磯崎憲一郎作品のページ


1965年千葉県生、早稲田大学商学部卒。2007年「肝心の子供」にて第44回文藝賞、09年「終の住処」にて 第141回芥川賞、2011年「赤の他人の瓜二つ」にて第21回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、13年「古今到来」にて第41回泉鏡花文学賞を受賞。


1.
終の住処

2.
電車道

  


 

1.

「終の住処(ついのすみか) ★★       芥川賞


終の住処

2009年07月
新潮社刊
(1200円+税)

2012年09月
新潮文庫化


2009/08/16


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不思議な小説。
時間の流れが2つあるかのようにストーリィは推移します。

主人公と妻は、共に30歳を過ぎてからの結婚。各々20代の、長く続いた恋愛に敗れた後で。
お互いにまるで、人生の終焉を受け入れるかのようです。
結婚、浮気、娘の誕生、親子3人で遊園地に遊びに行った後、妻は主人公と口をきかなくなり、それが11年間も続く。
再び妻が口をきいたのは、主人公は妻と娘に向かって家を建てることを宣言してから。

結婚によって主人公の孤独感は、むしろ深まったように感じられます。
妻と母親が仲良くなる。それを見て主人公はドロップアウトしていく。浮気、そして海外赴任も、その延長のことか。
お互いに諦めて受け入れた結婚であるが故に、主人公と妻には各々異なった時間の流れがあるかのよう。
孤独を深めるほど、時間の流れは、人々と異なった自分だけのものとなるのかもしれない。
そして再び合流した時、もはや終焉は間近、ということか。

本作品が何を描こうとしたのか、理解するには及びませんでしたが、主人公に流れる時間は悠久に通じているかのように感じられます。それが印象的。
時間の流れの不思議さを感じさせられる作品です。

終の住処/ペナント

    

2.

「電車道 ★★☆


電車道

2015年02月
新潮社刊
(1600円+税)

2017年11月
新潮文庫化


2015/03/20


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明治〜昭和に亘る時間の流れを、鉄道事業の発展に沿わせて描いた、味わいある長編。

まずは新橋〜横浜間を汽車が走り始めたことを皮切りにしつつ、家族を残して出奔した薬屋の男と、議員選挙に落選して出奔した元銀行員の男のその後の足取りが描かれます。
そんな本作品、主人公は一体誰なのか?と考えると、本書中に流れる長い時間としか答えられないようです。
そしてストーリィの軸となっているのが、鉄道発展の様子。
あたかも、どこまでも続く鉄道の線路の両脇でいろいろなドラマが出来事が繰り広げられている、それらを俯瞰的に捉えたストーリィ、と言って良いでしょう。

鉄道事業の発展、2人の男をルーツとしたドラマ、そして長い時間の流れ、それら3要素を巧みにブレンドして絶妙なる味わいを生み出しているところが、本作品の魅力です。
元薬屋、元銀行員という2人の男の人生にも鉄道が何らかの形で関わります。しかし、2人の物語部分はリアルというより、カリカチュアされたドラマという印象で、そこに過ぎた長い時間をさし示す具体的な事例に過ぎないと感じます。

初期鉄道事業の様子も興味深いのですが、本作品については小説としての構成、見せ処にこそ稀なる面白さがあります。お薦め。

  


  

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