濱 嘉之作品のページ


1957年福岡県生、中央大学法学部法律学科卒。警視庁入庁後、警備部、公安部、内閣官房等に勤務。20007年「警視庁情報官」にて作家デビュー。他の作品に「公安特命捜査−警視庁情報官2」、「電子の標的−警視庁特命捜査官・藤江康央」あり。

  


 

●「世田谷駐在刑事」● ★★




2010年06月
講談社刊
(1700円+税)

 

2010/07/27

  

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主人公は小林健(たけし)警視庁山手西警察署学園前駐在所に勤務する警部補、41歳。
駐在所、駐在所のおまわりさん・・・家族で駐在所に住み、奥さんも警察官である旦那さんの仕事をサポートする(但し、その分の月額手当は僅か3千円なのだそうです)。過疎地や山間部ならともかく、都会にもあるとは知りませんでした。

小林警部補、実は組織犯罪対策のベテランで、「鬼コバ」として暴力団連中にもその名をよく知られているという刑事。それなのに駐在所勤務というのは、思うところあって本人自らが希望したため。
しかし、主人公を全国指導官に任命した警察庁が黙っておらず、その結果として地域課配下の駐在所勤務の一方、組織犯罪課の係長を兼務するという特例的な人事となった。「駐在刑事」という異名を主人公がとったのは、そうした経緯から。というのが、本ストーリィの前提です。

地域に親しみ地域の安全に尽くすお巡りさんと、犯罪捜査を担う刑事を兼ねる特例的な存在という主人公の設定に、本書の面白さがあります。
つまり、どの事件も、住民側(地域)と警察側(本部)両方の視点から見る、という点がまず面白い。
また、警視庁勤務の経験ある作者だからでしょうか、ストーリィ過程で警察の内情も具体的に描かれ、他の警察小説では中々窺い知ることのできない現実的な面を窺い知ることができる、という点も得難い魅力です。
その一つの実例として、能力がないのに幹部の地位にあるというケース、そしてそれは捜査の阻害要因に他ならないというのは、警察組織も世間と同じ。そこまで踏み込んで書いている点を評価したい。
そんな主人公の家族は、元女性警官である妻の陽子と息子の修平4歳。駐在所だからこそ2人も頻繁に顔を覗かせる、家族という良さが描かれている点も、本書魅力のひとつです。
犯罪の防止も事件解決もまずは地域重視からというメッセージと共に、警察業務の実感が味わえる、一味違った警察小説、

プロローグ(暴力団事件1)/地域課と刑事/マル暴担当刑事/駐在刑事/未解決事件/駐在業務/組織犯罪対策/暴力団事件2/事件の解決

※1990年代後半より都市部でも治安対策の一環として駐在所が設けられるケースがあり、現在東京23区内には59か所の駐在所があるとのこと。

 


  

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