元ラガーマンの熱血教師が小学6年のクラスにやって来た。
一陣の風が子供たちのウジウジした心の中を、豪快に吹き通っていくような、爽快な少年少女スポーツ&成長小説。
加島治生のいる6年生のクラスに新しく担任としてやってきたのは、熊沢敦という新任教師。聞くと、大学時代ラグビー部のロックで、日本代表候補にもなったという巨漢。ラグビーを小学生に広めたいという夢を抱いて小学校教諭になったという熱血漢。
教室では皆に大声を出させ、体育の授業となればもちろんラグビーと、これまでの教室にはなかったような授業振り。皆圧倒されるばかり。とにかく元気に、姿勢正しく、堂々と。そして常に「基本、基本」が口癖。
概ね生徒には好評だが、一部には冷たい視線で見る生徒もいる。
勉強が苦手だったり、運動が苦手だったり、勉強も運動もダントツな癖にイジメッ子だったり。そして、イジメられる子もいるという、ごく普通の小学校風景ではないかと思います。
そんな小学生たちにラグビーを広めようとする辺りはかなり強引なのですが、自主性、チームワーク、そして他人を思いやる心を育むという展開ですから、爽快感とともに胸熱くなる場面が幾度となくあります。
そして、クラスのイジメ問題も強引にねじ伏せるように解決してしまうところは、いかにも体育系らしい。
でも、こうしたチーム競技での対抗戦を通じてイジメ問題も解決できたらさぞ良いのにと、心から思います。
ラグビーの練習を重ねながら、子供たちが明るく、生き生きとしていく姿を感じられるのは、とても嬉しいことです。
この熊沢先生がラグビーを始めたのは、高校で出会ったラグビー部の先生のおかげという。
その先生、なんとなく石原慎太郎「青春とはなんだ」の高校教師=野々村健介を思い出させます。時代は変わり、高校生が小学生になり、不良生徒がイジメっ子に変わっただけと思うと、通じるものがあることを感じます。父兄会の様子もそっくりですし。
しかし、昔は高校生辺りの問題であったものが、今は小学生で既に問題となっている、という現実もそこにはあると思います。
それは真剣に考えていかないといけないことでしょう。
なお、小学生かつ男の子も女の子も一緒になってやる競技ですから、本式なものではなく“タッチラグビー”という方式。
それでも、生徒たちへの指導、生徒たちの上達ぶりを通じて、読み手もラグビーのことが少し判り、好きになってしまいそうなところも、本書の楽しいところです。
そしてもうひとつ、宮沢賢治の詩が取上げられるところも。
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