岩瀬成子(じょうこ)作品のページ


1950年山口県玖珂郡玖珂町出身、県立岩国商業高校卒業後に公務員。72年岩国市の喫茶店「ほびっと」で今江祥智を知り、京都の聖母女学院短期大学の聴講生として児童文学を学ぶ。75年以降岩国市に在住。
1977年デビュー作「朝はだんだん見えてくる」にて第11回日本児童文学者協会新人賞、92年「「うそじゃないよ」と谷川くんはいった」にて第39回産経児童出版文化賞と第41回小学館文学賞、95年「ステゴザウルス」「迷い鳥とぶ」2作にて第17回路傍の石文学賞、2008年「そのぬくもりはきえない」にて第48回日本児童文学者協会賞、14年「あたらしい子がきて」にて第52回野間児童文芸賞とJBBY賞、15年「きみは知らないほうがいい」にて第62回産経児童出版文化大賞を受賞。


1.朝はだんだん見えてくる

2.「うそじゃないよ」と谷川くんはいった

3.ステゴザウルス

4.そのぬくもりはきえない

5.オール・マイ・ラヴィング

6.まつりちゃん

7.だれにもいえない

8.くもりときどき晴レル

9.マルの背中

10.地図を広げて

 


             

1.

●「朝はだんだん見えてくる」●(絵:長 新太)★★  日本児童文学者協会新人賞


朝はだんだん見えてくる画像

2005年10月
理論社刊

(1500円+税)



2012/06/01



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岩瀬さんのデビュー作。
主人公は、米軍基地のある町に住む中学3年生の
奈々
何か急き立てられるような気持ちを抱えながら、何をしていいのか判らない。そんな奈々の、自分を求めて模索するような日々を描いた青春ストーリィ。
自分の住む町という地域、そして偶々知り合った人たちとの間というごく限られた世界でのことですが、本作品には“遍歴時代”といった小説作品の面影があります。
バイクを乗り回していただけなのに思わぬ運命を背負ってしまった
ノブオという高校生、絵を描くために高校中退という道を選んだレイ、ふと出入りすることになった反戦喫茶のアリス

決して奈々は自分の道を踏み外した訳ではなく、自分の目で物事を確かめ、判断しようとしているだけなのに、担任教師や父親は型に嵌った目でしか奈々の行動を見ようとしない。
そこから奈々と学校の対立が生じ、奈々には反抗児というレッテルが貼られてしまいます。
かつて私自身も理屈っぽく物事を捉え、自分自身の力で考えてみようとした時期があるので、主人公である奈々の胸の内、反発心も十分判るのですが、一方で子供の親という立場からすると、奈々の行動はかなり頭が痛い。奈々の両親が心配する気持ちも判ります。
奈々の親友である
トモ子のひと言、「あんたは純粋すぎるよ」ということに尽きるのでしょうけれど、それはかなりシンドイ生き方でしょう、きっと。その典型例がレイのように思います。

それでも、分別と行動力ある奈々には、そんなシンドイ道を頑張って歩んで行って欲しいと思います。
なお、そんな奈々の傍らにいつも寄り添っているのは、愛犬の
フロイト。そのフロイトが、両親や他の誰よりも客観的に奈々を見守っている風であるところが、本作品の見逃せない良さです。

       

2.

●「「うそじゃないよ」と谷川くんはいった」● ★★
                 小学館文学賞・産経児童出版文化賞


「うそじゃないよ」と谷川くんはいった画像

1991年12月
PHP研究所刊

(1068円+税)

2011/05/11

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小学生のるいは、家の外では全くといっていい程口をきかない女の子。
そこに転校してきた
谷川くん、そっとるいに「僕とは話せよ」と声をかけてくれます。
その時からるいは、谷川くんと親しく会話する様子を想像の中でめぐらせます。
谷川くんの父親は動物生態の研究者で、そのために谷川くんは世界中のあちこちに言ったことがあるらしい。話題豊富でたちまちクラスの人気者に。
でもそんな谷川くんには、誰にも言えない秘密があった。そしてその秘密を知ることになったのは、るいのみ。

るいにしても谷川くんにしても、まつりちゃん同様、子供としては辛い思いをしています。それでもるいは、谷川くんに比べれば自分はまだ恵まれていると理解する力をちゃんと備えています。
題名の
「うそじゃないよ」という言葉、題名からは想像もつかないような重たいものを含んだ言葉でした。
表面的な事柄ではなく、将来に向かって希望を広げる力を持っているかどうか、大切なのは、そのことだと思います。

             

3.

●「ステゴザウルス」● ★★☆      路傍の石文学賞


ステゴザウルス画像

1994年03月
マガジンハウス刊

(1400円+税)


2012/06/25


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主人公は高校生の街子
昨年の春、母親が山奥の村に住んで農業を営んでいる男性の元へと家を出ていき、小学生の妹=
青子も付いていった。それから街子は、父親との2人暮らし。
ホテルの喫茶室でバイトを始めたもののやたら喧嘩腰。一方、たまたま見かけた女性に乱暴しようとしたらしい中年男をしつこく追いかけまわし、バイト先では女性風呂を覗いたらしい同僚を痴漢として追い詰めようとする。
一方、青子が住むことになった村は山村留学で小学生たちを迎え入れているが、彼らを村の少年は
“ステゴザウルス”と呼んでいる。

ストーリィを読み進むにつれ、街子たちを切なく思う気持ちが高まっていきます。
街子にしろ青子にしろ、ステゴザウルスと呼ばれた子供たち、そしてさらに街子が知り合いとなった同じ高校生の
歩平、彼らは皆親たちの都合で居場所を失った子供たち。
彼らに出来ることと言えば、ただ耐えることだけ。

本作品に結論はなく、ストーリィも結末がないまま終わっています。故に読了後残っているのは、子供たちへの切ない思いだけなのですが、それがどんなに大きかったことか。

   

4.

●「そのぬくもりはきえない」●(装画:酒井駒子)★★☆ 日本児童文学者協会賞


そのぬくもりはきえない画像

2007年11月
偕成社刊

(1400円+税)



2012/06/10



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主人公の羽村波は9歳、小学校4年生。
両親は4年前に離婚して、現在は母親と中学生の兄との3人暮らし。父親は既に再婚して男の子が生まれたばかり。

その波は、ちょっととろいところがある子なのでしょうか。母親は波に、絵画教室、ソフトボールチームに加えて、さらに塾通いまで押し付けてくる。波のことは何でもわかっている。お母さんの言うとおりにしていればいい、とでもいう風に。大人しい波は、自分の気持ちをはっきり語れないがために、いつも母親の言うとおりに従ってしまう。
そんな波にふと変化が生まれたのは、近所に住む5年生の
真麻から、年老いた高島さんの愛犬ハルの散歩を週一回引き受けたこと。母親が承知しないだろうことから内緒で、そのためソフトボールチームや塾通いをさぼるということが生じます。
そして高島さんの家の2階でハルが出会ったのは、
朝夫くんという不思議な男の子。
ハルが事情を抱えていたように、朝夫くんも何か事情を抱えていたらしい。互いに惹きつけられ同胞感を抱いた処から、新たな展開が生まれます。

何より良いのは、本作品が9歳の波の目線で描かれていること。
穢れなく、素直で、純真な少女の目線。大人の目線や考え方から、幼い少女の目線・思いがどんなにかけ離れたところにあるか、まざまざと考えさせられる思いです。
ちょっとした決断、行動ですけれど、そこに波の豊かな心と成長が描かれます。読者にとって嬉しいのは、その波の成長を母親が感じてくれたこと。
お薦めしたい児童小説の逸品です。

                  

5.

「オール・マイ・ラヴィング ★★


オール・マイ・ラヴィング

2010年01月
ホーム社刊

(1500円+税)

2016年12月
小学館文庫化



2017/01/04



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ビートルズが来日した1966年という時代を、地方の小さな町に住む女子中学生の目から描いた長編。

冒頭、年老いた父親の面倒をみている40代の女性が、40年前、ビートルズに夢中になった14歳の頃を思い出すという場面から本ストーリィは始まります。
地方の小さな町で、あの頃ビートルズのファンは殆どいなかったというのが語り出し。

ビートルズが大きなモチーフになっているのは事実ですが、ストーリィの内容は主人公である
平山喜久子14歳の、ごく周辺での、日常ごと。
母親が41歳で急死した後の父親と姉の3人暮らしの様子、近所の文具店では独身のままの息子=
ニーさんこと日郎と年老いた母親が2人暮らし。幼馴染の同級生、そして好意を抱いている同学年生とのこと。
さらに、東京から転校してきた
白石さん。彼女もまたビートルズファンと知って喜久子は躍り上るかのように喜びます。

俯瞰してみると、それぞれが何らかの形で広い世界への扉を求めていたのではないかと思います。
喜久子はビートルズを通じて、姉の
美江子は英語を学ぶことによって、幼馴染の良春は外国の女の子との文通によって。
しかし、子供にとって夢を膨らませることは自由ですが、それを実行できるだけの力はないのが現実。
だからこその切なさがあり、だからこそ思い出として留まっているのではないでしょうか。
喜久子と白石さんの短い交流もまた、切なさを象徴するような出来事のように思われます。

切なさの入り混じった、少女時代の回想記。味わいは豊かです。

       

6.

●「まつりちゃん」● ★★☆


まつりちゃん画像

2010年09月
理論社刊

(1400円+税)

2010/10/30

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学校生活、日常生活、ほんのちょっとした悩みや鬱屈を抱えている主人公たち。
そんな各篇の主人公たちがふと知り合うのが、小さな女の子、まつりちゃん

とてもていねいな話し方をするまつりちゃん、まつりちゃんと触れ合った誰もが、自分ももっとしっかりしなきゃ、という気持ちになるのかも。

そのまつりちゃん、ちょっと不思議な存在。まるで天使のように皆の前に現れたかの如くです。
でも、後半になると、次第にまつりちゃんの置かれている事情が明らかになっていきます。
現実的にはとても信じ難い設定なのですが、そこは小説。そのまつりちゃん、どんなに健気にふんばっていることか。

読んでいる最中、まつりちゃんは主人公たちがふと知り合う不思議な女の子という存在に過ぎませんでした。しかし読み終わった後、まつりちゃんの健気にふんばっている様子を思い返す度、うるうるとなりそうです。
まつりちゃん、忘れ難い小さなヒロインです。

          

7.

●「だれにもいえない」●(絵:網中いづる) ★★


だれにもいえない画像

2011年05月
毎日新聞社刊

(1300円+税)


2011/06/19


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小学4年生の女の子、千春。教室で隣席の、点くんのことが好きになります。
でも、いつ好きになったのか、どうして好きになったのか、自分でも判らない。いつの間にか好きになっていた。
この気持ち、だれにも知られちゃいけないと思う。その反面、誰かに打ち明けずにはいられない。

どうしていいか判らず、こんな気持ち初めてと、戸惑うばかり。それでも千春の、好きという気持ちには何の迷いもなく、真っ直ぐです。
異性を初めて好きになるということ。これから長い人生の中で何度も味わうだろう歴史のスタート地点、と感じます。
千春の初々しい気持ちに対して、一緒に暮している独身の叔母からのアドバイスはとても鮮やかです。
そして、人を好きになるという経験を通じて、同級生の
野々山さんという友人に対する千春の気配りもより増した気がします。

心を豊かにするであろう人を好きになるという経験の、スタート時点を瑞々しく描いた佳作。
児童書ではありますが、大人が読むとその清新さは一層鮮やかに感じられることと思います。

       

8.

「くもりときどき晴レル」 ★★☆


くもりときどき晴レル画像

2014年02月
理論社刊

(1400円+税)


2014/04/26


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子供たちが、自分のことではなく、誰かのことを思う、その純粋な気持ちを清新に描いた短篇集。

子供たちの心の有り様は、大人とは全く異なるものなのでしょうか。本書で描かれる子供たちの気持ちを受け留めると、そうとしか思えなくなります。
そんな子供たちの心模様に触れることができる、本短篇集の魅力はそれに尽きる、と言って良いでしょう。

本書収録の6篇中、私が特に惹かれたのは冒頭の「アスパラ」。何と切なく、何と愛おしいことでしょう。
次の
「恋じゃなくても」は、ユーモラスで、そのうえとても温かなものを感じる篇。そして「こんちゃん」も。

本書に登場する子供たちの心根は、皆とても優しい。
折角持っているその優しさを、いつまでも失わないでいて欲しいと、心から願いたくなります。
爽やかな風がどこまでも吹き抜けていくような、爽快な一冊。お薦めです。


アスパラ/恋じゃなくても/こんちゃん/マスキングテープ/背中/梅の道

            

9.

「マルの背中(絵:酒井駒子) ★★☆


マルの背中

2016年09月
講談社刊

(1300円+税)



2017/02/01



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2年前に両親が離婚し、亜澄は母親と共に父親と弟の理央が暮らす家を出ます。
これといった職歴のない母親は仕事探しに苦労し、毎晩焼酎で飲んだくれている有り様。家の収入は僅かで今や家賃も滞納している苦しい状況。

小4の亜澄にとっては、学校でも制服をきちんと着ている同級生と異なって前の小学校の時のままジャージ姿、教科書も時々見せてもらうという辛い状況ですが、亜澄は誰に文句を言うこともなく、自分の置かれている状況をきちんと理解し、自分を優しさを見失わずにしっかりと生きている女の子です。

亜澄の素晴らしいところは、母親から3度も死のうかと言われるような辛い状況下にあっても、他への優しい心遣いを失っていないこと。
今もずっと、黙って別れてきてしまった弟・理央の気持ちを心配していますし、アパートの近所にあるお菓子屋の主人から留守する間、飼い猫
マルの世話を託されるのもそうした優しさがあるからでしょう。
子供が本来持ち合わせている清純な心、優しい心を見出しているかのようなストーリィ。亜澄の健気な様子に心打たれ、胸が熱くなるばかりです。

そんな亜澄の姿を描いた
酒井駒子さんの表紙絵がとても素敵で、いつまで見ていても見飽きることがないように思えます。

※なお、本書題名は、マルの背中を撫でると願いが叶うという、子供たちの間の言い伝えから。

                 

10.
「地図を広げて ★★


地図を広げて

2018年07月
偕成社刊

(1500円+税)



2018/12/15



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4年前に母親は弟のを連れて家を出て行き、そのまま両親は離婚。鈴は父親と、弟の圭は母親と暮らし、それ以来離れ離れ。
しかし、母親が職場で倒れそのまま死去してしまったことから、もうすぐ小3の圭は、かつての家とは違う父親と
が暮らすマンションに同居することになります。

かつては一緒に育ち、一緒に遊んだ弟とはいえ、4年も離れていたことは大きい。家にやって来た圭は、ずっと丁寧な口の利き方を通し、どこか他人行儀。
だからといって叱りつける訳にもいかず、ただ見守っていくしかない。
その圭、町の地図を欲しがり、与えると毎日自転車であちこちへと出掛けている風・・・。

4年の間、他人として連絡を取り合うことも殆どなかったのですから、元の形に戻るだけ、という簡単なことではないことを、鈴と圭の姿から感じさせられます。
ただ、無理に圭を馴染ませようとせず、徐々に近づこうとしていた鈴の気持ちに、弟を大切に思う姉の温かさを感じます。
やがて鈴が気付いたことは、圭には4年間にわたる母親と二人だけの暮らし、大切な思い出がある、ということ。
そうした圭の思い出に鈴が近づこうと行動したところから、二人の距離が縮まっていく。

新たな家族を再び作っていく過程を、優しく包み込むように綴ったストーリィ。
2人のそうした時間がとても愛おしく感じられます。

  


   

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