今村夏子作品のページ


1980年広島県生。2010年「あたらしい娘」にて第26回太宰治賞、11年に同作を改題した「こちらあみ子」と新作中短編「ピクニック」を収めた「こちらあみ子」にて第24回三島由紀夫賞、17年「あひる」にて第5回河合隼雄物語賞、「星の子」にて第39回野間文芸新人賞を受賞。


1.こちらあみ子

2.あひる


3.星の子

4.父と私の桜尾通り商店街

 


                 

1.

「こちらあみ子」 ★★★           太宰治賞・三島由紀夫賞


こちらあみ子画像

2011年01月
筑摩書房刊

(1400円+税)

2014年06月
ちくま文庫化



2010/01/30



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本書は、風変わりな少女=あみ子の物語。
あみ子が思うこと、感じることは、周りと少し違うようです。だからといってあみ子が嫌な子、意地悪な子という訳ではありません。
むしろ、誰にも負けないくらい正直で、真っ直ぐで、疑うということをまるで知らない、といった少女なのです。
でも、好きだ、好きだとまとわりつかれる同級生の
ノリ君が、しきりと迷惑がるのは判るよなぁ。

すぐ気づくことですが、あみ子、知的障害がある少女なのでしょう。でもそれは、あみ子が見る力や感じる力を持っていない、不足している、ということでは決してありません。普通の人以上にあみ子は感受性豊かなのです。でもあみ子の感じること、考えることが、うまく他の人に伝わらないというだけ。
あみ子が欲しがったトランシーバーは、象徴的です。
いつもあみ子は真っ直ぐです。純粋無垢、底抜けの明るさ、その意味であみ子は素敵で、愛おしい少女です。
そんなあみ子の目に映る世界を鮮やかに描き出した本書、逸品と言って間違いない秀作です。
最後、そんなあみ子をきちんと受け止めていてくれた同級生がいたことがとても嬉しく感じられ、読後感は爽やかです。
 
「ピクニック」も、「あみ子」と共通するところのある、30代らしい七瀬という女性が主人公。
女の子たちがビキニ姿でローラースケートをはいてウェイトレスを務める「ローラーガーデン」という店で、不思議にも七瀬は若い女の子たちの間に溶け込んでいきます。その理由の一つは、七瀬が語る風変わりな彼女の恋物語だった所為かもしれません。
七瀬が語ったこと、それは想像のこと、あるいは嘘だったのでしょうか。でも、
ルミら女の子たちが七瀬を大事にしたのは確かなこと。そのことの方がずっと大事、と思います。
善良とは何か?と、ふと考えてしまう一冊。 お薦め!です

 
こちらあみ子/ピクニック

             

2.

「あひる ★★       河合隼雄物語賞


あひる

2016年11月
書肆侃侃房刊

(1300円+税)

2019年01月
角川文庫化


2016/12/06


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待望の2作目は、中篇3作。
いずれも小品ですが、登場人物それぞれが抱える切ない思いがいつまでも胸の内に留まるかのようです。

「あひる」
知人から頼まれあひるの「のりたま」を引き取って飼い始めた両親、あひるのお陰で近所の小学生たちが遊びに来るようになり、大喜び。しかし、そのあひるの具合が悪くなり・・・。

「おばあちゃんの家」
小学生のみのりと
おばあちゃんのささやかだけれど確かな繋がりを描いた篇。
おばあちゃんはひいおじいちゃんの奥さんだけれど血の繋がりはなく、みのりの家のすぐ近くにある「インキョ」に別住まい。
ボケが始まったように見えるおばあちゃんだけれど意外に元気。本当の正体は・・・・とつい考えてしまいます。

「森の兄妹」
貧しく母親の帰りが遅いため、小学生のモリオと妹のモリコは母親が帰宅するまでの時間を2人だけで何とか過ごしている。
ある日うっかり入り込んでしまった家で、そこのおばあさんに声を掛けられる。おばあさんは2人にお菓子をくれるが・・・・。


本書を読み終えて、次の作品に期待する気持ちが膨らみます。

あひる/おばあちゃんの家/森の兄妹

               

3.

「星の子 ★★☆       野間文芸新人賞


星の子

2017年06月
朝日新聞出版

(1400円+税)



2017/07/02



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何とも感想の言い難い作品です。

主人公の
ちひろ、生まれたばかりの頃は病弱で湿疹がひどく、夜泣き等で大変だったのだという。しかし、父親が同僚からもらった怪しげな水でちひろの身体を拭くようになると、みるみる状態は改善。それ以降、両親はすっかり怪しげな新興宗教にのめり込んでしまう。その結果、ちひろの家庭は・・・。

よく聞くような、ありがちなストーリィです。
でもちひろの両親を非難できないのは、そこにちひろに対する、家族に対する愛情がしっかりあることが感じられるから。おそらくこの両親、余りに善良で、人を疑うということを知らない純真な心の持ち主なのでしょう。
でも、現実に5歳上の姉
まさみは、その犠牲になったような形で家を出て行ってしまう。

では肝心のちひろはどうなのか。
両親の異常さを分かっているのでしょう。でもそれが自分への愛情に端を発したものであることを理解していることから、両親を責めずただ受け入れている。でも、自分自身はそれらに流されないよう、しっかり自分を保ちながら小学校、中学校と成長していく風です。
私は大丈夫・・・という言葉がそれを表しています。

読了後胸に去来するのは、この家族4人それぞれに対する愛おしさです。

              

4.
「父と私の桜尾通り商店街 ★★


父と私の桜尾通り商店街

2019年02月
角川書店刊

(1400円+税)



2019/03/14



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不器用な人たちを描いた短篇集、とのこと。

どの篇も独創的なストーリィなのですが、共通点は何なのかと戸惑っていたところ、不器用な人たちの物語と言われて、成る程と思った次第。

しかし、不器用といってもこれはなぁ。
信じ難いような話(
「ひょうたんの精」)や、ちょっとブラックあるいはホラー的な話(「せとのママの誕生日」)もあれば、妄想的な話(「モグラハウスの扉」)もありと、趣向は実に多彩。

上記3篇に対し、冒頭の
「白いセーター」と、最後を締める「父と私の桜尾通り商店街」は現実的なストーリィ。

表題作「桜尾通り商店街」は、廃業を決めた<パン屋>の父と、<パン屋の娘>である主人公を描いたストーリィですが、滑稽さと寂しさが綯い交ぜになって、絶妙の味わいです。

不器用な人が突然器用になれる訳もなく、不器用は不器用のままで生きていくしかない。それでも、不器用なりに生きる充足感は得られるのかもしれない・・・そう感じる短篇集。


白いセーター/ルルちゃん/ひょうたんの精/せとのママの誕生日/モグラハウスの扉/父と私の桜尾通り商店街

    


   

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