松尾清貴
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1976年福岡県生、北九州工業高等専門学校中退。

  


       

「ちえもん ★★


ちえもん

2020年09月
小学館

(1900円+税)

2022年01月
小学館文庫



2020/10/28



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寛政十年(1798年)、長崎湾の沖合で阿蘭陀商船が座礁、沈没したところから始まる本ストーリィは、上記実在の事件、実在の人物たちを題材にした長編時代小説。

主人公は、周防国櫛ケ浜の廻船商である<山本>の次男として生まれた
喜右衛門
経済情勢がこの先芳しくない櫛ケ浜では、跡取りである長男として生まれた者は良いが、次男、三男に生まれた若者たちは長男に威張りまくられるだけで何の希望も持てず、という状況。
そうした中、同じ冷や飯食いの若者たちの力を糾合し、外の世界へ打って出ようとしたのが、この喜右衛門、という次第。
つまりは、“持たざる者”たちによる挑戦の物語。

腕力第一だった中、アイデアで勝負していく喜右衛門、「ちえもん」とは“智慧者”という意味のようです。
故郷、従来のやり方に囚われず、新しい漁法の導入、廻船業、新たな浦(漁場)開発を遂げていく一方、支配者たちとの交渉事で抜け荷商売にも関わらざるをえなかった喜右衛門の長い道のりが綴られていきます。
そのクライマックスが、沈没した阿蘭陀商船「エライザ号」の引き揚げ作業。まさに圧巻です。

硬直した幕藩体制、自分たちさえ利益を上げれば良いと結託する幕府・長崎会所。
それらに対し、出身地や家に制約されず自由に羽ばたこうとする喜右衛門たちの姿は清新です。

鎖国の唯一の例外であり先進地であった筈の長崎の、すぐ近く場所でこうした歴史もあった、ということに目を開かせられる思いです。

   


  

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