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「世界で一番のクリスマス」 ★★ |
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石井光太さんは「蛍の森」で初めて名前を知った作家ですが、その時は読むに至らず。本書が初読書です。 本書は、上野界隈の風俗業界に関わって生きる男女の、過酷な状況の中で必死に生きる姿を描いた短篇集。 ・「午前零時の同窓会」の主人公は、デートクラブで生活を立てている咲楽誠一、40歳頃。父親が若い外国人ホステスに入れあげて会社の金を横領、逮捕されたあおりで誠一も解雇され、転職もままならず、離婚を経て現在に至る。そんな誠一に、高校時代に僅かの間つきあったことのある早見美優から指名電話が・・・。 ・「月夜の群飛」は、風俗店の企業支援・サイト支援の会社を起業した広木涼介。その涼介、下町地区でデリヘリが激減している事実に気づく。その原因は何と・・・。そして、その状況は涼介の知るデリヘル嬢をさらに窮地へと追い込み・・・。 ・「鶯の鳴く家」:鶯谷のラブホテル街、在日韓国人夫婦が経営するホテルが舞台。その従業員は障害者が多く、家庭的な職場環境だったが競争激化により労働状況は過酷なものに変化。かつてそこが働きやすかったのは、一人の女性の頑張りによるものだったのだが・・・。 ・「吉原浄土」は、吉原大門近くにあるクリニックが舞台。患者の8割は界隈の風俗店で働く女性たち。以前は親しみやすい病院だったが、それが一変したのは中絶手術を多く行うようになってから。そこに何があったのか・・・。 ・表題作「世界で一番のクリスマス」は、かつてフィリピン・パブの経営に失敗した父親のおかげで辛酸な苦労を重ねた姉妹が主人公。姉は人気AV嬢を経てバーを開業。その店を今はシングルマザー、姉とずっと疎遠だった妹が訪ねてきたところから始まるストーリィ。 前4篇と異なり、明るく漲る力にホッとさせられます。 ※なお、本篇は石井さんが元AV嬢の麻美ゆまさんに子供時代の話を聞いてインスパイアされた作品とのこと。 全篇を通して強く感じることは、たとえ風俗業界であろうと、そこに関わる男女は、自分の仕事として懸命に従事しているということです。 職業に貴賤はないと言いますが、それは風俗業界についても言えること。その業界で働くのにはそれなりの事情、理由があるのでしょうから。 元々お金、儲けあっての風俗業界なのでしょうけれど、他の業界に負けず劣らず、利益至上主義、国際情勢、外国人流入等の影響がこんなにも現在の風俗業界を過酷な状況に追い込んでいたとは(関わったことがないのでどこまで真実なのか知り様もありませんが)、絶句する思いです。 午前零時の同窓会/月夜の群飛/鶯の鳴く家/吉原浄土/世界で一番のクリスマス |