保坂和志作品のページ


1956年山梨県生・鎌倉で育つ、早稲田大学政経学部卒。90年「プレーンソング」にて作家デビュー。93年「草の上の朝食」にて野間文芸新人賞、95年「この人の閾」にて芥川賞、97年「季節の記憶」にて平林たい子文学賞・谷崎潤一郎賞、2013年「未明の闘争」にて第66回野間文芸賞を受賞。


1.カンバセイション・ピース

2.
ハレルヤ

  


 

1.

「カンバセイション・ピース」 ★★

 
カンバセイション・ピース

2003年07月
新潮社刊

(1800円+税)

2006年04月
新潮文庫化

2015年12月
河出文庫化


2004/01/31


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何ということもない日常、日常会話が続くストーリィです。
舞台となっているのは、築後50年経つ古い日本家屋の家。
子供の頃の一時期同居したその伯父の家に、地方転勤になった従兄に頼まれ、作家である主人公は戻ってきます。

同居した頃は、伯父一家6人に主人公一家3人という、9人の大所帯。今回も主人公と妻に加え、妻の姪、さらに友人の会社事務所として3人も入り込み、再び6人+猫3匹という大所帯。
畳部屋主体の古い家ですから、部屋の独立性も薄く、その時々の必要に応じて様々な使い方をされてきた。そして今も、住居人は自由に各部屋を行き来している。この家は大勢が住むのに似合っている、という舞台設定です。

子供の頃住んだ家だけに、主人公は度々過去を思い巡らせ、過去と現在がシンクロするように語られていきます。以前いた飼い猫と現在の飼い猫との類似、度々観に行くプロ野球の試合。短期的には日常生活が進行しているものの、俯瞰的に見れば同じことの繰り返し。日常生活が普遍化されていくような感覚に充たされます。
日溜りの中に浸っているような、そんな居心地の良さが本書にはあります。各部屋が仕切られていないからこそ、とりとめのない会話も住人たちの間でしきりと交わされ、人と人との繋がりになっている。

「人間は物との関係を自分の側で作ってると思ってるけど、本当は物が人間との関係を決めているんだよな」、という主人公のひと言が象徴的、印象に残ります。
本作品の真の主人公は、この古い家と言うべきなのでしょう。

                 

2.

「ハレルヤ ★★


ハレルヤ

2018年07月
新潮社刊

(1500円+税)



2018/09/04



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エッセイかな、とも思える4篇を収録した一冊。

表題作
「ハレルヤ」は、猫好きな主人公夫婦が、捨てられていた?生まれて2週間ばかりの仔猫(しかも片目)を助け、飼い猫として18年余を一緒に過ごした“花ちゃん”との最後の日々を描いた篇。
「十三夜のコインランドリー」は、子供の頃に出会い、助けようとしたがそのまま逃げ去った猫との思い出を描く篇。
そして
「こことよそ」は、友人の死、葬儀に関係して、若い頃の日々をいろいろと回想した、川端康成賞受賞作。

「生きる歓び」は、再び花ちゃんとのこと。夫婦との出会い、迷いながらも結局花ちゃんを助けて家に連れ帰り、大事な家族となっていた日々の思い出が語られます。

本書についての感想は、花ちゃんのことに尽きます。
ウィルス感染して両目とも開いていない、生き延びるかもわからないような仔猫。腹部に腫瘍ができ余命僅かと宣告された花ちゃん。
これが人間だったら、さぞ大事になっていたことでしょう。懸命な措置を取らずにいたら非難轟々、とか。
その辺り、決して見放している訳ではないのですが、出来ることをすればいいと淡々と接している気がします。
花ちゃんと夫婦、飼い主とペットという関係ではなく、対等な関係。
お互いに信頼し合える愛情がそこにる、という気がするなぁ。


ハレルヤ/十三夜のコインランドリー/こことよそ/生きる歓び/あとがき

   


  

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