF-1改修計画、ともに順調に進んでいくのですからそれでいいではないか、と思う処、何故か長谷川、5年早い入社の沢本由佳を勝手にライバル視し、嫉妬心を燃やしたりします。
元々長谷川、野心家。その性格を宮迫にうまく利用され、YBJプロジェクトはどう進むのか。
沢本、長谷川を囲む社内、そして外部の人間関係は、まさにお仕事小説そのままです。
どこでも問題人物の上司はいるもので、それに耐えてこそサラリーマン、というのもまた現実。
しかし、本作の最後は、何とまぁ、幾らなんでもそこまで・・・、という展開なのですが、まぁあくまで小説ですから。

願わくば、理系ヒロイン=沢本由佳の活躍を、是非また読みたいものです。

※三菱重工の中型旅客機計画は苦戦続きですが、一方でビジネスジェット世界で成功しているホンダジェット。その軌跡を綴ったノンフィクション=
前間孝則「ホンダジェットも十分面白い一冊でした。

   


  

to Top Page     to 国内作家 Index