ヒキタクニオ作品のページ


1961年福岡県福岡市生。小説家、イラストレーター、マルチメディア・クリエーター。「日本グラフィック展」「ザ・チョイス大賞展」「日本オブジェ展」「オブジェTOKYO展」企業協賛賞等、数多くの賞を受賞。CD-ROM製作にも進出。


1.鳶がクルリと

2.ベリィ・タルト

 


 

1.

●「鳶がクルリと」● ★★




2002年1月
新潮社刊

(1700円+税)

2005年9月
新潮文庫化
(620円+税)

 

2002/03/05

一流会社の総合職OLだった貴奈子が主人公。上司のふと洩らした一言で会社生活に嫌気がさし、あっさり退職。そして再就職した先は、それまでの会社生活とまるで畑違いの、叔父・勇介が経営する鳶職の会社「日本晴れ」。
粋と見栄を大事にする鳶職の世界に入り込んだ貴奈子の体験録、というのが本書ストーリィです。
そう聞くと、異文化体験をベースにしたユーモア小説のように受け留められそうですが、(そうした面白さはあるにしろ)本作品の本質はまるで違うのです。さしづめ、現代社会への鋭い風刺、痛切な批判を内に詰め込んだ作品。

鳶のメンバーはそれぞれ個性豊かですが、それ以上に彼らの会話が突き抜けてユニーク。
名門高校への受験を失敗して鳶職になったは、学校名とその偏差値を用いて何でも表現するのが癖。
一方、風太雷太は、アメリカへの再戦争においてはゴルバチョフを担ぎ出そうとか、いつも戦略論議を繰り広げている双子の兄弟。冗談ごとのようですが、ベトナム、ソマリアというアメリカの失敗戦争に対する原因分析は極めて秀逸、目を見張るものがあります。

究極は、仕事とは、会社とはどうあるべきか、というのがヒキタさんの追求するところ。
貴奈子ならずとも、サラリーマン社会における評価基準がいかに馬鹿らしいものであるか、虚構性に充ちたのものであるか、つくづく感じざるを得ません。
勇介の目標は、会社のユートビアを作ること。その主張がそのまま本作品の本質であると言えます。
登場人物は皆個性的な人物ばかりですが、その中でも特に光っているのが少女のツミ。貴奈子とは対照的な存在です。
あとは、実際に読んでみてのお楽しみ。

  ※映画化 → 「鳶がクルリと」   

 

2.

●「ベリィ・タルト」● ★★




2002年5月
文芸春秋刊

(1524円+税)

2005年6月
文春文庫化

 
2002/06/27

元ヤクザの芸能プロ・関永と、彼にスカウトされてアイドルを目指す美少女リンの物語。
本書題名は、アイドルはカスタードクリームの海に身を沈みかけたベリィ、その周囲の硬く焼き上げられたパイ生地をヤクザに見立てた故のものだそうです。

新たなアイドルが誕生するストーリィとなれば、そこに周囲との葛藤・摩擦が生じるのは当然のことでしょうけれど、本作品の場合はもっと凄い! そこはヒキタ作品らしく、芸能界の争いというより、その背後に控える暴力団の抗争というに近い。
小林信彦さんにも「極東セレナーデ」という、新たなアイドルを生み出そうとしながら大手プロの妨害によって挫折するという小説がありましたが、それと似たストーリィ。
しかし、小林作品が現代および芸能界へのパロディ・風刺を主としていたのに対し、本作品は芸能界が表面上な綺麗さとまるで異なり、その根底は非常にギトギトした世界であることを強調して描いた点に特徴があります。
半ばヤクザ小説のような、スリリングでスピーディな展開が面白い。理屈抜きで惹きこまれます。

  


  

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