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2.箕作り弥平商伝記 3.ゆうとりあ 5.烈風のレクイエム 6.リアスの子 8.希望の海 9.明日へのペダル |
●「七夕しぐれ」● ★★ |
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2009年06月
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仙台のO町に住む小学5年生、和也、幸弘、直美の3人を中心とした少年物語。 熊谷さんらしいと思ったのは、本書が単なる小学生物語、成長物語ではなく、差別問題を真正面から扱った物語であるという点にあります。それも、少年たちの目を通して描いたもの。その意義はとても大きいと思います。 ユキヒロとナオミは同級生たちからどこか浮いていた。和也はその理由を、5軒の中に住む安子ねえ、沼倉のおんちゃんを通して知ることになります。 小学生の成長物語というより、社会問題を取上げた物語というべき作品ですが、小学生3人+大人2人の行動が実に爽快。お薦めです。 |
●「箕作り弥平商伝記」● ★★ |
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2014年01月
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大正期、秋田県太平黒沢村で“箕”を手作りし行商もする、弥平という青年を主人公にした長篇小説。 この弥平、難産のすえ癇癪球を破裂させた産婆が片方の足を渾身の力を入れて引っ張ったことから、右足と左足の長さが違ってしまったという身体の持ち主。 そんな弥平が、婚家から出戻ってきた姉の事情を確かめようと初めて群馬まで行商の足を伸ばしたところ、思いも寄らぬ事態に弥平は直面します。 大正期の農民生活風景という気分で読み始めた本書ですが、読み終わってみれば純朴な青年の一途な恋物語というべきストーリイ。爽やかさも哀しさも含めて味わい豊かです。 ※“箕(み)”とは、穀物をふるって、からやごみを振り分けるためのざるのような農具のこと。 |
●「ゆうとりあ
Welcome to Utolia」● ★★ |
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2012年01月
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長年勤めた会社を定年退職。それを機に自然豊かな土地に引っ越して畑仕事をしたいという妻の懇望に負け、それならば俺も手打ち蕎麦の店でも開こうかと、東京を引き払って富山県の外れ“ゆうとぴあ”と名付けられた土地へ移住した熟年夫婦。 都会人向けの理想郷という名前は格好良いが、隣人は変わり者が多いし、慣れると近隣の住民たちは遠慮なく押しかけてくる。さらにイノシシにサル、クマまで現れるという具合で、子供の頃からトラウマになっていた犬まで飼い始める羽目に。 前半はそうした経緯がユーモラスに語られていきますが、後半に入ると一転、野生動物との共生問題から、新しい可能性を含んだ田舎での生活設計へと、深い考察が繰り広げられていきます。 第二の人生をどう過ごすかという問題提起を、ユーモラスかつ豊かに語っている点が本書の魅力。 |
4. | |
●「バイバイ・フォギーデイ BYE-BYE FOGGY DAY」● ★★☆ |
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函館のH高校に通う高校生=田中亮輔は、バンドとバイトに明け暮れる日々。 何と言っても岬と亮輔、この主人公2人のキャラクターが抜群に魅力的。 ※表題の「フォギー」とは霧のこと。もやもやしてすっきりしなかったことが漸くすっきりしたという意味で、「バイバイ」であるとのこと。 |
5. | |
「烈風のレクイエム」 ★★ |
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父親から引き継ぎ、函館で潜水組を率いている泊敬介という人物を主人公に、函館の大火、戦争、そして洞爺丸沈没という惨禍を乗り越えて生きてきた人間の姿を描く長編小説。 函館の大火で母親、妻、そして3歳の愛娘を失った敬介は、その渦中でやはり家族を喪った静江という女性、その静江が保護する記憶を失った男の子と巡り会い、やがてひとつ家族として再び力強く生きていく・・・・。 そんなにまで人は生きていかなくてはならないのか? というのが本作品から感じる問い掛けです。東日本大震災の傷跡がまだ生々しいなかでその問い掛けはとても切実な響きを持っています。 第1部 喪失/第2部 再生/第3部 鎮魂 |
6. | |
「リアスの子」 ★★ |
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2016年02月
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元号が昭和から平成に変わった頃の宮城県北部、リアス海岸を臨む港町=仙河海市の中学校を舞台に、教師と生徒との間の信頼関係はどのようにして築かれるのか、を描いた長編小説。 主人公は教師としてこの町の中学校に赴任し、漸く慣れてきたところの岩渕和也、31歳。新年度では3年5組を担当する予定で、部活動においては陸上部を指導。 この中学校の生徒はとかく人懐っこく、主人公にもよくじゃれかかってくる。また、教師と親との関係もとても濃い。 そんな中学校の新年度に東京からやってきた転校生が早坂希。いかにもスケバンといった感じの長いスカートに茶髪という外見。穏かで平穏無事だった水面に一石が投じられたという風です。 さて、主人公はこの早坂希をどう扱っていくのか。それは希一人に対してのことだけではなく、対応を誤れば担任クラスの生徒との信頼関係まで損ないかねない重大事。 本書を読むと、生徒と教師の信頼関係が危ういバランスの上に成り立っているということがリアルに感じられます。その難しさの理由は簡単、相手がまだ子供だから。ほんのちょっとしたミスで生徒の教師に対する目は変わってしまう。常に教師を試すような目でみていることも、理由の一つ。 それに対して教師側は、ともかく何事にも慎重を期すること、自分だけで解決しようとは決してせず、同僚教師の意見・協力を求めること。 本ストーリィでは、数多くの同僚教師が登場し、彼らと密接に連携をしながら教師皆で生徒たちに対応していこうとする姿勢が強く印象に残ります。 そしてまた、読後感の爽快さも、本ストーリィの魅力です。 |
7. | |
「ティーンズ・エッジ・ロックンロール Teens Edge Rock and Roll」★★☆ |
2017年10月
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本書は、宮城県の港街=仙河海市(気仙沼市がモデルとのこと)を舞台にした、バンドに情熱を燃やす高校生たちの輝くような青春ストーリィ。 仙河海高校2年生の庄司匠は、中学校時代の同級生2人とバンドを組み仙台市内のライブハウスに出演もしていたが、あえなく解散。そこで軽音部室のドアを叩いたのですが、そこで出会ったのが美人の上級生=宮藤遥、何と軽音部の部長だという。 そこから、稀に見る魅力をもった本書ストーリィが、本格的に幕を開けます。 本書では主人公の匠も勿論魅力ある男の子なのですが、それを超越する魅力を振りまいているのが、匠が呼ぶところの「遥先輩」。何しろ裏表や誤魔化しが一切なく、常にストレートに本音を語る一方で、相手の思いに鈍感な“不思議ちゃん”というキャラクターなのですから。 その遥に背中を押され、時に言質を取られ、高2男子の匠はバンド演奏の夢に向かって走り出します。しかも遥先輩に次々と堀を埋められ、ますますスピードアップしていくのですから、この楽しさ、面白さは堪らない快感です。 勿論、遥先輩に対する匠の、高校生らしい恋愛模様も本ストーリィにおける大事な一幕。 また本作品には、匠たちの地元愛、街起こしといった要素もあり、匠たちの行動を応援してやろうとする大人たちの温かい視線を感じられる点も大いなる魅力です。 そんな大人たちの協力を得て夢を実現しようと奮闘する一方で、進路に悩んだりと、まさに高校生らしいストーリィ。 匠、遥という高校生コンビには格別な魅力があるのですが、彼らの周辺人物たちの魅力も見逃せません。 こんな青春を送れたらと、尾籠ながらもう涎が出そうです。 モデルとなった気仙沼市と言えば、東日本大震災で大きな被害を受けた地域。匠や遥たちの身にもその被害は及びますが、彼らは決して諦めない。そんな彼らの姿は眩しいばかり。 青春&バンド小説の傑作、お薦めです! |
8. | |
「希望の海−仙河海叙景−」 ★★ |
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仙河海市という東北地方の架空の町を舞台に、3.11東日本大震災前後の人々の様子を描いた連作短編。 各篇の主人公は様々です。故郷に戻ってきた元陸上アスリート、水産加工会社で働く若い夫、高校生、市役所職員、認知症の夫を抱えた老女、小学生、教師、といった具合。 様々な境遇・状況、様々な思いを抱きながら、彼らは過疎化が進みつつあるこの町で暮しています。 ある篇で登場した人物が他の篇では主人公になったり、あるいはその逆があったりするのは、地方都市故の人間関係の近さがそこにあることを認識させられます。 彼らが愛おしく感じられるのは、倦むことなく、それなりに故郷であるこの町への愛情が感じられるからです。 東日本大震災を題材にしながら、各篇から感じられるこの穏やかさは何なのだろう(昨日、大きな地震があったという程度)と思っていたところ、最終2篇で目の前の景色が一変します。 その2篇の舞台は、仙河海市の高台に設置された仮設住宅。 ごく平凡な日々の営みが描かれていた7篇の後である故に、被災前と被災後の対照的な光景が、衝撃的に読み手の胸を打ちます。 そんな辛く、悲しみの癒えない状況にあっても、踏ん張って走り出せば、先にある景色が見えてくる。 どうか頑張ってほしい、という祈りにも似た願い胸の奥底から湧き上がってくる思いがします。 リアスのランナー/冷蔵家族/壊れる羅針盤/パブリックな憂鬱/永久(とわ)なる湊/リベンジ/卒業前夜/ラッツォクの灯/希望のランナー |
9. | |
「明日へのペダル」 ★★ |
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久しぶりとなる熊谷達也作品の読書。 紹介文から、如何にも楽しそうな雰囲気が満ち溢れていて、ついつい手が出ました。 簡単に書いてしまうと、 <ロードバイク>+<新型コロナ禍> → <新しい働き方>。 主人公の本間優一は55歳。地元仙台の印刷会社勤務で、ホームページ制作を請け負う第二企画室の室長。 しかし、コルステロール値が高いと指摘され、何か運動をと考えていたところに、入社3年目の若い部下=水野唯に勧められ、ロードバイクを始めます。 ベテランライダーの唯に指導されるまま、目を奪われた高価な自転車を購入し、乗り始めてすぐ、その気持ち良さにすっかり嵌り出します。 一方、コロナ感染が拡大。本間の勤務先でもテレワークが導入され、皆が新たな勤務形態を経験します。ところが・・・。 読み処は、ロードバイクへの本間の嵌りぶり、そして爽快さ。 また、こうした状況下になって初めて明らかになる、水野唯のスーパーガールぶり。これが凄く、嘘みたいという処なのですが、今やこうした才能が芽吹く時代なのかもしれません。 一方、仕事は対面で、また残業を多くしてこそという古い考え方の人間と、仕事は効率的に、オフィスなど不要という新しい考え方の人間との対比も際立ってきます。 現在の状況ならではの問題がいろいろ登場してきますが、肩ひじ張らず、ロードバイクの世界を気持ち良く味わえる処が楽しい、の一言です。 1.危険水域/2.ロードバイク/3.プロショップ/4.イタリアンバイク/5.フィッティング/6.ビギナーズライド/7.テレワーカー/8.老兵は死なず/9.ステイホーム/10.ヒルクライム/11.コロナ禍にて/12.用意周到/13.百キロライド/14.経営改革/15.涙/16.お人好し/17.DNF/18.リスタート/19.明日へのペダル |