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「タイガー理髪店心中」 ★★☆ | |
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中編小説2篇を収録。 表題作「タイガー理髪店心中」が林芙美子文学賞を受賞。 83歳の寅雄と妻の寧子の2人で営むタイガー理髪店。昔ながらのやり方に拘っている所為か、たまに通ってくるのは常連客のみ。 日中、店外の椅子に座り通る人を眺めているばかりの寅雄、寧子から注意されるのは大声での独り言。 しかし、寅雄がもっと気になっている問題は、寧子の物忘れが増していること。そして、ついに寧子が寅雄の腕に噛みつくようになり・・・。 自分が先に耄碌する筈だったのに先に妻の方が認知症? 心配と恐れが入り混じったような寅雄の困惑する様子がなんともユーモラスに感じられます。(主人公も店の名も"トラ"ですよ) しかし、2人の話はもっと広がります。幼い頃に事故で死んだ一人息子への忘れ難い想い、そして戦時中疎開してきた少年を寅雄が虐めていたことについての悔い。 長い年月を共に過ごしてきた夫婦の人生の営みが、しみじみと感じられて、静かな感動を覚えます。 「残暑のゆくえ」も、上記に似た味わいをもつ作品。 主人公の日出代は現在75歳。人と関わることが好きで、今も小さな<日の出食堂>を続けています。 年老いた夫の須賀夫はおとなしい人物ですが、時々過去の出来事に苦しめられ暴れ出すことがある。 回想という形で、実母が日出代にさせようとしたこと、実母との別れ、その後の日出代が過ごした人生が語られます。 本篇でもまた、主人公の様々な思いが篭められているようで、愛おしさを感じずにはいられません。 タイガー理髪店心中/残暑のゆくえ |