草野たき
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1970年神奈川県生、実践女子短期大学卒。99年「透きとおった糸をのばして」にて講談社児童文学新人賞を受賞し作家デビュー。同作で児童文芸新人賞、2007年「ハーフ」にて日本児童文学者協会賞を受賞。


1.
透きとおった糸をのばして

2.
ハーフ

3.リリース

4.空中トライアングル

5.グッドジョブガールズ

6.Q→A

7.マイブラザー

 


           

1.

「透きとおった糸をのばして」 ★★☆  講談社児童文学新人賞・児童文芸新人賞


透きとおった糸をのばして画像

2000年07月
講談社刊
(1400円+税)

2006年06月
講談社文庫化

  

2013/03/02

  

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両親が英国ロンドンに赴任したため、中二の日下部香緒は従姉の大学院生=牧瀬知里(ちり)の同居を受け、日本で留守番中。
その香緒のこのところの悩みは、親友であった
唐沢ちなみが男子同級生とのことがきっかけになってもう4ヶ月も口をきいてくれないこと。
そんな2人が共同生活する日下部家に、知里の高校時代の友人だという
正木るう子が突然転がり込んできます。長距離恋愛の恋人から突然別れを告げられたが納得できない、その恋人を追いかけて、と。

香緒、るう子、2人共に大切な友人・恋人との繋がりを失いかけて苦しんでいるところに共通点があります。しかし、香緒がじっと相手が再び振り向いてくれるのを待っているのに対し、るう子の行動はまるでストーカー。いつも冷静な知里も、実は辛い失恋という心の痛みを抱えていたことが分かります。
さて互いに苦しむ3人が各々掴みとった道とは・・・。

香緒、るう子の自分勝手な行動に呆れながらも、ふとるり子の苦しみは自分のそれと共通していることに気付きます。
苦しい時、人はどうしたらいいのでしょうか。じっと待つだけで良いのか、それともどんなことであれ行動した方が良いのか。
本作品はそんなメッセージを感じさせてくれる佳作。

大切な友人を思う主人公の純粋さ、切なさ。そして中学生らしい清新なの青春風景が魅力。
本書題名の意味が中々分かりませんでしたが、最終頁でその意味は明らかにされます。
感動と希望、そして未来。素敵な一冊です。お薦め。

             

2.
「ハーフ ★★           日本児童文学者協会賞賞


ハーフ

2006年06月
ポプラ社刊

(1300円+税)

2008年03月
ピュアフル文庫


2016/06/14


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真治、父親からずっと母親は飼い犬のヨウコだ、と言われて育ってきました。当然ながらヨウコが奥さんと言う訳で、父親はいつもヨウコを大切にしてきた。
本書はそんな父子とヨウコの家族物語。

そんなことがある訳もなし。でもこの家族、ヨウコを含め本当にひとつ家族として仲良く暮らしていて、愛情に満ちているという雰囲気。如何にも良い家族なんですよねー。

家族の中だけであれば雑種の雌犬を奥さん、母親扱いするのも構わないのですが、真治が大きくなればそのままでは済まないことも出てきます。第一、人間と犬では寿命が大きく異なるという問題もありますし。

大事な存在を失ってしまった父子が、二人きりの家族になったという現実を直視して再出発するまでの過渡期のストーリィ、ということなのでしょう。

それでも、真治と父親&ヨウコという家族の温かさに惹きつけられます。
また、男っぽい同級生=
三浦花子の真治に対する好意も、そんな宮田家の優しさに触れたからこそのように感じます。

ちょっとコミカルでちょっと哀しい、優しくて温かい家族ストーリィ。私の好みです。

            

3.

「リリース ★★★


リリース

2010年04月
ポプラ社刊

(1300円+税)



2017/03/31



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中学2年の明良(あきら)、誕生したその日に交通事故で死んだ父親の生まれ変わりと言われ、自分と同じ外科医にという父親の願いを受け継ぐため優等生的に振る舞ってきた。
しかし、敬愛していた兄の信じ難い行動、それを伝えてきた女生徒のプレッシャー、明良がキャプテンを務めるバスケ部に入部してきた強豪校からの転校生による不協和音等によって、優等生を装ってきた明良のペースは徐々に崩されていく。
そして、祖母の思いがけない行動に対して伯父や叔母らがケチをつけたとき、キレて怒り声をあげてしまった明良は、自分を抑えきれず・・・・。

一家を背負い看護師として働く母親、母弟のため家事の一切を引き受けている兄、重荷を背負わされた主人公・・・それだけでも十分家族ドラマになると思うのですが、本作はそれだけに留まりません。

弱小バスケ部の仲間たち、兄のことを告げ口してきた女生徒、バスケ強豪校からの転校生と、各人が(短いけれど)読み応えのあるドラマの主役になっています。
それらが繋がり合って、明良自身の世界も、これからの可能性も広がっていく。それが中高時代の良さというものでしょう。

意外とショボかった明良も、
真野らバスケ部の仲間も、転校生の小杉も、篠原真由という女生徒も、兄の和也も、皆好きだなぁ〜(好かれない大人は省略)。
感動と喜びと、そして繋がりと成長。
健やかで広がりのある青春ストーリィです。お薦め!

※なお、開き直ってからの明良の
母親、愉快ですねー。この母親と祖母には、こんな大人になろうよ、という魅力を感じます。

   

4.

「空中トライアングル」 ★★


空中トライアングル画像

2012年08月
講談社刊
(1300円+税)

  

2012/10/06

  

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幼馴染3人が高校1年〜中学3年となって再会してからを描いた青春ストーリィ。しかし、ほろ苦どころかかなり苦い内容となっているところが、この年代を描いた青春ストーリィとしては珍しい。それが本作品の味わいどころです。

中学3年の律子、幼馴染の琢己と交際中。誰もがうらやむ彼氏をもっていて満足していた律子ですが、小学生の時に引っ越していったもう一人の幼馴染であるとの再会を機に、琢己との間にも波紋が生じていきます。
そして、律子が信じ切っていた3人の関係が、実は思っていたのとはまるで違ったものであったことが明らかになっていく、という展開。それにもうひとつ、同級生が目覚めた恋に律子が圧倒される部分が加わります。

やや観念的なところがあり、また主要登場人物に感情移入できないところが多少難ですが、この苦さこそ貴重なものであろうと感じます。その苦さを味わったことで律子、子供時代から一歩成長の階段に足をかけることができたのですから。
その苦さをそのまま体現しているような存在が、律子の同級生である
浩美。私としては本書中最も印象に残る登場人物です。

たっぷり苦さを味わった後での終幕、その場面がとても気持ち良い。
苦さと気持ち良さが混じり合った一作、これは希少価値かも。

                    

5.

「グッドジョブガールズ ★★☆


グッドジョブガールズ

2015年08月
ポプラ社刊

(1400円+税)



2017/03/05



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小学5年のあかり、由香、桃子の3人組は、親友でもなければ仲良しでもない。フツーのようには仲良くしない、お互いに立ち入らないドライな関係という意味で、“悪友”関係。
そんな一人である由香が、小学校最後の思い出つくりに“チアダンス”をしようと言い出します。
しかし、悪友関係である故に、最初から躓きだらけ。
由香は思い出作りと言うが、あかりは好きな男の子の試合で応援をしたいから、というのが動機。一方、桃子はやりたくないと最初から離脱。
3人の思い出づくりは果たしてどうなるのか・・・・。

“悪友”関係だと3人が定義してしまっている故に、全てがぎくしゃくしてしまっている、とすぐ感じます。悪友というのは逆に不自由なものだと、感じるばかり。
おまけに応援する言い、素人なのに熱心に指導しだした担任教師は鬱陶しい。“グッドジョブガールズ”とは、その担任教師が名付けたチーム名。

小学生らしい女の子同士のバタバタ・ストーリィと思いきや、いつの間にか“友情”をめぐる深い考察へと進んでいく処が、実に素晴らしい!
結局、3人が唱える悪友関係とは、それぞれが抱えている弱みを表に出さないためだったと気付いていきます。
担任教師やあかりの父親、さらにあかりが父親の恋人?と思い込んだ女性の場合も含めながら、“親友”とはどんな存在か、と問うたストーィ。

胸熱くなる感動と共に、大事なものを教えられた気がするストーリィ。“親友”という関係はもっと自由に考えてよいのだと感じて、気持ちが軽くなった思いです。 お薦め! 

           

6.
「Q→A ★★☆


Q→A

2016年06月
講談社刊

(1400円+税)

 


2016/09/08

 


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随分変わった題名ですが、そこは草野たき作品だけにかえって興味と面白そうだという期待を抱いた次第。

中学最後の1年間、中3生5人が、アンケートに答えるという形で自分と向かい合う連作ストーリィ。
このアンケートという手法が実に良いのです。
自分の本心を自ら客観的に問い掛けるという形が成立していますし、中学生本人が答えるという設定の故に等身大のストーリィになっています。
自分の気付かなかった本心、本音が浮かび上がる。その結果、自分は何をしたかったのか、何を求めていたのかに気付く、という展開。
そしてそれは、次の高校生活への期待、抱負へと繋がっていきます。

中3生たちの素直な思い、純真な思いがはじけ躍動しているようで、とても素敵です。
大人も楽しめる作品であるのは勿論ですが、是非中学生〜高校生たちに読んでもらいたいなぁと感じる作品です。きっと明るい気持ちになれることと思います。お薦め!


Q1.違和感だらけの中三の春−野崎朝子/Q2.バレーボールにかけた青春の終わり−増田征児/Q3.不登校明けの青い空−高本雅恵/Q4.自分らしくいられる場所を求めて−波多野由里/Q5.彼女のことで頭がいっぱい受験直前生活−中瀬義巳/
A1.なにもかもが不安、だけど必ず、挽回したい!−高本雅恵/A2.片思いだけど、オレは彼女のことをもっと知りたい!−増田征児/A3.どこにも逃げない強い自分を作るため−波多野由里/A4.彼氏のイヤがる服は着ません!−中瀬義巳/A5.勝負の年にしたい−野崎朝子

          

7.
「マイブラザー My Brother ★★☆


マイブラザー

2021年11月
ポプラ社

(1500円+税)



2022/06/04



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主人公は、石田海斗、中二生
わがままいっぱいの
5歳の弟=総也の世話をするイクメン男子。

今や実質母子家庭となって大変な思いをしている母親を助けようとする感心な中学生、と思われるかもしれませんが、本当のところはちと違う。
有名大学を出て一流企業で研究員をしていた父親が、ある日いきなりパン職人の修業をしたいと言い出し、会社を辞めて千葉の山奥にあるパン屋で職人修業。
そんな父親に裏切られた思いと失望を感じ、海斗は中学受験を止めて近くの公立中学へ進学。そして母親に代わって総也の面倒を見ると宣言したのですが、総也を言い訳にして、周囲の諸々に関わるまいとしているだけのこと。

そんな海斗に近付いてくるのは、幼馴染の同級生、今や有望サッカー少年の面影もない
西尾健吾だけ。
しかし、偶然に保育園で一緒だった
山崎彩音に出会ったことがきっかけとなり、彩音が当時の保育園児の同窓会をやろうと言い出します。やむを得ず参加したものの、ずっとライバル視していて有名私立中学に進学した入江倫太郎に対し穏やかな気持ちでいられない。

草野たき作品、やはり凄いです、素晴らしい。
総也をダシにしながら総也に振り回されている海斗の姿も面白いのですが、保育園仲間の4人=健吾、彩音、倫太郎、ずっと不登校の
斉藤七菜という顔ぶれが、また良い!
どうなれば自分は満足できるのか、納得できるのか、その悩みは中学生も大人も変わらないようです。
その果てに、皆が見習いたいと言い出した相手が、5歳の総也というのですから愉快、でもその気持ち、分かります。

ユーモラスで、元気いっぱいで、友情の復活あり、挑戦あり、と目いっぱい楽しめる、中学生たちの苦闘&成長ストーリィ。
是非お薦めです。

      


   

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