小林由香作品のページ


1976年長野県。2006年第6回伊参スタジオ映画愛シナリオ大賞で審査委員奨励賞およびスタッフ賞、08年第1回富士山・河口湖映画祭シナリオコンクールで審査委員長賞を受賞。10年 MONO-KAKI大賞シナリオ部門で佳作入選。11年「ジャッジメント」にて第33回小説推理新人賞を受賞して作家デビュー。


1.ジャッジメント

2.罪人が祈るとき

3.救いの森

 


           

1.
「ジャッジメント ★★         小説推理新人賞


ジャッジメント

2016年06月
双葉社刊
(1400円+税)

2018年08月
双葉文庫化



2016/08/29



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最近の日本社会においては凶悪な殺傷事件がいとも簡単に起きてしまう。それは何故なのか。
その結果どういうことが起きるのかという想像力が犯罪者に欠落しているのもその理由の一つではないかと思っているのですが、ではどうしたらそうした犯罪の発生を食い止めることができるのでしょうか。
よく言われる
「目には目を、歯に歯を」は、古代バビロニアの“ハンムラビ法典”にある定め。そうした仕組み刑が設けられれば少しは抑止効果があるのだろうかと凶悪犯罪のニュースを見る度思ったりするのですが、その執行を被害者側家族が行うとは思ったこともありませんでした。それは普通の人々をして凶悪犯罪者と同じ行為に追い込むことですから。

20XX年、日本に治安の維持と公平性を重視する観点から新しい法律=「復讐法」が成立。
裁判によってその適用が認められた場合、被害者やそれに準じる者は、旧来の法に基づく判決か、あるいは復讐法に則り犯人に対し自ら刑を執行するかを選択できる、という内容。
本書は、権利を認められた応報執行者らが刑を執行する5件の事例を描いた連作ドラマ。
応報監察官である鳥谷文乃が狂言回し役。常に執行に立ち会い、客観的にその状況を見守ります。

社会から容認された復讐という設定に目を奪われがちですが、本書ストーリィは応報執行者らが隠していた内情を暴き出す、ミステリ風の連作ものになっています。
各篇の応報執行者は、それぞれに深い悔恨を抱えています。だからこそ、それを振り払うかのように犯人に対して刑を執行しようとするかのようです。
もちろん中には復讐法の適用、自らが応報執行者になることに躊躇を憶える関係者もいます。
被害者の家族が味わう悲痛な思いを描いた各篇、読み応えのあるドラマに仕上がっています。

「サイレン」:残虐な殺され方をした息子、その父親の悔恨
「ボーダー」:祖母を殺した娘に刑を執行する母親の是非
「アンカー」:無差別殺人事件、応報権利者3人の葛藤
「フェイク」:息子を殺した有名な霊能力者の言は真実?
「ジャッジメント」:幼い妹を餓死させられ10歳の兄が執行?

1.サイレン/2.ボーダー/3.アンカー/4.フェイク/5.ジャッジメント

                   

2.
「罪人(つみびと)が祈るとき ★★


罪人が祈るとき

2018年03月
双葉社刊

(1600円+税)



2018/06/07



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イジメを題材にした、胸を締め付けられるストーリィ。

主人公は高校生の
時田祥平。親友に裏切られ、今は執拗なイジメの対象になっている。
母親は若い恋人を作った父親に嫌気がさして家を出ていき、父親は若い恋人の元に入り浸って祥平に無関心。祥平には、助けてと手を差し伸べることのできる相手さえいない。
その祥平の前に現れたのは、
「ペニー」と名乗る正体不明のピエロ。そのペニー、祥平が計画さえ立てれば、イジメ相手を殺すのを手伝ってやると言う。

もう一人の主人公は、会社員の
風見啓介
中学生の息子=
茂明がイジメのために自殺し、何とかその真相を突き止めようと奮闘していた妻の秋絵は次第に心を病み、ちょうど1年後に飛び降り自殺。
さらに1年後、茂明の同級生がまたもや飛び降り自殺・・・。

今や、不思議でも特別なことでもなく、何処にでもあることとしてストーリィの題材になっている観のあるイジメですが、本書に書かれたイジメの様子、さすがにこれはもう辛い、痛ましい、痛まし過ぎる。
毎日のようにイジメられ、嘲笑され、誰も味方はおらずたった一人きり。この苦しみから逃れるためには、相手を殺すしか、自分が死ぬしか、そのどちらしかない・・・・。
そんな時、自分をこの窮地から救い出してくれるかもしれないと思える相手が現れたら、どう感じるでしょうか。

どんなことがあっても人を殺すなどしてはいけない・・・。
それはもう理想論でしょう。第一、それは誰のために言っている言葉なのでしょうか。イジメ犯人のためとしか思えない言葉であって、イジメに遭って苦しんでいる人、そのために大切な家族を失った人に対して、苦しみの上塗りをしているだけなのではないか。
本ストーリィで起きた殺人、それは結局、復讐だったのでしょうか、それとも新たな犠牲者を救うためだったのでしょうか。

最後、少年が企んで送ったメッセージに、心が救われるような思いをするのは、決して私だけではないでしょう。


1.遭逢/2.崩壊/3.共謀/4.決断/5.決行/6.審判/7.祈望

             

3.
「救いの森 ★★


救いの森

2019年02月
角川春樹
事務所

(1500円+税)



2019/06/02



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児童保護救済法が成立し、「児童救命士」という国家資格が設けられて各地に設置された児童保護署に配置される。
また、子どもが 6〜15歳の間は
ライフバンドの装着が義務付けられ、自分の身に危険を感じた場合はそのライフバンドを押すことによって児童保護のセンターに急報されるという仕組みが出来上がったという、架空の社会を舞台にした連作風ストーリィ。

あくまでフィクションですが、現代社会ではもうそれが絵空事とはいえない状況だけに、それだけのリアル感、緊迫感を抱かされるストーリィになっています。

主人公となるのは、
江戸川児童保護署に配属されたばかりの新米児童救命士である長谷川創一
その長谷川がパートナーとして組まされた先輩児童救命士の
新堂敦士は、勤労意欲が全く感じられない人物で、子供を救おうという熱意に燃える長谷川からすると、イラつかせられてばかりの人物。

しかし、現実は、長谷川が思っていたよりはるかに厳しい世界。自分の観察力の浅さ、力不足を感じさせられてばかり。
「語らない少年」:長谷川たちが点検しに赴いた小学校で説明中、何故4年生の須藤誠はライフバンドを鳴らしたのか?
「ギトモサイア」:小3の東三条美月は何故、献身的な継父の作る食事を取ろうとせず、ファーストフードに入り浸るのか?
「リピーター」:ライフバンドを鳴らした椎名涼太は、鳴らす常習者だという。何のために涼太はライフバンドを鳴らしているのか?
「希望の音」:ネット上に新堂を暴力救命士だと誹謗する書き込みがされ、すぐに拡散。「カヅキ」という書き込み者は、何故新堂に対し激しい憎悪をぶつけるのか?

親に執拗な暴力を振るわれても親から離れられない、離れたがらないという子供の姿を、これまで多く報道された虐待事件から
感じます。
親から離れていいんだよ、親から離れても大丈夫なんだよ、他の人に助けを求めていいんだよ、という声をそれらの子供たちに届けられれば、少しでも多くの子供たちを家庭内虐待から救うことができるのではないか、と心から思います。


1.語らない少年/2.ギトモサイア/3.リピーター/4.希望の音

        


   

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