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1.あがり 2.代書屋ミクラ 3.就職相談員蛇足軒の生活と意見 4.すごろく巡礼−代書屋ミクラ− 5.5まで数える 6.山手線が転生して加速器になりました。 |
「あがり」 ★★ | |
2013年10月
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北の街にある古い総合大学の研究室を舞台にした、“理系SF”短篇集。 “理系SF”であるが故に、各篇の最後に至っても、はて、何がミソだったのか? よく考えてみないとストーリィの意味が飲み込めず、ということもあり。 最後の2篇は、前の3篇以上に人間味が感じられて楽しい。そして「へむ」は少年少女の思い出に残るファンタジー冒険物語風。 ※なお、舞台となっている“北の街”とは、つい札幌のことかと思ったのですが、仙台のようです。 あがり/ぼくの手のなかでしずかに/代書屋ミクラの幸運/不可能もなく裏切りもなく/へむ |
「代書屋ミクラ」 ★☆ | |
2016年04月
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「出すか出されるか法」(正式名称:大学および各種教育研究機関における研究活動推進振興法)とは、3年以内に一定水準の論文を発表できない研究者は退職しなければならないという趣旨の法律。 すっかり忘れていましたが、この代書屋ミクラ、前作「あがり」にて既にお目にかかっていました。 ただ一つ言えることは、ノホホンとした主人公による、極めてホンワカしたストーリィであること。 超現実な彼女/かけだしどうし/裸の経済学者/ぼくのおじさん/さいごの課題 |
3. | |
「就職相談員蛇足軒の生活と意見」 ★☆ | |
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蛸足大学理学研究科生物分類学分野で博士号をとり一応研究員ではあるものの無給、という訳で、主人公のシーノ27歳は研究職を求めて職安に何度も足を運ぶものの、全く就職を果たせず。 どんな特殊求職者が現れるのやら。ここで紹介してみたいですけれど、それは読んでのお楽しみ。 それが「人工の心」の章となると幾ら何でもと、少々絶句。そして終盤のトラブルにショックを受けたシーノは見知らぬ街を放浪することになるのですが・・・。 懇切、ていねい、秘密厳守/かなしき食糧難/三秒の壁/人工の心/博士浪人どこへゆく |
「すごろく巡礼−代書屋ミクラ−」 ★☆ | |
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“代書屋ミクラ”第2弾。 年上の助教を恋するミクラ、研究室から姿を消した彼女が辺路島に向かったと聞き、愛用の自転車=彗星号を質入れしてまでその後を追います。 辺路島は元々巡礼の島。そこでは巡礼を模して島中をすごろくのように歩き回るゲーム“すごろく祭”が行われようとしていた。すごろくの<あがり>できっと助教に会える筈と信じて、ミクラは息も絶え絶えになりながらすごろく祭の参加者47人に滑り込みます。 奮闘するミクラ、果たして助教との恋は成就できるのか? ミクラの助教への恋に余り説得力はなく、ミクラの恋が成就しようがしまいが、正直なところどっちでもいい。 それより、ロードノベルのような出会いの楽しさ、島民あげてのすごろくゲームという趣向、そして次から次へと繰り出される奇策が、結構楽しめます。 ちょっと惚けたミクラのキャラクターがあってこその楽しみではありますが。 なお、本書では同じすごろくゲームの参加者で、一日目にあれこれとミクラが助けられる「代参屋」とミクラの絡みが楽しい。 すごろくのあがりでどんな展開が待ち受けているのか、どうぞお楽しみに。 |
「5まで数える I can't count Five」 ★☆ |
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理系ストーリィが持ち味である、松崎有理さんのSFホラー的な短篇集。 ・「たとえわれ命死すとも」:動物愛護の果てに動物を使った医療実験が禁止され、医師自ら実験台になる(実験医)という近未来社会。主人公は同僚の犠牲の上についに彗星病ワクチンの開発に成功するが・・・。 ・「やつはアル・クシガイだ」:バイオハザード並みにアル・クシガイが暴走を始めた社会、その最後こそホラー・・・。 ・「バスターズ・ライジング」:前の篇に登場した“疑似科学バスターズ”の誕生ストーリィ。リアル観があるから面白い。 ・「砂漠」:護送機が墜落し、手錠と鎖で繋がれたままの犯罪者6人が砂漠に。最後の最後で・・・・、これは怖い! ・「5まで数える」:数を数えられない主人公の前に姿を現した幽霊。数が数えられなくても数学を理解できないことはない、と少年に数学を教えてくれます。 ・「超耐水性日焼け止め開発の顛末」:掌篇。オチが笑えます。本書の中にあっては、デザートと言える一篇でしょう。 読者の好み次第という面が大きい短篇集ですが、読了後しばらく経ってからの方がじわじわとその味わいを感じる気がします。 たとえわれ命死ぬとも/やつはアル・クシガイだ−疑似科学バスターズ−/バスターズ・ライジング/砂漠/5まで数える/超耐水性日焼け止め開発の顛末 |
「山手線が転生して加速器になりました。」 ★★☆ | |
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松崎有理作品、久しぶりの読書です。 まず、表題に興味を惹かれました。想像もできない事柄で、面白そうだと思った次第。 表題作、興味はあったものの頭が付いていけず、というのが正直なところ。 でも、<山手線>が加速器に代えられるとともに知性まで与えられ、加速器の存在意義に疑問を持つ。そこで、先に直線式加速器となっていた<中央線>が説得を試みる、という展開は愉快。 読み進むにつれ、それぞれ別個のSFではなく、共通した背景があるらしいことに気づきます。 パンデミック拡大により人々は都市生活を断念・放棄し、都市文明は消滅。また、リモート生活、アバターの活用常態化。 また、地球外知性体との接触有無、といったように。 ひとつひとつの篇も面白く、私としては「不可能旅行社の冒険」「ひとりぼっちの都会人」「みんな、どこにいるんだ」がお気に入り。 しかし、興奮したのは、最後の「付録・作中年表」。 確かに付録というものなのですが、すべての篇を集約し、すべての疑問を明らかにする、圧巻の篇。 つい「付録」を先に読もうとする方もいるかと思いますが、最後に楽しみにとっておくことをお薦めします。それでこそ本作の面白さを堪能できる、というものです。 まさか、こんな壮大なスケールをもつ、宇宙史に繋がる短篇集だったとは! 是非お楽しみに。 山手線が転生して加速器になりました。/未来人観光客がいっこうにやってこない50の理由/不可能旅行社の冒険−けっして行けない場所へ、お連れします/山手線が加速器に転生して一年がすぎました。/ひとりぼっちの都会人/みんな、どこにいるんだ/総論 経済学者の目からみた人類史/付録:作中年表 |