|
|
1.タタド 2.転生回遊女 3.怪訝山 5.たまもの 6.悪事 |
●「タタド」● ★★ 川端康成文学賞 |
|
2010年02月
2007/08/15
|
題名からして不思議な感じを受ける作品集です。 何のことだろう?と思った題名の「タタド」、伊豆・下田の多々戸浜のことであるらしい。 3作のいずれもこれといった出来事がある訳でなく、海辺の家の中年夫婦と友人2人、浜で一日を過ごした母子、偶然再会した高校時代の同級生夫婦の仕事を手伝うといった、ごく断片的なストーリィ。 どうというところもないと感じるストーリィではあるのですが、見方を変えると実は大事であり、ちょっと危ない事と言えるのです。 それがあっさりと書かれ、しかもそこに安息感が漂うところに、本書の奇妙な面白さがあります。
表題作「タタド」は、海辺の家に夫婦と合わせて4人の中年男女が集まり、毎度繰り返されてきたように何となく過ごすというスト−リィ。それなのに、最後あれよあれよという間に・・・・という展開になってしまう。でもそこには、驚きよりも安心してしまう納得感があるのです。 タタド/波を待って/45文字 |
●「転生回遊女」● ★★ |
|
2012年10月 |
母親が事故死して、17歳の桂子は一人っきり。 その母親は女優をしていて、桂子を一人置いてタビに出ることが多かった。 そして桂子にも、ワタルという男から芝居に出てみろという誘いがかかり、その練習が始まるまでの間、母親と同じように桂子はタビに出る。 行き先は、友人の美春が男性とカケオチして移り住んだ宮古島。 樹木に触れ、樹木と交わる。 舞台は、宮古島、那覇、東京。そして芝居。 |
●「怪訝山」● ★☆ |
|
2010/05/27
|
「怪訝山」と「あふあふあふ」は、生活の現実感を喪失し、まるで幻覚の中に入り込んでいくような篇。 「怪訝山」の主人公は、売春まがいの手で女性販売員に高額な絵を売らせる会社の社員であるイナモリ。そんな仕事に囲まれているイナモリは、さびれた旅館宿のコマコという仲居(ヘイケイしたというのだからもう老女?)に引き込まれていく。 「あふあふあふ」は77歳の老人=エノキが主人公。妻は亡くなり文房具店も閉めて、今は一人暮らし。 「木を取る人」は、上記2篇と異なり、落ち着いていた日常生活が、義父が家を出たことによって失われてしまう、という展開が面白い。 怪訝山/あふあふあふ/木を取る人 |
●「わたしたちはまだ、その場所を知らない」● ★★ |
|
2010/07/06
|
生まれたばかりの小さな池(中学生たち)に“詩”という宝石を放り込んだら、どんな波紋が起きるのか。 そんな印象の小説です。 本書で中心になるのは、中学校の若い女性教師と、中学1年の女子生徒。 思うに、詩とは小説と違って、どう感じどう向き合うかはその人の感性次第。ですから、詩について語り合うのは恥じらいを伴うものなのかもしれません。 誕生したばかりの軽やかさ、詩の気持ち良さを感じる佳作です。 |
5. | |
「たまもの」 ★★ 泉鏡花文学賞 |
|
2014/07/26
|
一時期付き合ったこともある幼馴染が突然やってきて、1歳にもならぬ赤ん坊を主人公に預けていった。働いて、必ず迎えに来るからそれまで、と言って。 それから10年余、その赤ん坊=山尾は今小学5年生。そして未婚の主人公はずっとせんべい工場で契約社員として働きながら山尾を育ててきた。 2人の関係は少々不思議なものです。もちろん母親ではない、といって養親でもなく、まして里親でもない。単に“同居人”という関係。 それでも山尾は主人公を「母ちゃん」と呼び、主人公には山尾を赤ん坊の頃から育ててきて当然に愛おしさを感じている。 でもそれと同時に主人公には、山尾を育てる一方で一人の女性としての軌跡もそれなりにあったのです。 主人公と山尾の間には、血の繋がらないまま人生を一緒に歩いているといった同胞感、そしてお互いへの気遣いと信頼感があるように感じられます。 実の親子ではないからこその想いではないでしょうか。それが失われたらもう、2人は一緒に暮らしていけないのですから。 そんな2人の間にある雰囲気が、気持ち良く、新鮮で、かつ愛おしい。 愛おしいという味わいを噛みしめることができる佳作です。 |
6. | |
「悪 事」 ★☆ |
|
|
不穏さを感じるストーリィ、8篇。 いずれの主人公も、本来どうということのない平凡な人物ばかりである筈なのに、人生のある時点がそのまま曲がり角になってしまうのか。ざわめくような不穏さが沸き立つストーリィばかりです。 どうしてこうなってしまったのか。何が原因だったのか、定かではありません。強いて言えば、各登場人物が元々その身の内に抱えこんでいたものが今に至って現れてきただけなのか。 冒頭の「悪事」はまだまだ常識範囲。しかし、「生魚」や「湖」ともなるとかなり不気味なものを感じさせられます。 自分に縁のない話と思っているうちは問題ないのですが、万が一と考え始めると、心の内が不安で落ち着かなくなりそうです。 悪事/風下に向かって煙は動く/フェイク/生魚/意気投合/疱/救済/湖 |