松村栄子作品のページ


1961年静岡県生、筑波大学第二学群比較文化学類卒。90年「僕はかぐや姫」にて海燕新人文学賞、92年「至高聖所(アバトーン)」にて芥川賞を受賞。


1.
ひよっこ茶人の玉手箱
(文庫改題:ひょっこ茶人、茶会へまいる)

2.雨にもまけず粗茶一服

3.風にもまけず粗茶一服

4.花のお江戸で粗茶一服

 


    

1.

●「ひよっこ茶人の玉手箱 ★★☆
 
副題:「インターネットでお茶を愉しむ」 (文庫改題:ひょっこ茶人、茶会へまいる)


ひよっこ茶人の玉手箱画像


2000年04月
マガジン
ハウス刊
(1500円+税)

2011年08月
朝日文庫化



2004/12/22

雨にもまけず粗茶一服でぐっとお茶の世界に惹きつけられたこと、松村さんの他の本も読みたいと思ったことから、自然に手が出た一冊。
副題にあるように、インターネット真ML茶の湯Community に入り込んで以来一気にのめり込んだ、松村さんの実体験に裏打ちされたエッセイ本です。

お茶の世界について全く無知な私ですが、同じく無知な状況から手探りでお茶の世界に入り込んでいった松村さんが、先輩として手取り足取りで案内してくれるところが有り難い。ふむふむ、そうかぁこれがお茶の世界だったのかァと、納得しつつ読み進むことができます。
本書を読む楽しさは、最初、仰々しいお茶の世界が実は楽しいものであると知るところにありましたが、次第にもうひとつの楽しさがあることに気付きます。それは、小説を読むような面白さがあること。つまり、お茶とは現実離れしたヘンな世界であり、それに一喜一憂する茶人とはどこかヘンな人たち(松村さんの説明によれば)だからです。
ここにいたって漸く、「雨にもまけず」がわざわざこしらえられた物語ではなく、お茶の世界から自然にこぼれ落ちてきた物語だと感じられるのです。
「雨にもまけず」(菓子)を読んだら、この「玉手箱」(お茶)も読んでこそ、「雨にもまけず」の面白さが満喫できるというもの。是非2冊合わせて読まれることをお薦めします。
なお、楽しさの一方で仰々しさ、七面倒なところがお茶の世界にあることも事実でしょう。ただ、本書では松村さんが前向きに、好意的に受け留めていることから、良い面のみが語られています。それを承知したうえで、やはり本書は読んで楽しい一冊。

(追伸)京都の和菓子の美味しそうなこと。大阪単身赴任の間に食べ回っておけば良かった(後悔)。お公家スタイルで茶会に出席する人が、本当にいるとは思わなかった(驚き)。

茶の湯はこわくない!?/ひよっこ茶人、茶会へまいる/ひよっこ茶人、ちょっと開眼/ML茶の湯ワンダーランド

 真ML茶の湯Community HomePage

 

2.

●「雨にもまけず粗茶一服 ★★☆


雨にもまけず粗茶一服画像


2004年7月
マガジン
ハウス刊
(1900円+税)

2008年11月
ピュアフル文庫
(上下)


2004/12/11


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読み始めたら止まらなくなり、一気に読み上げた青春エンターテイメントの傑作!
買ってでも読んで良かった、と思う一冊です。

主人公は、武家茶道(剣+弓+茶)の中小家元・坂東巴流の跡継ぎ息子、友衛遊馬
浪人した原因が大学入学試験をサボってコンサートに行っていたためとバレ、跡継ぎ嫌さもあってついに遊馬は家出します。
意図しないまま遊馬が居候暮らしをすることになったのは、皮肉にも遊馬が嫌っていた筈の京都。その京都で、遊馬は風変わりな茶人たちと関わることになります。
何をしたいのか判らないままのフリーター暮らしという、如何にも現代的な若者=遊馬の青春成長ストーリィ。
しかし、本書の骨子を考えると紛れもなく、時代小説における御曹司の武者修行、といった風なのです。

登場人物はいずれも個性派揃い。弟の行馬、袴姿の女性門弟=カンナ、調子のいい茶道好き青年=哲哉、正体のつかみきれない住職=不穏、公家姿の高校教師=幸麿、等々。変人と言うべきかもしれない彼等ですが、わざとらしさのないところが良い。
京言葉を嫌悪していた遊馬の、京都の町や奇妙な隣人たちに引き回されつつ、徐々に成長していく姿が理屈抜きに楽しい。
それに加えて、茶道の世界を覗き見るという楽しさもあります。
楽しく洒落た小説が好きな方には、是非お薦め。

         

3.

●「風にもまけず粗茶一服 ★★


風にもまけず粗茶一服画像


2010年12月
マガジン
ハウス刊
(1500円+税)

2014年01月
ポプラ文庫化



2011/01/16



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雨にもまけず粗茶一服の続編。
前作の最後で主人公=
友衛遊馬(あすま)は、修行のため延暦寺の一山である<天鏡院>の門を叩きますが、本書はその天鏡院での修行ぶりが中心となるストーリィ。

ところがその天鏡院、とんでもない処。
住職である
柴門老師が比叡山千日回峰を満行した行者(阿闍梨)である所為か、食料はすべて自給自足、燃料も自ら薪を用意して、といった具合。
そんな状況でも遊馬がそこに留まれたのは、前作での成長の証でしょうか。
前作を修行時代の初級編とするならば、本作は中級編&上級編。中級と上級の違いは、他人の立場を考え、実のある意見をすることができるようになった、というところ。

前作のような、初めて知る奇妙な茶人世界という、絶妙の面白さはもう味わえませんが、遊馬を初めとして登場人物らのその後を様子を知ることができるのは嬉しいこと。
また、遊馬が成人になった記念として出場した<
三十三間堂大的全国大会>、山での行者のような暮らしぶりが読み処です。
前作もそうでしたけれど、最後の締め方が上手い。次への新しい飛躍を感じさせられて、胸がはずむ気がします。
本作品の面白さは、前作を読んでいて初めて味わえるもの。まずは前作を読んでみることをお勧めします。

なお、
「雪にもまけず粗茶一服」は、遊馬の周辺人物を主人公にした3篇。武藤カンナの意外な出生の秘密が明らかになります。

風にもまけず粗茶一服/雪にもまけず粗茶一服

 

4.

「花のお江戸で粗茶一服 ★★


花のお江戸で粗茶一服

2017年11月
ポプラ社刊

(1800円+税)



2017/12/07



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“粗茶一服”シリーズ第3弾。
勝手に前2作で完結と思い込んでいたので、第3弾?と戸惑うところがあったのですが、読めばやはり心弾むように楽しくなってくる、ユニークなお茶&武道を究めんとする青春ストーリィ。

雨にも負けず風にも負けずが、これからどんな道を進めば良いのかと主人公=友衛遊馬が揺れ惑う“青春篇(前期・後期)”という感じだったのに対し、さしづめ本作は“青年篇”といった感じです。
京都から東京の実家に戻り、ようやく遊馬の進む道も定まったかと思えたのですが、相変わらず迷いっぱなし。
それでもうろうろと迷い、惑い、蛇行しながらも、少しずつ前進していく様子が見られます。
当然ながらストーリィの多くは、友衛家内、
坂東巴流内の問題に費やされますので、<茶・弓・剣>の三道帰一というユニークな面を持つ一方、弱小流派の苦労も描かれていて、たっぷり楽しめます。
ただ、遊馬がジタバタしている間に、内弟子となっていた遊馬のガールフレンド=
桂木佐保の方がさっさと成長を遂げて巣立っていってしまう対照的な姿は、何と言ってよいやら(笑)。
でも、ふらふらしているように見えて、いつの間にか弟子たち等々から慕われているらしいところが意外に頼もしい。

割り切ってさっさと進むのではなく、試行錯誤しながら得心が行くまで迷い続けるという遊馬の在り方が、青年として正統な姿に思えて好感を抱きます。
とにかく様々な人物が遊馬の周りで蠢いているところが、本シリーズの楽しさ。つねに周りは賑やかです。

このシリーズ、まだまだ後がありそうです。楽しみ、楽しみ。


序/1.風太郎勿食(はたらかざるものくうべからず)の段/2.回転回転回(おもえばいつものでんぐりがえし)の段/3.神無月茶事曲者の段/4.電視机(テレビ)桟敷の段/5.真盛(まさか)江戸桜の段/6.夏雪(きせつはずれの)菊人形の段/7.零点(ひくにひかれぬ)青不動の段/8.如花自在野(はなはのにあるように)の段/9.風神雷神の段/10.墨田川藍憶(あいのおもいで)の段/11.驕春美少女(おごりはるのうつくしきかな)の段/12.娘道場掃除の段/13.禍福初春(めでたくもありめでたくもなし)の段/14.伊織参上の段/15.誰遺一片羽(だれがかたみのひとひらのはね)の段/16.茶事如合戦(ちゃじはかっせんのごとく)の段/17.三代貫茶此処路(みよをつらぬくちゃのこころ)の段/18.矢勝背和式秋空(やがてせわしきあきのそら)の段/19.雲居雁泣別(くもいのかりなみだのわかれ)の段/20.出梅不時茶(あめあがりときしらずのちゃ)の段/21.坂東巴流在此(ここにあり)の段/22.冬月照武者(つわものてらすふゆのつき)の段/23.天地人各事情(それぞれのじじょう)の段/24.藁屋(わらやに)名馬の段/結

       


  

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