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1.家庭用安心抗夫 2.猿の戴冠式 |
「家庭用安心坑夫」 ★★ 群像新人文学賞 | |
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日常に狂気、いや幻想?が入り混じって展開していく作品。 主人公の藤田小波は平凡な主婦。 コロナ下でテレワークの多い夫に遠慮し、家の中では存在感を消すようにして暮らしている。 そんなある日、日本橋三越の柱に、幼い頃実家で貼ったはずのけろけろっぴのシールが貼られているのを見つけて、小波の生活は歪んでいく。 小波の母親はちょっと変わった女性で、子どもの頃の小波に、廃坑テーマパークに飾られていた坑夫姿のマネキン=ツトムを父親だと言い聞かせていた。 そのツトムを東京の街中で見かけた小波は、ツトムのマネキンを自分の手に取り戻そうと・・・。 これは狂気か、幻想か。カフカ「変身」のようにはっきりした変化がある訳ではなく、ではあくまで小波の頭の中だけにある妄想なのかと思うと、実際に尾去沢ツトムという坑夫が鉱山内で落盤事故に遭う話が入り込み・・・・。 小波の妄想に過ぎないと言いきれれば、小波の行動はただ滑稽と言うしかないのですが、そうとばかり思えないところがあるので・・・。 ふと気づくと、日常生活が狂気や妄想に侵蝕される、そうしたことがいつ起きるか分からないと思えて、怖くなります。 |
「猿の戴冠式」 ★★ | |
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奇妙に面白い、と感じた作品。 主人公の一方、瀬尾しふみは競歩選手。しかし、レースで大失敗を犯し、今はヒキコモリ状態。 もう一方の主人公は、メスボノボのシネノ。 この二人、互いにまだ赤ん坊だった頃、キーボードを使った言語学習の実験を一緒に受けさせられたという間柄。 TVでボノボのニュースを見たしふみ、かつて「おねえちゃん」と呼んだ相手であると気づき、シネノに会いに動物園へ。 二人の再会後、しふみは毎日動物園へ通い、シネノの近くで一日を過ごすようになります。 そしてある日、しふみとシネノは、手話による会話を試みる。その結果は・・・・。 人間とボノボは会話手段さえ手に入れれば、会話することができる関係だったのでしょうか。 いや、互いに孤独感、疎外感を感じていたからこそ、また相手が誰であるか認識できたからこそ、繋がることができたのか。 ともあれ、二人(しふみとシネノ)が同人化する程に繋がるところが面白い。 ボノボは動物で人間ではない、という常識感が崩れ、世界が広がったように感じられることが愉快。 |