道尾秀介作品のページ


1975年東京都生。2004年「背の眼」にて第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し作家デビュー。07年「シャドウ」にて第7回本格ミステリ大賞、09年「カラスの親指」にて第62回日本推理作家協会賞、10年「龍神の雨」にて第12回大藪春彦賞、「光媒の花」にて第23回山本周五郎賞、11年「月と蟹」にて 第144回直木賞を受賞。


1.
片眼の猿

2.光媒の花

3.月と蟹

4.カササギたちの四季

5.笑うハーレキン

6.スタフ

  


    

1.

●「片眼の猿」● 


片眼の猿画像

2007年02月
新潮社刊
(1600円+税)

2009年07月
新潮文庫化

     

2007/03/17

 

amazon.co.jp

超人的な能力をもつ探偵たちによるサスペンス・ミステリ?

冒頭に登場する会社員同士の会話から、本書における主要な登場人物たちの特異なキャラクターが印象付けられます。
主人公の三梨は盗聴を得意とする探偵で、彼の耳にはヘッドホンで隠すほど大きな特徴があるらしい。
そして彼がスカウトした女性探偵・夏川冬絵は、いつも黒いサングラスで隠すだけの特徴ある目の持ち主らしい。

三梨が依頼を受けていた調査先の会社で殺人事件が発生する。そして冬絵の不審な行動。そして行き着く先は、探偵会社同士の争い。事件の謎だけでなく、本書の登場人物たち自体が謎を背負っています。
そうした中で発生した殺人事件は、三梨自身にどう関わるのか、そしてどんなサスペンスを見せるのか。
謎が多い割りに、事件そのものは割りと平凡としか言いようがありません。しかし、そこで気づくのです。本作品における謎はストーリィの中にあるのではなく、むしろ読み手に対する作者の仕掛けにこそあるのだと。
昔、そうした類のミステリを読んだことがあります。クリスティ「アクロイド殺人事件」。ただし、そんな手があるんだとは思ったものの、名作と感心するまでには至らず。そうした感想は本作品についても同じ。
謎が明らかにされて納得はしたものの、だからどうした? いささかこじつけが過ぎる、という印象です。

主人公を囲む登場人物たちとの仲間の輪は楽しいものですが、それを活かすならシリーズものにする他ないと思う次第。

     

2.

●「光媒の花」● ★★          山本周五郎賞


光媒の花画像

2010年03月
集英社刊

(1400円+税)

2012年10月
集英社文庫化

  

2010/06/27

 

amazon.co.jp

人が自分のためではなく、人のために嘘をつくとき、そこには大切な何かを守ろうとする理由がある。そしてその嘘には、何かの哀しさが漂う。
本書は、そんな人々の哀しい人間ドラマを連作風に描いた長篇ストーリィ。
作者の道尾秀介さん、既に幾つもの文芸賞を受賞していて、そのその評価は極めて高いと言うべきですが、私については最初に読んだ「片眼の猿」で引っ掛かりを覚えてしまい、ずっと敬遠してきました。今回、山本周五郎賞受賞を契機に、再挑戦。

道尾さんというとミステリ、サスペンスというイメージなのですが、本書はそのどちらでもありません。でも、各篇ともサスペンスチックな仕掛けがあるからこそ惹き付けられる、という印象です。
どの篇にも、少年・少女たちが登場します。その子たちの置かれた状況、決して万全ではなく、恵まれた状況にあるとは言えません。むしろ暗いという雰囲気さえ感じます。
それでもどこかに希望を繋ぐ鍵がある、そこが本作品の優れたところでしょう。
哀しさの中に一筋の光がある、だからこそ余韻が残ります。
 上手い!の一言。

「隠れ鬼」:認知症の母親を抱えた中年の息子が知った衝撃。
「虫送り」:小学生の兄妹が関わったホームレスの死。
「冬の蝶」:中2同級生の女の子の抱える哀しい虚構と現実。
「春の蝶」:幼い女の子が嘘を続けた理由にある哀しさ。
「風媒花」:弟のために姉が装った嘘の結果は・・・。
「遠い光」:無口な女の子が抱えていた哀しさと希望。

隠れ鬼/虫送り/冬の蝶/春の蝶/風媒花/遠い光

      

3.

●「月と蟹」● ★★          直木賞


月と蟹画像

2010年09月
文芸春秋刊

(1400円+税)

2013年07月
文春文庫化

  

2011/02/23

  

amazon.co.jp

海辺の町に住む小学生3人、彼らが密かに始めた儀式は、ヤドカリを「ヤドカミ様」という神様に見立てて、願い事をするというもの。願ったことは本当に叶ったのか。
次第に主人公は、自らが創り上げた暗い淵の中に引きずり込まれていくかのようです。そしてその結果は・・・・というストーリィ。

次第に募ってく追い詰められ感、圧迫感が流石。凄い!の一言です。
冒頭から始まって結末に至るまで、頁を繰っていくに連れてそれは高まっていき、主人公のみならず、読み手もまた追い詰められていくようで、息苦しい程。でも逃れることはできません。
そうした文章の運び、ストーリィの展開が実に上手い!
本書の凄さはまさにそこにある、と評して過言ではありません。
ただし、ストーリィ自体は暗部に嵌まり込んでいくようであって、率直に言うと、私としては好きではないタイプ。

主人公たち3人が「ヤドカミ様」という神を作って願いをかけるという行為の根底には、各々が抱えた鬱屈にあることが次第に明らかになっていきます。
それは余りに狭量ということもできますが、その相手が各々の親であり、所詮彼らがまだ子供に過ぎないことを考えると、仕方のないことなのかもしれません。

       

4.

●「カササギたちの四季」● ★☆


カササギたちの四季画像

2011年02月
光文社刊

(1500円+税)

2014年02月
光文社文庫化

  

2011/04/24

  

amazon.co.jp

紹介記事を読んで面白そうだと思ったのですが、私としてはそれ程面白いとは思わなかった、というのが率直な感想。

開店して2年間、今も赤字続きの零細リサイクルショップ・カササギ
店長の
華沙々木(かささぎ)丈助は、謎めいた事件がちょっとでもあると商売そっちのけで首を突っ込みたがるし、主人公である副店長の日暮(ひぐらし)正生は、ガラクタを高く買い取らされてばかりという買い取りヘタ。共に28歳。
そして、どこが居心地良いのか、中学の
南見菜美はこの店にいつも入り浸り。
そんな3人が、仕事上から関わった謎の事件の解決に、頭脳と労力を尽くす、というストーリィ4篇。

以下、ネタバレ的なところがありますので、ご注意ください。

謎めいた事件にぶつかると、喜び勇んで推理をめぐらす華沙々木、ところがいつもとんだ的外れ。おかげで、その度に苦労させられるのは、日暮。
華沙々木が自分の推理を自慢げに披露する前に、細工してその推理を取り繕う、そしてその後真犯人に真相を突き付ける、というパターンの繰り返し。その理由は、華沙々木を信奉する菜美をがっかりさせないため。
いわば、安楽椅子探偵もののパロディ、ホームズとワトソン2人組の真の探偵はワトソンだった、というような趣向。

趣向自体には喝采するものの、ストーリィがそれと同じくらい面白いとは限らない、というのが難しいところ。
それでも、この趣向は十分楽しめる、軽快なユーモア・ミステリ譚です。
ところで菜美、本当に華沙々木の推理を信じているのやら。

春−鵲の橋/夏−蜩の川/秋−南の絆/冬−橘の寺

                

5.

「笑うハーレキン The Laughing Harlequin ★★


笑うハーレキン画像

2013年01月
中央公論新社

(1600円+税)

  

2013/02/10

  

amazon.co.jp

愛する息子を失い、妻に去られ、会社も潰れて今は中古トラック一つ、ホームレスの家具職人にまで落ちた東口太一を主人公にした、人生再生ストーリィ。
中古トラックで走り回るその助手席にいつも陣取っているのは謎の人物。東口に盛んに話しかけ、揶揄するかのような存在、それを東口は
“厄病神”と呼んでいる。
そんな東口の元に押しかけ弟子として現れたのが、自分も宿無しだと名乗る若い女性の
西木奈々恵
その奈々恵の登場がきっかけになったのが、スクラップ置き場に住まう東口と4人のホームレス仲間の生活に徐々に波風が立ち始めます。

東口が名付けた厄病神とは一体どんな存在なのか。そして東口が抱え込んでいる心の痛みとは何なのか。さらに東口に近づいてきた西木奈々恵の目的は何処にあるのか。
ホームレスたちの人生再生ストーリィに、終盤サスペンス小説のような展開が待ち受けているところが道尾作品らしい、と言うべきか。

余りに辛いことが重なると、人は過去から目を背け、その事実から逃げようとするもの。
しかし、再生するためにはその事実に真っ直ぐ立ち向かう必要があります。でもどうすればそれができるのか。
本ストーリィは、道尾さんらしいやり方でその答えを導き出して見せている、そんな気がします。
ストーリィは面白く、登場するどの人物もキャラクターに味わいあり、といった満足度の高いエンターテイメント作品。お薦めです。

※「ハーレキン」とは道化者のこと。

      

6.
「スタフ staph ★☆


スタフ

2016年07月
文芸春秋刊
(1600円+税)


2016/08/09


amazon.co.jp

浮気した夫と離婚した後、ワゴン車での弁当販売を始めた掛川夏都(なつ)が人違いにより巻き込まれた騒動は、話題の中学生アイドル=カグヤが姉のため、スキャンダルになりかけない携帯メールを削除しようとしたことから始まったもの。
看護師として海外で援助活動に働く姉から預かって同居している中学2年の甥=
智弥や、その智弥が通う学習塾の講師=菅沼まで巻き込む結果になっただけでなく、事件は夏都の予想を越えて大きなものとなっていく・・・。

「想像をはるかに超えたラストで話題騒然となった週刊文春連載作」という紹介文に興味をそそられ、久々に道尾作品を読んだのですが、結果としてはがっかりした、というのが正直な感想。

ごく普通人であるバツイチ女性が巻き込まれた事件はどこまで広がっていくのかというスリリンな様相を見せたというのに、終盤でそれはあっさりと決着が付き、本当の真相は○○○○にあったと知らされる訳ですが、何だかなぁ・・・。

本書を面白いと感じるかどうかは、本ストーリィから浮かび上がった問題を読み手がどう受け止め、どう解釈するか次第によると思います。
私について言えば、あまり感慨を受けませんでしたが。

  


  

to Top Page     to 国内作家 Index