誉田
(ほんだ)哲也作品のページ No.1


1969年東京都生、学習院大学卒。2002年「ダークサイド・エンジェル紅鈴・妖の華」にで第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を受賞して作家デビュー。03年「アクセス」にて第4回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。


1.
妖の華−妖シリーズNo.1−

2.吉原暗黒譚−妖シリーズ外伝−

3.ジウT−警視庁特殊班捜査係【SIT】−

4.ジウU−警視庁特殊急襲部隊【SAT】−

5.ジウV−新世界秩序【NWO】−

6.ストロベリーナイト−姫川玲子シリーズNo.1−

7.ソウルケイジ−姫川玲子シリーズNo.2−

8.シンメトリー−姫川玲子シリーズNo.3−

9.武士道シックスティーン−武士道シリーズNo.1−

10.武士道セブンティーン−武士道シリーズNo.2−

11.武士道エイティーン−武士道シリーズNo.3−


インビジブルレイン、歌舞伎町セブン、感染遊戯、レイジ、ドルチェ、あなたの本、あなたが愛した記憶、幸せの条件、ブルーマーダー

 誉田哲也作品のページ No.2


ドンナビアンカ、増山超能力師事務所Qrosの女、ケモノの城、歌舞伎町ダムド、インデックス、武士道ジェネレーション、硝子の太陽N、硝子の太陽R、増山超能力師大戦争

 誉田哲也作品のページ No.3


ノーマンズランド、あの夏二人のルカ、ボーダレス、歌舞伎町ゲノム、背中の蜘蛛、妖の掟、もう聞こえない、オムニバス、フェイクフィクション、アクトレス

 誉田哲也作品のページ No.4


妖の絆、ジウX、マリスアングル 

 誉田哲也作品のページ No.5

  


 

1.

「妖(あやかし)の華 ★★       ムー伝奇ノベル大賞優秀賞
 (単行本題名:ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華)


妖の華

2003年01月
学習研究社

2010年11月
文春文庫
(695円+税)



2020/05/13



amazon.co.jp

ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を受賞した、誉田さんのデビュー作。
2020年 5月刊行「妖の掟」の前作と知り、読むに至りました。

内容はというと・・・・こりゃ凄い。
現代における吸血鬼を主役にしたストーリィですから、まさにホラーと言うべきところなのですが、ホラーというよりダーク・サスペンス。
スピーディなストーリィ展開、グロテスクな事件、炸裂するかのような闘争シーン。まさに
“姫川玲子”“歌舞伎町セブン”シリーズの原点はここに在り、です。

警視庁目白警察署管内で男性の変死体が発見される。死体に残されていたのは、想像を絶する恐怖を味わったかのような表情、削り取られたような喉元の傷。そして付近に血痕がないにもかかわらず、死因は失血死とのこと。
一方、ヤクザの女に手を出しリンチされかかっていたヨシキの前に現れ、彼を救い出してくれた正体不明、でも美人の上にスタイル抜群の若い女=
紅鈴。その紅鈴こそが 400年もの間生き続けてきた闇神(やがみ)=日本の吸血鬼族。
そして、何故かその紅鈴を探し求めている暴力団。

本作は、吸血鬼・暴力団・警察が入り乱れてぶつかり合うサスペンス。
サスペンス自体に魅力があるのは勿論ですが、それ以上に魅力的なのは紅鈴というキャラクターにあることは疑いようもありません。
強面である一方で、節度や優しさ、陽気さも合わせ持つ女性。
終盤の激突場面、その後の意表をつく結末、読み応え十分です。

なお、姫川玲子シリーズでお馴染みの、
監察医・國奧定之助、玲子にしつこく付きまとう刑事・井岡博満が登場しています。
姫川シリーズと異なり、井岡は突出した捜査ぶりで、どうも美味しい役どころのようです。

           

2.

「吉原暗黒譚 ★☆   


吉原暗黒譚

2004年04月
学習研究社

2013年02月
文春文庫

(590円+税)



2023/01/24



amazon.co.jp

シリーズ外伝。

江戸吉原で、狐面を付けた者たちによる花魁殺しが相次いで起きます。殺されたのは皆揃って、女衒の
丑三があちこちの店に貸し出した(レンタル)花魁たち。
その狐面の集団を捕らえ事件を解決しようと挑むのが、南町奉行所の貧乏同心で吉原大門脇の面番所務めの
今村圭吾
そしてその今村とコンビを組むのが、元花魁「姫松」で現在は髪結いという
彩音
実はその彩音、
妖の絆の終盤に登場する忍び夫婦の娘ということで、“妖”シリーズのスピンオフ、外伝という次第。

謎の狐面集団との闘いという設定なら、くノ一である彩音を主人公とした方がさぞ面白かろうと思うのですが、誉田さんへの依頼が男性を主人公にというものだったそうです。
また、ノワール小説の舞台として現代なら歌舞伎町、なら江戸時代だったら、ということで吉原を舞台に設定したそうです。

なお、今村圭吾と彩音の探索ストーリィの一方で、大店の主人である父親からこれ以上ないくらいの虐待を受け続ける幼い娘のストーリィが入り込み、少々戸惑う処もあり。

最後はそれが結びついて事件決着へと進むのですが、う〜ん、すっきりしない処が残るなァ、という感想。
キャラクターとして面白そうな彩音の活躍をもっと読みたい、という物足りなさも残り、今ひとつ惜しまれます。

         

3.

●「ジウT−警視庁特殊班捜査係【SIT】−」● ★★


ジウT

2005年12月
中央公論新社

2008年12
中公文庫刊

(667円+税)



2011/08/21



amazon.co.jp

警視庁特殊犯捜査係(SIT)に勤務する若い女性巡査2人、門倉美咲伊崎基子は対照的なキャラクター。
この2人を主役に据えた、全3巻にわたる警察サスペンス。
そして表題の「
ジウ」とは、上記2人が各々異なる経路を辿りながら追うことになる、凶悪な児童誘拐事件の主犯と思われる謎の人物のこと。

美咲・基子が関わる前に起きた児童誘拐事件(利憲くん事件)。人質は両親のもとに戻ったものの、まんまと金は奪われ、捜査班は犯人を取り逃がしてしまう。
そして起きた主婦を人質にとっての立て籠もり事件。
SITが出動して結果的に犯人を逮捕したものの、美咲のさらした醜態が刑事部長の怒りを買い、美咲はSITをクビになり、所轄署勤務へ異動。
一方、基子はその活躍が上部の目に留まって抜擢され、
警視庁特殊急襲部隊(SAT)初の女性隊員として異動、一見2人の明暗が分かれた形となります。

しかし、碑文谷署勤務となったものの美咲、SITでの上司だった麻井警部の配慮により碑文谷署に設けられた利憲くん事件の捜査班に加えられ、警視庁捜査一課殺人犯三係主任である東警部補と組んで、犯人を追うことに。
そこで浮かび上がったのが、ジウという名前。

事件の凶悪性、主役2人の対照的なキャラクター(それこそが本作品の魅力の一つなのですが)、ジウをめぐる謎、そしてストーリィ展開の早さ。
数多いであろう警察サスペンスの中でも頭を抜く面白さをもった作品であろうことは疑いありません。

         

4.

●「ジウU−警視庁特殊急襲部隊【SAT】−」● ★★


ジウU

2006年03月
中央公論新社

2009年01月
中公文庫刊

(667円+税)



2011/08/21



amazon.co.jp

本ストーリィの中に突然登場した、新潟の貧民窟のような場所で育った少年の話。いったい本作品のどこに通じるのやら?

碑文谷署に異動したものの門倉美咲巡査東警部補らと組んで事件捜査を続けていたところ、再び児童誘拐事件に遭遇します。
またここで派手な展開へ。
長身だけれど美人で可愛い子性格の美咲、再び重傷を負うことになりますが、イジメられっ子体質なのでしょうか。もう可哀想になるくらい。
凶悪犯との対決ということになれば当然、ということで出動してきたのが、
伊崎基子巡査を含むSATの面々。

ところがSATの一員が犯人側の一人に射殺され、基子は茫然。しかし、本事件出の活躍をネタに基子は自ら昇進を勝ち取り、上野署へ異動。
上野署の交通課に異動したものの、これといって活躍する場が与えられず退屈する基子へ、ヤクザなフリージャーナリストが近づいてきます。
その男=
木原に誘われるがままに基子もまた、単独でジウを追うことになります。

児童誘拐事件は解明されるどころか、ますます複雑化していき、何が核心なのかまるで捉え難い展開。
それでも美咲と基子、それぞれ別方向からではあるものの、ジウを追うという点では共通してします。
その複層化しているところが、主役2人のキャラクターの故でもあり、本作品の魅力でもあります。

繰り返される事件の凶悪さは、慄然とする程です。それは姫川玲子シリーズとも共通するところ。
※なお、本巻では美咲、基子の恋愛模様も描かれます。それもまた2人のキャラクターを反映していて、まことに対照的。

        

5.

●「ジウV−新世界秩序【NWO】−」● ★★☆


ジウV

2006年08月
中央公論新社

2009年02月
中公文庫刊

(705円+税)



2011/08/21



amazon.co.jp

凶悪な児童誘拐事件、その後の残虐とも言える経過と、これまででも充分ショッキングな展開でしたけれど、本巻でこんな展開が繰り広げられるとは。
第1巻を読んだ時に想像が付く筈もない、まさに空前絶後の展開と言うに相応しい。

一体これからどうなるのか。
事件の命運を最後に握ったのが
門倉美咲伊崎基子の2人+ジウという点では、3巻に及ぶ本サスペンスの中心軸はいささかもブレていない、と言うべきなのでしょう。

犯人と心を通い合わせられたら、と願う心優しき女=美咲。
それと対照的に、相手を叩き潰すことだけに喜びを見出す闘争本能そのままの女=
基子
とはいえ、最終的に事件を解決に導いたのが、美咲や基子が思いもしなかったジウの基子に対する感情だったという帰結は、唐突と言うべきか、それともお見事と言うべきなのでしょうか。

振り返ってみると、巻を追うごとにストーリィは益々スケールアップ、限界というものは鼻から考えていない、という風。
とくに基子、究極まで突っ走ったという観があります。

第1巻では想像もつかなかった物語が3巻を通じて展開されます。その間、緊迫感が薄れることは一時も無し。
息もつかせぬスピーディな展開、スリリングさ、アクション、スケールの大きさと、まさに読み応えたっぷり。
警察サスペンスとして一級品の面白さであること、疑いなし。

     

6.

●「ストロベリーナイト Strawberry Night」● ★★


ストロベリーナイト画像

2006
02月
光文社刊
(1600円+税)

2008年09月
光文社文庫化



2009/09/26



amazon.co.jp

ノンキャリアにしては異例の27歳で警部補に昇進、現在は警視庁捜査一課で殺人犯捜査係の主任警部補、という姫川玲子を主人公としたハードボイルド、第1作。

何といっても主人公、姫川玲子のキャラクターが魅力、というに尽きます。
異例の早さで昇進した負けん気の強さ、捜査能力、勘の鋭さはともかくとして、どこかに女性の弱さも隠しているという人物造形がお見事。
それは、玲子自身が過去に巻き込まれた事件とも関係しているらしい。警察組織を背に置いているという現在のポジションが、今の玲子を支えている。その事情とは何か。
それはともかくとして、年上の刑事も含め、姫川班の部下4名をチームワーク良く率いる面がある一方で、何となく4名から守られているという風も感じられる。それもまた、この主人公の人間的魅力を表しているようで楽しい。

事件は、溜池近くでブルーシートに包まれた惨殺死体が発見されたところから始まります。
捜査開始からまもなく、玲子独特の勘と発想力によって、事件は連続殺人の可能性を見せ始める。
そして、部下刑事が行き当たった“ストロベリーナイト”という言葉。
事件そのものだけでなく、捜査本部内での手柄争いも熾烈。
緊張感途切れることなくスピーディに、そして容赦なく展開していく捜査ストーリィは、存分な読み応えです。

最後は思いがけない結末となりましたが、それもかえって姫川玲子の魅力を高めたと言うべきでしょう。おかげで本シリーズの他の作品にも興味が湧きました。いずれ読んでみたいと思います。

  

7.

●「ソウルケイジ Soul Cage」● ★☆


ソウルケイジ画像

2007
03月
光文社刊

(1600円+税)

2009年10月
光文社文庫化



2009/10/31



amazon.co.jp

ストロベリーナイトに続く姫川玲子シリーズ、第2弾。
捜査陣の主要な面々は前作に引き続き(あのお調子者刑事=井岡まで)ですから、読み易いです、スイスイ読めました。

多摩川土手に乗り捨てられていた車から、血塗れの手首が発見される。一方、勤務先である工務店のガレージが血の海となっているという若い従業員から通報があり、被害者はその工務店主に間違いないと判断された。
残る遺体は発見されていないものの、殺人事件として捜査本部が蒲田署に設置され、日下班と共に姫川班が出動を命じられます。
早速聞き込み捜査を始めたところ、被害者の関係者周辺から思わぬ事実が浮かび上がってきます。
それは、若い従業員とそのガールフレンドの父親が共に、昔、最近という時期の違いはあれど、建設現場での転落事故で死亡していること。果たしてそれらの事実は、殺人事件と何か関わりがあるのか・・・・。
事件の背景には、予想もできない深い事情が隠されていた。捜査が進むに連れ、その事情が明らかになっていきますが、驚きや感動はそれ程ありません。というのは、小杉健治作品でそうしたヒューマン・ドラマは充分味わってきたから。また、本作品自体も警察による捜査という視点を踏み外すことがないから。

むしろ私にとって本書の面白さは、姫川玲子がやたら嫌う同じ捜査係の主任である日下警部補にありました。
その日下、何故予断を徹底して嫌うのか、自分を敵視する姫川玲子をどう見ているのか、何を気にしているのか。
それらがまた、姫川玲子のキャラクターを際立たせ、ひいては本書にスピーディな面白さをもたらせています。
安心して楽しめる、女性警部ものミステリ。

乃南アサ「風の墓碑銘等に登場する女性刑事=音道貴子がしぶとく追求を極めるタイプであるのに対し、姫川玲子は軽々と発想を飛ばして、ヒラメキで勝負するタイプのようです。
それもまた、楽しきかな。

  

8.

●「シンメトリー SYMMETRY」● ★★


シンメトリー画像

2008
02月
光文社刊
(1500円+税)

2011年02月
光文社文庫化



2009/11/01



amazon.co.jp

“姫川玲子”シリーズ、第3弾。今回は短篇集。

前2作が重厚な長篇ミステリ。そこで短篇集ですから、軽い小事件の羅列かと思って読み始めたところ、とんでもない面白さに気がつきました。
それは、各篇で事件を追う主人公、
姫川玲子のいろいろな面が描き出されていること。

・ヒラメキで突っ走ってしまうのは新米刑事だった頃から変わらることない、玲子のキャラクター。
・相手を脅し叩き潰すような、姫川玲子の迫力ある尋問+可愛げのあるところ。
・上記場面からは考えられない、茶目っ気あるところ。
・先輩女性刑事を押し退けてホシを上げた気の強さ。
 でも、玲子は「コロシ」好き?

警視庁捜査一課十係で4人の部下を率いる主任警部補の姫川玲子(30歳)が主人公となるのが5篇。
それに加えて、巡査刑事時代(25歳)、巡査部長時代(26歳)の事件を回想する各1篇、という構成の短篇集。
中でも、生意気な女子高生相手に一歩も引かず徹底的に叩きのめす、迫力満点の姫川玲子を描く「右では殴らない」、何としても自分の手でホシを挙げ手柄を上げたいと、負けん気の強さは天下一品を示す「手紙」が、圧巻の面白さです。
姫川玲子、好きだなぁ。

東京/過ぎた正義/右では殴らない/シンメトリー/左から見た場合/悪しき実/手紙

        

9.

●「武士道シックスティーン」● ★★


武士道シックスティーン画像

2007年07月
文芸春秋刊
(1476円+税)

2010年02月
文春文庫化



2007/08/07



amazon.co.jp

自分でスポーツをやることは苦手。だからこそ青春スポーツ小説が好きという訳なのですが、そんな学園スポーツものの中でも本書はとりわけ楽しい一冊。
本屋大賞受賞の一瞬の風になれをはじめ、このところ陸上スポーツもの全盛ですが、本書は高校の女子剣道部が舞台。
片や武蔵オタクで勝ち負け至上主義の“剛”=磯山香織。片や剣道が好き、楽しみたいという“柔”=西荻早苗

この2人のそもそもの出会いは、剣道の市民大会に出場した香織が、何の実績もない早苗に一本負けしてしまうところから。
そして2人は、進学した高校で同じ剣道部員と相成ります。
本書は、この対照的な2人が交互に第一人称の主人公を務める、学園ものスポーツ小説です。

交互に語ると言ってしまえば簡単ですが、剛の香織と柔の早苗ですから、語り口からして対照的。
とかく好戦的かつ時代錯誤的兵法者気取りの香織に対し、日本舞踊をやっていたという早苗はやたら気が良くてのんびり者。
ですから、なおのこと香織は早苗に対して苛立つのですが、一方の早苗は香織の強さに素直に感心している。
この2人の対照的な人物造詣、そしてやり取りがことのほか楽しい。
最初はコチコチ兵法者の香織よりノホホンとしている早苗の方が良いナァと思っていたら、迷い始めた香織がとことん弱さをさらけ出すと香織の方が魅力ある主人公に見えてくる。
はたまた、最後香織にシゴかれた所為か早苗が意外としたたかな性格を見せ始めると、やっぱり主人公は早苗の方が魅力的と思えてくる。要はその繰返しで、尽きることなさそうです。
それぐらい、対照的な2人からなるこの学園ものスポーツ小説は楽しい。
明るく、爽やかな、青春スポーツ小説がお好きな方には、是非お薦めの一冊です。

※ 映画化 → 「武士道シックスティーン

        

10.

●「武士道セブンティーン」● ★★


武士道セブンティーン画像

2008年07月
文芸春秋刊
(1476円+税)

2011年02月
文春文庫化



2008/07/27



amazon.co.jp

“武士道”シリーズ、第2作目。
前書では、剛の磯山香織と柔の西荻早苗(本書では甲本早苗)という対称的なキャラクターが剣道を間に絡み合うストーリィがとても魅力たっぷりだったのですが、本書では2人が横浜と福岡に分かれてしまったことから、前書のような面白さは残念ながら味わえず。

ストーリィは、香織が孤高から脱して東松学園女子剣道部のために奮闘する一方、全国大会常連・福岡南高校の剣道部に入部した早苗は福岡南の目指す剣道に相容れないものを感じて悩む、という展開。
前書と同様、香織と早苗が交互に第一人称の主人公としてストーリィは綴られていきます。

本作品の魅力は、女子高校生、青春と剣道とのアンマッチ、それに増す女子高生と“武士道”のアンマッチさにあります。
実は本書で早苗が悩むことになるのも、スポーツ競技としての剣道と、武士道の延長にある剣道との違い。
2つの間にどんな違いがあるのか。そこが「シックスティーン」からステップアップした本ストーリィの肝心要なところ。
そんな抽象論は別にしても、剣道の試合における駆け引き、剣豪小説における斬り合いを彷彿させる臨場感があって、読み応えあります。
なお、本書だけを取上げるなら、前書に比べて少し物足りないところがあるのですが、「シックスティーン」「セブンティーン」2冊を通じての“女子高生+武士道追求”物語として受け留めれば、とても楽しい、秀逸な青春物語。

   

11.

●「武士道エイティーン」● ★★


武士道エイティーン画像

2009年07月
文芸春秋刊
(1476円+税)

2012年02月
文春文庫化



2009/08/20



amazon.co.jp

“武士道”シリーズ、第3作目。
剛の磯山香織と対照的な柔の甲本早苗、その2人が共に目指す現代にあっての武士道とは・・・。そこが本シリーズの魅力だったのですが、その点に関しては前2作で既に完結していたと言えそうです。
したがって、その点からするとこの第3作は、プロ野球でいう優勝チーム決定後の消化試合のようなもの。
香織、早苗とも3年生。高校最後となるインターハイに、各々東松学園、福岡南の選手として出場、覇権を競います。
もちろん、香織と黒岩伶那の、因縁の再対決も盛り込まれています。
ただし、単に勝ち負けではない。そこから既に一段上がった、武者ではなく武士として成長した香織の姿が見られるのが嬉しい。
そしてインターハイ後は、今後の進路に向けて2人が各々迷う姿を描くストーリィ。

香織や早苗のストーリィだけでなく、合い間に2人の周辺人物のエピソードを描く4短篇が織り込まれているのが、本巻の特徴。
最初は、折角の香織と早苗のストーリィの興を削ぐのではないかと思いましたが、全て読み終わった後で思うと、4篇も含むからこその楽しさ、と判ります。
各篇の主人公は、早苗の姉=西荻緑子、香織が敬愛する剣の師=桐谷玄明、福岡南剣道部の顧問教師=吉野正治、香織を敬慕する1年後輩の田原美緒
この4人についても各々の高校時代を中心として描かれます。
ちょうど香織、早苗とシンクロする形になっているのが良い。

何だかんだと言いつつも、香織のユニークさ、早苗のボケ、そして高校女子剣道部を舞台にした爽やかなストーリィ。
前2作と同様、やはり楽しいです。

主ストーリィ+挿入4篇(バスと歩道橋と留守電メッセージ/兄、桐谷隆明/実録・百道浜決戦/シュハリ!)

              

誉田哲也作品のページ No.2    誉田哲也作品のページ No.3

誉田哲也作品のページ No.4 へ   誉田哲也作品のページ No.5

     


  

to Top Page     to 国内作家 Index