まずは、芥川賞候補作になった表題作「うちに帰ろう」。
娘の未来が生まれて共稼ぎは無理、妻である沙織の勤務先の方が福利厚生もきちんとしていて有望だからと、主人公が会社を辞めて専業主夫となる。
娘の世話、炊事・洗濯等々きちんとこなすものの、苦労したのは公園デビュー。やっとママさん仲間に入れてもらえたというものの、肝心なところではやはり仲間外れという微妙な位置。
ある日、同じように微妙な位置にいる公園仲間=美和さんのボヤキ話に付き合っていたところ、ふとした発言が災いとなって一緒に心中してと迫られ、断るに断れない状況に追い込まれる、というのが本書ストーリィ。
幼い娘を慈しみ、娘からも妻以上に慕われ、着実に主夫業をこなしていても、結局はママさんあるいは女性たちの輪に加わることはできないのだという現実が、可笑しくもありほろ苦くもあり、秀逸です。
主夫の孤独さが、ひしひしと主人公の姿から伝わってくる気がします。(苦笑)
世の中に正解などない、というのが本書読了後に感じた思い。
「シレーヌと海老」は、生まれた町で両親が営む冴えない天麩羅屋を手伝っていた主人公が、小学生の息子を連れて長距離ドライブ、現在は川崎に住む年上の幼馴染を訪ねていくというストーリィ。
大人になっても、どこに現在住んでいようと、故郷の町アノムラの感覚から抜け出ていない、少しも成長していないという風な主人公たちの姿がいささか滑稽であると同時に、何となく懐かしく思われます。
うちに帰ろう/シレーヌと海老
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