栗林佐知作品のページ


1963年北海道札幌市生、富山大学人文学部卒。ガラス清掃、版下製作などを経て小説を書き始める。2002年「券売機の恩返し」にて第70回小説現代新人賞、06年「ぴんはらり」(「峠の春に」を改題)にて第22回太宰治賞を受賞。


1.
ぴんはらり

2.
はるかにてらせ

 


   

1.

「ぴんはらり」 ★★            太宰治賞


ぴんはらり画像

2007年01月
筑摩書房刊
(1400円+税)

 

2007/02/09

 

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表題作「ぴんはらり」は、幼女の時母親から水につけられて殺されそうになったところを尼僧に助けられ、養われてきた“きみ”という娘を主人公とする小説。
そんなきみが一人称で、しかも方言のままに語られるストーリィのため、素朴にきみの心根が伝わってくるところに味わいがあります。
調子の良い男に騙され、いいように利用され、村の娘たちから除け者にされようと、きみの真っ直ぐな心はけっして自分の夢を捨てない。
境遇に恵まれないながらも、自分に正直に真っ直ぐ、そして力強く生きていこうとする主人公のきみを、心から応援せずにはいられません。小品ながらとても心を洗われるような気持ち良い作品です。
きみの使う方言が楽しく、とても印象的。

「菖蒲湯の日」は「ぴんはらり」と違って現代もの。
しかし主人公は上記のきみと対照的に、地味でひっそりと生きていこうとする版下制作技能士の女性。
30歳になるのに独身、平凡な容貌で恋人もいない。そして、年下の男の同僚からも言いたい放題馬鹿にされながらも、じっと耐えているという女性。
ちょっと面白いところは、彼女が憧れている男性を日本おとぎ話のように海蛇の化身と見ている点。

2つの作品の主人公像は対照的ですけれど、恵まれていないながらも自分なりに存在感を出すべく健気に生きようとしている点で共通するように思います。
どちらかというと、女性読者の方が味わいをより感じることのできる佳作でしょう。

ぴんはらり/菖蒲湯の日

    

2.

「はるかにてらせ」 ★★


はるかにてらせ画像

2014年11月
未知谷刊
(2000円+税)

 


2014/11/16

 


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小説現代新人賞を受賞した「券売機の恩返し」を含む、栗林さん初の作品集、6篇を収録。

表題作
「はるかにてらせ」は、主人公の元に「結婚しないって、言ったのに」と言って幽霊が現れます。恨み言ではなく、主人公の心残りを同性の先輩という幽霊をもって語ったところがユニーク。
「恩人」は、今や一般的な小説の題材となったイジメ、シカトが絡むストーリィですが、今も主人公の心に生き続けている友人の姿が印象的、救われる思いがあります。

「身代わり不動尊」以降の4篇は、性格が優しい余りに人に嫌ということができず、おまけに不器用で、心の中に塊、あるいは傷を抱えこんでしまっている主人公像という点で共通します。
各篇で描かれるエピソードは、真面目な人なら心当たりがあるようなことばかりでしょう。
それらの原因は誰にあるのかと問い詰めても詮無いこと。でも何らかのきっかけがあれば前に進むことができるかもしれない。
その代表例が、本作品集の最後を飾る
「券売機の恩返し」
券売機に気持ちを寄せる主人公の元に、その券売機が人の姿になって訪れてくるというストーリィは、発想の点でもその後の展開の点でもすこぶる秀逸です。
古典的な“恩返し”は物や利益ですけれど、本篇では主人公にとって耳の痛い、でも的を射た直言というところが実に良い。

初作品集ということで、少々ぎこちなさも感じるところがありますが、本作品集、私は好きです。

はるかにてらせ/恩人/身代わり不動尊/京浜東北線の夜/コンビナート/券売機の恩返し

  


   

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