実石沙枝子(じついし・さえこ)作品のページ


1996年生、静岡県出身。「別冊文芸春秋」新人発掘プロジェクト1期生。第11回ポプラ社小説新人賞奨励賞受賞。2022年「きみが忘れた世界のおわり」(「リメンバー・マイ・エモーション」改題)にて第16回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、作家デビュー。


1.きみが忘れた世界のおわり 

2.物語を継ぐ者は 

3.17歳のサリーダ 

 


                   

1.
「きみが忘れた世界のおわり ★★☆     小説現代長編新人賞奨励賞


きみが忘れた世界のおわり

2022年10月
講談社

(1500円+税)



2022/11/29



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これは読んで正解だった!と喜びたい一冊。

主人公の
木戸蒼介は美大油絵学科の4年生で、これまでの入賞歴から“天才蒼介”と称えられている。
しかし、ゼミ担当の
南田教授から、技術力は圧倒的だが感情、情熱が感じられないと酷評されてしまう。
それに反発した蒼介は、卒業制作として自分の過去=死んだ幼馴染の
明音(あかね)を題材にした絵を描こうと決意します。
しかし、蒼介は一緒に交通事故に遭い、死んでしまった明音に関する記憶を一切失くしていた(心的要因による記憶障害)。

明音に関する記憶を取り戻そうと、蒼介と明音2人のことを知る親友の
一國をはじめ、様々な人物から明音の思い出を聞き出そうと動き始めます。
すると蒼介の前に、
アカネという幻覚が現れるようになります。
しかし、それは明音本人ではなく、あくまで蒼介が創り出した幻覚に過ぎなかった・・・。

本作の良さ、面白さは、組み立ての妙にあります。
ストーリィは、6年前に死んだ明音の視点から、蒼介を
「きみ」と呼び、二人称にて語られます。そこが斬新ですごく良い。
そしてまた、本作は“視点”という要素をうまく使っているところが秀逸。
どれだけ多くの人から明音の思い出を聞き出しても、それはその人の視点からの明音に過ぎず、蒼介にとって本物の明音とは言えず、それは蒼介が作り出したアカネにしても同様。
果たして蒼介は明音の記憶を取り戻すことができるのか。

その点、蒼介による、自分の記憶探し=本来の自分探しと言え、ちょっとした冒険物語のようなスリルさえ感じます。

また、本作に篭められたメッセージがまた良い。
その語り役が、蒼介も講師バイトしている絵画教室の生徒=小学生の
ミチカ
ミチカの人物像、かなり出来過ぎですが、子どもの率直な視点というところが貴重と評価したい。

明音と扱い方が冴えるラストも気持ち良く、堪能しました。
 お薦め!


1.きみと夢幻/2.きみと忘却/3.きみと友達/4.きみと真実/5.きみとわたし

               

2.
「物語を継ぐ者は ★★


物語を継ぐ者は

2024年07月
祥伝社

(1700円+税)



2024/09/01



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主人公は本村結芽(ゆめ)、14歳、私立中学2年生。
小学生の頃同級生からイジメに遭い、その時に出会ったのがファンタジー冒険小説
“鍵開け師ユメ”シリーズ。
その本があったから耐えられた、救われたと思って以来、未だに同シリーズの大ファン。

そんな結芽はある日、存在をまるで知らされていなかった伯母が事故で急逝したと言われ、伯母が住んでいたアパートの片付けに借り出されます。
そこで結芽は、その伯母=
本村泉美が“鍵開け師ユメ”の作者であるイズミ・リラであると気づきます。
アパートから持ち帰った伯母のパソコンの中には、執筆中だった第5巻の原稿が遺されていた。
何としてでも、続きが読みたい。亡伯母の担当編集者であった
倉森、やはりファンである友人の琴羽に励まされ、結芽は物語の続きを書こうと決心します。

しかし、物語を書くというのはそんなに簡単なことではない。
伯母の泉美はどんな人だったのか、物語世界に入り込んでユメとなった結芽はどう行動するのか、そしてあるべき結末は?

物語の続きを書く、ということ自体が、結芽にとってはひとつの冒険に他なりません。
泉美のことを知り、物語の中でユメとなり、ストーリーの続きを考えていく中で、結芽はひとつ成長を遂げていきます。

冒険は常に主人公たちを成長させるものですが、本好きに相応しい冒険であるところが、同じ本好きとして嬉しい。

※なお、作者の実石さんも学校に馴染めず、物語の世界が居場所だったそうです。その思いが篭められた作品です。


序章/1.未完結の遺作は/2.鍵開けの魔法は/3.嘘吐きの秘密は/4.わたしの答えは/5.物語のつづきは/終章

                

3.
「17歳のサリーダ ★★


17歳のサリーダ

2024年12月
講談社

(1800円+税)



2024/12/29



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畑村新菜(にいな)、虐めに遭った親友を庇い抵抗したため、親友が転校していったあと虐めの標的にされてしまう。
虐めに耐えきれず、新菜は高一で中退。
そんな新菜に、チア部の顧問教師は
「はぐれ者に居場所があるほど、世間はやさしくないよ」と厳しい一言を突きつけた。

高校卒業資格は認定試験で得るつもりだが、日々をどうやって過ごしていけばいいのか。
そうしたある日、通りがかりの洋食屋から聞こえてきたギターと歌声に新菜は惹きつけられます。それが、新菜とフラメンコとの出会い。

<キッチンさいばら>の跡継ぎでフラメンコのギターと歌を担う
ジョージ(才原譲司)と、フラメンコ舞踏家でスタジオ・カメリアの講師でもある有田玲子との出会いから、新菜はフラメンコの世界に足を踏み入れます。
「フラメンコは、はぐれ者の文化」という玲子の言葉が決め手。

学校での虐めは、今や驚くような事象ではなくなっています。
しかし、被害者となった生徒たちは何処へ行けばいいのか、ただ逃げ出せば済むことなのか。
新菜がフラメンコと出会って得たのは、単に居場所だけではありません。ジョージや玲子先生、フラメンコに関係する大勢の人たちとの出会いによって、学校よりも広い世界があることを知ります。そう、世界は学校だけではないのです。
そして、重たい悩みを抱えていたのは新菜だけでなく、ジョージもまた同様だと知ることになります。

何と言ってもフラメンコ、という素材が魅力的です。
フラメンコの衣装を纏って踊る新菜の姿を想像するだけでも楽しい。
そして、闘うことを決意した新菜の、生き生きとした姿も魅力。

高校をドロップアウトした“はぐれ者”=新菜の青春譚。
こうした瑞々しい作品、私は大好きです。


春−はぐれ者のサリーダ/夏−駆け出しセビジャーナス/秋−孤独な夜のレトラ/冬−人生のためのアレグリアス

        


   

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