初野 晴
(せい)作品のページ


1973年静岡県生、法政大学工学部卒。2002年「水の時計」にて第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞し作家デビュー。


1.
退出ゲーム
−"ハルチカ"シリーズNo.1−

2.初恋ソムリエ−"ハルチカ"シリーズNo.2−

3.空想オルガン−"ハルチカ"シリーズNo.3−

4.千年ジュリエット−"ハルチカ"シリーズNo.4−

5.惑星カロン−"ハルチカ"シリーズNo.5−

6.ひとり吹奏楽部−"ハルチカ"シリーズ番外編−

  


    

1.

●「退出ゲーム」● ★★


退出ゲーム画像

2008年10月
角川書店刊
(1500円+税)

2010年07月
角川文庫化

     

2008/12/04

 

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高校を舞台にした連作もの青春ミステリ。
共に弱小吹奏楽部に所属する、幼馴染のチカハルタの2人が主役。チカは語り手となって狂言回しの役回り。そしてハルタが謎解き役、という次第。
そして2人の背後には、新人教師ながら生徒からの人気・信頼感絶大な吹奏楽部顧問=草壁先生が控える、という顔ぶれ。
弱小吹奏楽部のメンバーを何とか有望な新メンバーを加えようというハルタの奮闘に、何故かミステリが付きまとう、という趣向が楽しめます。

主要キャラクターの個性がはっきりしていて、小気味良いテンポでストーリィが進む。したがって気持ち良く読めるのですが、3人のキャラクターが際立ち過ぎているという観があって、それ故にストーリィ展開にやや強引な印象が残ります。その点がちと惜しまれるところ。
冒頭に登場したときの印象から打って変わり、ハルタはスーパー高校生ぶりを発揮しますし、草壁先生はまるで神の如くあって現実感に欠けます。
まぁ、小気味良さとスーパー探偵ぶりは裏表の関係にある、とも言えますが。

・「結晶泥棒」は学園ミステリとしてまずまず。導入部となる冒頭を飾るには相応しく、軽快な篇。
・「クロスキューブ」は、キュービックパズルの正解をどうやって見つけるかという、素材の面白さが際立つ篇。
・「退出ゲーム」は日本本推理作家協会賞・短編部門候補作となった作品だけに、お見事!
ただし、演劇部と吹奏楽部が争う“退出ゲーム”という即興劇による勝負自体が面白く、謎そのものはもはやストーリィの経緯説明に過ぎないというもので、これをミステリと言ってよいのかどうか。ただその真相、ショックを受ける事実ではありますが。
「エレファンツ・ブレス」、これもまたミステリとしては少々飛躍気味。

全体として、スピーディで小気味良く、それなりに楽しめる青春ミステリであることは間違いありません。

結晶泥棒/クロスキューブ/退出ゲーム/エレファンツ・ブレス

    

2.

●「初恋ソムリエ」● ★★


初恋ソムリエ画像

2009年10月
角川書店刊
(1600円+税)

2011年07月
角川文庫化

 

2009/10/24

 

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退出ゲーム続編となる、高校青春+ミステリもの連作短篇小説。
前作では「退出ゲーム」の奇抜さに目を惹かれたのが、最終的に★2つ評価に繋がったという状況だったので、その続編となる本書、どうかなぁと思ったのですが、予想外に面白かった。

高校の弱小吹奏楽部に所属する穂村千夏(チカ)と、その幼馴染である上条春太(ハルタ)、吹奏楽部の甲子園と評される「普門館」出場を目指して、新入部員募集に躍起となっているところ。
その過程で、有力候補者から入部応諾を勝ち取るため、彼らの抱える難問を2人が解決する必要に迫られます。
そんな趣向で繰り広げられる、4篇。

学園青春もの、という点では物足りないところ多々あると思います。一方、ミステリという点でもやはり今一歩。
ところがその2つの要素が見事に溶け合うと、極上の楽しさを味わわせてくれる青春ミステリの逸品になるのですから、あら不思議。
前作ではハルタの推理が見もので、チカはワトソン役という印象でしたが、本書ではチカの突進力あってこその面白さではないかと、考えを改めた次第。
また、そんなチカの存在があればこそ、チカやハルタに勝れども劣らない個性的な生徒たちも登場しえたのではないか、という気がします。

「スプリングラフィ」は、プロのクラリネット奏者を目指している筈の芹澤直子は、何故吹奏楽部の部室を朝早く覗いていたのか。
「周波数は77.4MHz」は、吹奏楽部の予算を勝ち取るため、チカは地学研究会の部長=麻生美里を捕まえねばならぬことに。
「アスモデウスの視線」は、名門・藤が咲高校吹奏楽部の顧問=堺先生が何故自宅謹慎を命じられることになったのか。そのヘルプに応じたが故に過労で倒れた草壁先生のため、チカとハルタ+檜山界雄が藤が咲高校への潜入捜査を実行。
「初恋ソムリエ」は、芹澤直子の叔母のため、その初恋に隠された謎を初恋研究会の朝霧亨とハルタたちが解き放つ、というストーリィ。

スプリングラフィ/周波数は77.4MHz/アスモデウスの視線/初恋ソムリエ

 

3.

●「空想オルガン」● ★☆


空想オルガン画像

2010年08月
角川書店刊

(1500円+税)

2012年07月
角川文庫化

 

2010/09/19

 

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高校の弱小吹奏楽部を舞台にした青春ミステリ、“ハルチカ”シリーズ第3弾。

主人公の“ハルチカ”こと穂村千夏(チカ)&その幼馴染=上条春太(ハルタ)、指揮者としての将来を嘱望されていたという顧問の草壁信二郎先生に、オーボエ奏者の成島美代子、サックス奏者のマレン・セイ、打楽器奏者の檜山界雄が吹奏楽部に加わった他、クラリネットのプロ奏者志望にてアンチ吹奏楽部という芹澤直子も仲間に加わり、高校青春ミステリという舞台設定はすっかり整った観のあるこの本書ですが、肝心のハルタの推理に小気味良さが感じられないのが残念なところ。

本書で、清水南高校吹奏楽部はいよいよ小編成B部門のコンクールに出場。地区大会、県大会、東海大会へと、各篇ごと順調にハルチカたちが勝ち上がっていく様子が描かれます。
その分、ミステリ舞台は高校の外に広がることとなり、高校青春ミステリという味わいがやや欠けた観あり。その点もやや残念なところ。

「ジャバウォックの鑑札」は、地区大会の最中迷子の犬を見つけた春太、飼い主だと名乗り出た2人を前にどう解決するか。
「ヴァナキュラー・モダニズム」は、住む処を失った春太の新アパート確保のため、候補アパートの謎を春太たちが解決?
 ※攻撃的性格が光る、春太の長姉=南風がゲスト出演。
「十の秘密」は、県大会における強敵=清新女子高吹奏楽部の厳しい規律の裏に隠された秘密を、春太が解き明かす篇。
「空想オルガン」の舞台は東海大会。ハルチカとも関わりのある人物の謎が明かされる篇。ただし、釈然とせず。
なお、4篇共、冒頭のある人物の語りが、ミステリを解く鍵になっているところがミソ。

序奏/ジャバウォックの鑑札/ヴァナキュラー・モダニズム/十の秘密/空想オルガン

      

4.

●「千年ジュリエット」● ★☆


千年ジュリエット画像

2012年03月
角川書店刊
(1700円+税)

2013年11月
角川文庫化

  

2012/04/18

  

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高校吹奏楽部を舞台にした青春ミステリ、“ハルチカ”シリーズ第4弾。
私の好きなシリーズですが、部員集めにミステリが絡んだ第1・2巻と比べると、主要メンバーが揃ってしまった後はどうもストーリィがマンネリ化してきた、という印象がぬぐえません。
本巻では、
穂村千夏、上条春太らが通う清水南高校の文化祭“南陵祭”が舞台。これまでの3巻に登場した各部、変わり種の部長たちが相次いで再登場、清水南校の変人奇人勢揃い、といった観があります。

「エデンの谷」は、南高に突如現れたスナフキン、いや吹奏楽部顧問である草壁先生の恩師であった名フルート奏者=山辺富士彦の孫娘、山辺真琴に仕掛けられた謎をハルタらが解く、というストーリィ。
「失踪ヘビーロッカー」は、アメリカ民謡部部長でハードロッカーの甲田が南高の周囲をタクシーでぐるぐる回り続け、折角のひのき舞台なのに何故現れないのか、という謎。
「決闘戯曲」は、自分の先祖が当事者となった決闘伝説を戯曲に書いた演劇部の大塚が失踪、結末が判らず頭を抱え込む部長の名越にハル&チカ2人も巻き込まれて、という事件。

・最後を飾る表題作「千年ジュリエット」は他の3篇と趣向をちと異にし、南高の生徒以外を主役に据えたストーリィ。それでもハルタやチカらと相通じるものがあるのは、やはり青春ストーリィの故でしょうか。
※題名にある「ジュリエット」とは、ヴェローナの
ジュリエットの秘書から。 

イントロダクション/エデンの谷/失踪ヘビーロッカー/決闘戯曲/千年ジュリエット

         

5.
「惑星カロン ★☆


惑星カロン

2015年09月
角川書店刊
(1800円+税)

 


2015/10/30

 


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高校吹奏楽部を舞台にした青春ミステリ、“ハルチカ”シリーズ第5弾。
前作で語られた清水南高校の文化祭、その後の物語とのこと。

前作でも感じたことですが、3年生が引退し
マレン・セイが吹奏楽部新部長になったという変化はあるものの、主要メンバーが揃ってしまった以降ストーリィがマンネリ化しているという印象は本巻においても拭えません。
またストーリィ自体も、吹奏楽部の活動から少々外れてしまっているのではないか。
その分、主人公である
チカこと穂村千夏とその幼馴染で吹奏楽部の仲間でもあるハルタこと上条春太とのやり取りは、まるで漫才並に可笑しく楽しいのですが、これがシリーズ第一の面白さになってしまっては本末転倒と思う次第です。

「チェーリーニの祝宴」:チカが見つけた“呪いのフルート”の謎は?
「ヴァルプルギスの夜」:藤が崎高校吹奏楽部の岩崎部長から請われ、山辺真琴とハルタらが謎解きに挑みます。
「理由ありの旧校舎」:旧校舎全開事件とは?
「惑星カロン」:2つのストーリィが並行して走り始めるばかりか、ストーリィ自体も謎が多く複雑。本書4篇の中ではもっとも本格的ミステリと思いますが、ムリ押しの印象も強し。

※なお、
“カロン”は冥王星の衛星で、冥王星と二重惑星視されることもある星。したがって“惑星カロン”はありえないのですが、それもストーリィの一端。

イントロダクション/チェリーニの祝宴−呪いの正体−/ヴァルプルギスの夜−音楽暗号−/理由ありの旧校舎−学園密室?−/惑星カロン−人物消失−

      

6.

「ひとり吹奏楽部−ハルチカ番外篇− ★☆




2017年02月
角川文庫刊

(600円+税)



2017/03/20



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上条春太と穂村千夏以外の清水南高校吹奏楽部の面々を描く、“ハルチカ”シリーズ番外編、文庫書下ろし。

こうした場合、各篇で一人一人を描くのが一般的ですが、本書では各篇で部員2人を絡ませ一組にして描いているところが妙。
もっともそうしないと全員登場させられないという面がなくもないのかもしれませんが。

各篇、部員一人一人の個性がはっきり出ていますが、ストーリィとしてはそれ程面白いと思うことはなかった、というのが正直な感想。
「ポチ犯科帳」は、元気印の1年、後藤朱里の強引さが目立つ篇。コミカルではありますが。
「風変わりな再会の集い」は、たまたまの事情により、駄菓子屋で店主である老婆が帰ってくるまで一緒に店番をせざる得なくなった芹澤直子と元部長の片桐圭介との間で交わされる、熾烈で遠慮ないやりとりが楽しめます。

・表題作である
「ひとり吹奏楽部」成島美代子が、部員が事実上たった一人となった頃に思いを馳せる篇。私としては本書4篇の中で、唯一惹かれた篇です。

ポチ犯科帳−檜山界雄X後藤朱里−
風変わりな再会の集い−芹澤直子X片桐圭介−
掌編:穂村千夏は戯曲の没ネタを回収する
巡るピクトグラム−マレン・セイX名越俊也−
ひとり吹奏楽部−成島美代子X???ー

   


  

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