堀川アサコ
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1964年青森県生。室町時代の風俗文化に魅了され、この時代を舞台とした時代小説の執筆を始める。2002年「芳一――鎮西呪方絵巻」にて第15回小説すばる新人賞の最終候補、06年「闇鏡」にて第18回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞。

 
1.
たましくる
−イタコ千歳のあやかし事件帖−

2.魔所−イタコ千歳のあやかし事件帖2−(文庫改題:これはこの世のことならず)

3.幻想郵便局

4.月夜彦

5.幻想電気館(文庫改題:幻想映画館)

6.日記堂ファンタジー (文庫改題:幻想日記店)

 


   

1.

●「たましくる−イタコ千歳のあやかし事件帖−」● ★☆


たましくる画像

2009年10月
新潮社刊

(1200円+税)

2011年06月
新潮文庫化

 

2009/11/08

 

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昭和6年の弘前が舞台。
そこに東京から、島田幸代が姪の安子を連れて東京からやってくる。共に女郎をしていた双子の姉=雪子が内縁の夫を殺して自殺するという事件が発生。孤児となった安子を、雪子の最初の男で安子の実父である新志の実家=大柳家に預けるため。
それなのに幸代が安子と共に弘前で暮らすことになったのは、大柳の末子、全盲故に巫女(イタコ)となった19歳の千歳から、3人で一緒に暮らそうと提案を受けたことから。

「イタコ千歳のあやかし事件帖」という副題からは、オカルティックなミステリを連想しますが、それ程のことはない。
千歳自身、夫が死んで身を置く職業として巫女を選んだというのが動機のようですし、死者の魂を呼び寄せるなどという振る舞いはする気もない。
ただ、千歳という巫女がそこに居ることによって、事件の関係者に様々な疑問を思いつかせ、事件解決に至らせるという、触媒のような存在です。
全盲である千歳の動きを補って、よいコンビとなって事件を解決するのが、主人公の幸代。
ミステリより、お互いハンデを抱えた身で気の合ったコンビという関係に至った2人の姿が楽しい短篇集。

昭和6年の弘前というと古臭い舞台設定のように感じますが、巫女という存在には相応しい。
本書については、ミステリ部分より、昭和6年という時代風景、農家の貧しさといった社会風景の方が見処と思います。

魂来る/ウブメ/インソムニア/押し入れの中/紅蓮

   

2.

●「魔 所−イタコ千歳のあやかし事件帖2−」● ★☆
 (文庫改題:これはこの世のことならず−たましくる−)


魔所画像

2010年08月
新潮社刊

(1200円+税)

2013年11月
新潮文庫化

 

2010/09/10

 

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戦前の弘前を舞台に、資産家の末娘ながら若くして未亡人、そして全盲の巫女(イタコ)となった千歳と、お互いの姪である安子を挟んで一緒に暮らす島田幸代を探偵役&助手役に見立てた、「イタコ千歳のあやかし事件帖」第2弾。

前作は、時代、場所、ストーリィの中身と、各々異色なところに惹かれましたが、2作目になると舞台設定がもうはっきりしているので安心して楽しめた、という印象です。
東京の粋筋で働いていたことのある幸代は、東北には稀なモダンガール。一方千歳は、未亡人とはいえ明るい性格の美少女。
この2人のコンビ、ホームズとワトソン以上に、息の合ったコンビという風。
それでも、死者も生者も霊も肉体も同じ行動原理に従って動く、死者との付き合いも近所付合いも自分にとっては同じ、と考えるイタコ・千歳の魅力が格別なのは言うまでもありません。

人間に善人も悪人もいるように、霊にも善良なもの、禍々しいものがいる。そう考えると、人間と霊の境界などそう大きなものではない、と思えてきます。
霊と人間が近いところにいる、昭和初期の東北だから如何にも現実としてありそう、そんなところが本書の魅力。
本シリーズ、巻を重ねる毎に味わいを増していくような気がします。
4篇中、表題作「魔所」は底深いストーリィで、読み応えあり。また、「これはこの世のことならず」は多面的で、最後に心安らぐストーリィ、いいなぁ。

魔所/これはこの世のことならず/白い虫/馬市にて/エピローグ:逢魔が時

     

3.

●「幻想郵便局」● 


幻想郵便局画像

2011年04月
講談社刊

(1500円+税)

2013年01月
講談社文庫化

  
2011/05/10

   
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短大を卒業したものの就職先が決まらず困っていた安倍アズサですが、探し物が得意というその特技を買ってバイトとして雇いたいという話が来ます。
喜んで応じたものの、心霊スポットだという山の頂上にあるその
“登天郵便局”、実は冥界と現世の境界に建ち、死んだ人の仲立ちをするという業務を扱っているところ。
バイトを辞退したいと思ったものの、何故か辞退届はちっともFAX送信されず、否応なくアズサは勤め続けることに。
そこでアズサが出会う、不思議な事々を描いた、心霊ファンタジーとでも言うべきストーリィ。

郵便局の裏には、死にかけた人がよく見るという広大な花畑が広がり、何となく楽しそうな雰囲気があるのですが、ストーリィ自体は結局、散漫に終わってしまった、という印象。
 
結局、どういうストーリィだったのか、どこに魅入らせようとして描いたストーリィなのか、はっきりしないまま、舞台設定の面白さだけを披露しただけで終わってしまったのではないか、と思う次第。
イタコ千歳のあやかし事件帖がそれなりに魅力ある作品だっただけに、ちょっと残念な気分です。 

       

4.

●「月夜彦(つきよひこ)」● ★☆


月夜彦画像

2011年10月
講談社刊

(1400円+税)

 
2011/10/29

  
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舞台は平安時代。
小悪党の
小槌丸は、自分が右大臣家の息子=月夜彦とそっくりなことを知り、月夜彦を殺して右大臣家の嫡子にすり替わろうと策略を巡らせます。
その折も折、都には夜、女房たちを襲っては殺し、なおかつその腹を喰い破る化け物が彷徨しています。その賞金として千貫目が設けられたことから、その化け物は“
千貫目”と呼ばれることになる。
その最初の犠牲となったのは、左大臣家の
巽姫。巽姫の死で恩恵を受けたのは右大臣家。その娘で月夜彦の姉である千名姫は天子の中宮となり、今は懐妊の身。
そんな情勢を背景に、小槌丸、月夜彦、千名姫らが交錯する、平安時代ものホラー&ミステリ作品。

闇となる夜中には化け物が往来して不思議のない平安時代、化け物、怪奇な出来事というストーリィはその時代に似つかわしい。
主人公である小槌丸をはじめ、好意をもてる人物が誰もいないところが、ちとストーリィに乗りにくいところ。
そのうえ、薄気味も悪いし。
それでも最後にミステリの謎解きという展開が待っているところが、救いとなる楽しみでしょうか。

      

5.

●「幻想電氣館」● ★☆
 (文庫改題:幻想映画館)


幻想電気館画像

2012年04月
講談社刊

(1500円+税)

2013年05月
講談社文庫化

   
2012/05/14

   
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題名から判るように幻想郵便局の流れを汲んだ作品。
つまり、あの世とこの世を繋ぐ場所、今回はそれが寂れた古い映画館“
ゲルマ電氣館”だった、という次第。
その映画館でバイトを始めることになったのは、幽霊が見えると自己紹介したことからクラスで仲間外れとなった不登校中の女子高生、
楠本スミレ
 
スミレたち生存している人間たちの間に幽霊たちが入り込み、幾つかの揉め事が絡み合うように展開していくストーリィ。
死んだ人間があの世から舞い戻ってきたという事件、孤独死した祖母の怨霊に纏わりつかれて恐慌状態にある同級生一家、スミレが一目惚れした映画技師、父親の浮気騒動等々。
ストーリィが輻輳するうえに幽界サスペンスといった風味がある分、「幻想郵便局」より楽しめる感じです。
主人公のスミレがいい味を出していますし、その妹分になった観のある少女
カノンちゃんとスミレのコンビ、またスミレに自分勝手に付きまとう同級生の存在という、女の子たちの配役が結構楽しい。
 
1.シリトリから、はじまる/2.幽霊が見えたりするので/3.大伯母さまとゲルマ電氣館/4.ゲルマ電氣館のお仕事/5.スクリーンの向こうから/6.霊感のない幽霊・・・/7.皆が集まる/8.対決/9.うるさい、いとしい

      

6.

●「日記堂ファンタジー」● 
 (文庫改題:幻想日記店)


日記堂ファンタジー画像

2012年08月
講談社刊

(1300円+税)

2014年01月
講談社文庫化

  

2012/09/24

 

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人の日記を売り買いする“日記堂”。その主はというと青い紬を着た目を見張る美女。
3浪して大学に入学したばかりの
鹿野友哉、ひょんなことからその日記堂で只働きさせられることになります。3年前に脱医者して屋台カフェという商売を始めた父親、日記堂の主である美女=紀猩子と顔見知りだったらしく、只働き提案に即快諾。それから日記堂が関わった難題に友哉も巻き込まれることに・・・。

“日記堂”という面白そうな設定に今度こそ、と期待したのですが、うーん・・・。またしても、というのが率直な感想。
堀川さんのファンタジー、いつも曖昧模糊としたまま終わってしまうのです。
何故日記堂という商売が生まれたのか、どうして成り立っているのか、何を目的としているのかは最後まで明らかにならないままですし、紀猩子という一癖も謎もある美女は曲者なのか、果たして実は救済者なのか、そのキャラクターも結局はっきりしないまま。
さらに、主人公が大学に入って好きになった女子大生=
江藤真美を巡る三角関係も、何も解決しないまま終了。
曖昧模糊としていることこそファンタジーと言われれば何も言えませんが、けれどそれは無いだろうと思います。

折角の素材を書き散らしたまま、シリーズになりそうでならないまま、というのは勿体ないことです。今回もいつもと同じ感想に行き着きました。

 
プロローグ/美女と虜囚/怪盗花泥棒/恋々/ニセモノ

    


   

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