香坂 直
(こうさかなお)作品のページ


1964年岡山県生、大阪教育大学(肢体不自由児教育教員養成課程)卒。第45回講談社児童文学新人賞佳作に入賞した「走れ、セナ!」にて2005年作家デビュー。同作品にて06年第16回椋鳩十児童文学賞、07年「トモ、ぼくは元気です」にて第36回児童文芸新人賞を受賞。

 
1.
走れ、セナ!

2.トモ、ぼくは元気です

3.ストロベリー・ブルー

4.みさき食堂へようこそ

 


      

1.

●「走れ、セナ!」● ★★   講談社児童文学新人賞佳作・椋鳩十児童文学賞


走れ、セナ!画像

2005年10月
講談社刊

(1300円+税)

2012年08月
講談社文庫化

 

2010/05/05

 

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小学校5年生の吉田セナは陸上部、走ることが大好きな女の子。
家族は、母一人+時々手助けに来てくれるサトルくんという叔父さんが一人。
前回の競技会では、初出場と緊張から無残な結果。きれいなフォームで走るセナは、今年こそと心に期している。

担任の新米教師ドキリンコこと桐野陽子先生が、席替え・班分けを抽選で行うと突然言い出し、セナは運悪く、恐怖のデコボココンビ+怖い女の子=インチョウで余りの班に。
さらに、陸上部顧問の先生が産休を取る等の事情から、突然に陸上部解散宣言が。ええ、競技会出場は?

そんな危機に、陸上部存続のため協力してくれたのは、何とバカにしていたデコボココンビ。
班、新たに部活動でと、今まで気にも留めていなかった同級生の意外な才能をセナは気付くようになります。
そして、上手にできないながらも努力しようとする先生、同級生の姿も。
また、才能だけで前に進むことはできないこと。セナが目標とする他クラスのスプリンター=一ノ瀬理央にしても、それだけの練習を重ねていることを知る。
セナはちょっと意固地なところがあるけれど、ヘンなヤッカミをすることはないし、気持ちのいい女の子。

やってみたいと思ったこと、好きなことなら、素直に一生懸命やってみればいい。そうすれば、そこに何か可能性、新たな道が開けるかもしれない。
本書は、そんなメッセージを伝える、少女アスリート小説。

    

2.

●「トモ、ぼくは元気です」● ★★☆       児童文芸新人賞


トモ、ぼくは元気です画像

2006年08月
講談社刊

(1300円+税)

 

2010/05/09

 

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小学校6年生の松本和樹。本来だったら中学受験に向けた夏期講習を受けている筈だったのに、浪速の商店街で理容店を営む祖父母の下に預けられ、この夏休みを過ごすことになった。
何故なら、家をめちゃくちゃにした罪人として追放されたから。
そして今また、見知らぬ女の子に昔馴染みだといって押し掛けられ、立ち往生している。
さらに、何が何だか判らないうちに、商店街対抗の伝統の一戦、小学生たちによる金魚すくいの選手に勘定されて・・・。

如何にも大阪の浪速、という感じの小さな商店街。
そこに登場する、おせっかいで押し付けがましいところもありそうだが、人情味豊か、気が良くて元気な大人たち。
そのいまいち商店街(今出里一丁目)を舞台にした和樹のひと夏の体験・成長物語。

表題のトモとは、和樹の障害児の兄・友樹のこと。和樹が家を出ることになった原因はそのトモのことに関係している。
しかし、この商店街で知り合った夏美千夏の姉妹にもやはり障害児の妹=桃花がいる。
トモや桃花が何か悪いことをした、という訳ではないのに、やたら悪意をぶつけてくる、毒を吐きかけてくる人間がいる。
そんな時、僕たちはどうしたらいいのか。

この問題は、決して子供たちの世界だけのことではありません。大人の世界でも同じこと。そして、いくら理を説いても、悪意ある人間には通じない。
それでも善意ある人たちが手を繋げば、道を切り開いていくことができる。そんなメッセージを伝えるストーリィ。
そこに至って初めて、本書題名に込められた強い気持ちを理解できる気がします。

       

3.

●「ストロベリー・ブルー」● ★★


ストロベリー・ブルー画像

2010年03月
角川書店刊

(1400円+税)

2013年04月
角川文庫化

 

2010/04/26

 

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ワイワイガヤガヤした中学2年の少年少女たちの、揺れる胸の内を描く連作短篇集。

一応付き合っている関係にあるが、相手を利用しているだけという痛みを秘める理子、大事なところでしくじってしまった自分のを持て余す大介、片想いの相手に胸をときめかせる琴海、思いもかけず恋心を抱いてしまった喜びと失望を味わう綿森、孤立していく彼女を支えられなかった悔いを抱える横山と、たまたま同じクラスとなった5人各々における中学2年のある日々が、相互に絡まるようにして描かれたストーリィです。

そこから見えるのは、自分で処しきれない想いを抱えて戸惑う中学生らしい少年少女たちの姿です。
自分を誤魔化す、あるいは取り繕うことができない不器用さ、それは中学生だからこそ。彼らの正直な思いがキラキラ輝くようです。
そんな中学2年生の少年少女たちの揺れる胸の内を、鮮やかに描き出した一冊。その清新さが快い。

罪悪感に苦しむ芝原理子、能天気な三田村大介(陸上部)、率直で溌剌とした野田琴美(バレー部)、人付き合いに不器用な綿森美月、地味でまじめな横山晴彦(生物学部)、はぐれ者となった木崎美優、皆我々と等身大の中学生たちです。

あの中学時代が懐かしい、読後、思わずそんな気分に浸ってしまう、愛おしい思いのする青春小説の佳作。

キャッチ・ザ・サン/ロスト・パラダイス/ペテルギウスの情熱/二月のプランクトン/ストロベリー・ブルー

        

4.

●「みさき食堂へようこそ」● ★★


みさき食堂へようこそ画像

2012年05月
講談社刊

(1200円+税)

  

2012/07/14

  

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さきっぽ岬のさきっちょにある“みさき食堂”。
そこは
ハルおばあちゃんと5歳になる孫娘=たまみの2人だけで営んでいる店。
そのみさき食堂には、不思議なお客さんが時々訪れるのです。海からぶわり、ぶわりと風が吹いてくると、店の中にひょいとお客さんが現れる。
お客さんたちも、本来の居場所からヒョンとこの店に飛んできたので、面喰ったような顔をしています。
そんなお客さんたちにたまみがいつもかける説明は、
「ここは、みさき食堂です。たべたいものがあるけど、わけがあってたべられないっていう人がやってくる食堂です」という言葉。

本書は、児童向けの短いお話です。
ファンタジーと現実が入り混じったような、不思議でいて、愛おしい、ちょっとしたお話。でも当の子供たちにとっては、とても大事な事々なのです。本書を読むと、当の子供たちと一緒に、心が柔らかくなる気がします。
ちょっと柏葉幸子作品と共通するものを感じます。

本書で最初にみさき食堂に現れるのは、親友の美織ちゃんとの間に起きたことを後悔する小学生の
もえちゃん。ハルおばあさんがそのもえちゃんに供するのは、ココアと美織ちゃんがもえちゃんに作ってくれたのとそっくりのクッキーです。
次は、美織ちゃんのおじいちゃんである
豊三さん。美織ちゃんから話を聞いて、たった一人嫌いだと思ったことのある昔の同級生のことを思い出します。ハルおばあちゃんがその豊三さんに供するのは、ほうじ茶と昔豊三さんのお母さんが作ってくれたげんこつおにぎり。
最後は、美織ちゃんやもえちゃんら同級生たちと諍いしている転校生の
林田さん。それには秘密があって・・・。その林田さんにハルおばあちゃんが供したのは、ミルクティーと前の学校で親友だったすずかちゃんと一緒に食べたりんごあめ。
そして、エピローグでのたまみちゃんの姿。3つのお話とは別にこれがいいんだなぁ。読み手にも元気が出てくる気がします。

 
おはなしのはじめに/もえちゃんとよつばのクッキー/豊三さんとげんこつおにぎり/林田さんと真っ赤なりんごあめ/おはなしのおしまいに

  


   

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